緒方正規

緒方正規：日本の衛生学・細菌学の先駆者

緒方正規（おがた まさのり）は、嘉永6年（1853年）に肥後国で生まれ、明治から大正にかけて活躍した日本の衛生学者、細菌学者です。東京帝国大学医科大学の学長や教授を歴任し、日本の衛生学、細菌学の基礎を確立しました。

生涯

熊本藩医の子として生まれた緒方は、古城医学校を経て1880年に東京大学医学部を卒業しました。その後、ドイツに留学し、ミュンヘン大学で衛生学を、ベルリン大学で細菌学を学びました。特にベルリン大学では、ロベルト・コッホの弟子であるフリードリヒ・レフラーに師事し、細菌学の最先端を学びました。

1884年に帰国した緒方は、東京大学医学部の衛生学教室に着任するとともに、内務省衛生試験所に細菌室を創設しました。彼は、北里柴三郎にドイツ留学を勧め、レフラーへの紹介状を書くなど、日本の細菌学発展に貢献しました。

1885年には脚気の病原菌を発見したと発表しましたが、北里柴三郎によって実験の不備を指摘され、発見は否定されました。この一件は、二人の間に確執があったという誤解を生むことにもなりましたが、実際には二人は同郷の学友として交流を続けていました。

1896年、台湾でペストが流行した際には現地調査を行い、ペスト菌に関する北里の研究の誤りを指摘しました。北里が単離したと考えていた菌にはペスト菌を含む2種類の菌が含まれており、緒方はこの誤りを明らかにし、ペストの感染経路がネズミのノミであることを証明しました。この業績は、ドイツの専門誌にも掲載されました。

1898年に東京帝国大学医科大学の学長に就任。東京学士会院会員や日本医学会総会会頭などを歴任しました。

1919年、食道癌で静養中に気管支・肺に転移し、肺壊疽も併発して死去しました。墓所は染井霊園にあり、故郷には記念碑が建てられています。

業績

緒方正規は、日本における衛生学と細菌学の基礎を築いただけでなく、感染症対策にも大きく貢献しました。ペストの研究では、感染経路の解明や北里の研究の誤りを指摘するなど、その功績は多岐にわたります。また、多くの後進を育成し、日本の医学界の発展に大きく寄与しました。

北里柴三郎との関係

緒方と北里は、脚気やペスト菌、赤痢菌の病原をめぐって意見が対立することがあり、不仲であったという印象を持たれがちですが、実際には同郷の学友として親しい関係を保っていました。歓迎会での緒方の発言や、緒方の在職25年祝賀会での北里の祝辞、さらにはお互いの家を訪問するなどの交流があったことが記録に残っています。緒方の臨終の前日には北里が立ち会い、葬儀では弔辞を述べています。これらは、二人の友情を示す証左と言えるでしょう。

家族

妻のエツは石原豊貫の次女で、長男の規雄は細菌学者、次男の益雄は衛生学者です。寄生虫学者の佐々学は孫、薬理学者の橋本敬太郎は曾孫にあたります。

栄典

緒方正規は、その功績により、多数の位階や勲章を授与されています。

1886年（明治19年）7月8日 - 従六位
1897年（明治30年）10月30日 - 正五位
1901年（明治34年）3月20日 - 従四位
1911年（明治44年）6月20日 - 従三位
1919年（大正8年）7月31日 - 正三位
1901年（明治34年）12月27日 - 勲三等瑞宝章
1908年（明治41年）12月25日 - 勲二等瑞宝章
1915年（大正4年）11月10日 - 大礼記念章
1919年（大正8年）2月27日 - 勲一等瑞宝章
1919年（大正8年）7月31日 - 旭日大綬章

緒方正規は、日本の医学界に多大な貢献をした偉大な科学者として、その名が永く記憶されるでしょう。

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