織田信恒

織田信恒

織田 信恒（おだ のぶつね）は、明治から昭和にかけて活躍した日本の政治家、実業家、そして漫画原作者です。子爵の爵位を持ち、織田 小星（おだ しょうせい）の筆名でも知られています。特に、日本で初めて漫画に吹き出しを本格的に導入したとされる代表作『正チャンの冒険』の原案と文章を手がけたことで、日本の漫画史に大きな足跡を残しました。

生い立ちと教育

明治22年（1889年）8月3日、織田信恒は東京府で誕生しました。父は元相馬中村藩主である子爵の相馬誠胤で、彼はその長男として生まれ、初めは相馬秀胤と名乗りました。その後、明治28年（1895年）6月には、元天童藩主の子爵・織田信敏の養嗣子となり、明治34年（1901年）7月1日、養父の死去に伴い織田家の家督を継いで子爵を襲爵しました。学習院高等科で学んだ後、大正4年（1915年）に京都帝国大学法科大学の政治学科を卒業し、日本銀行に入行しています。

キャリア初期と『正チャンの冒険』

日本銀行勤務中の大正9年（1920年）、織田信恒は商工業の視察のため欧米や中国を歴訪しました。特にヨーロッパ滞在中に目にした子供向けの新聞や雑誌に強い影響を受け、子供向けメディアの可能性に気づきます。帰国後、彼は日本銀行を退職し、大正11年（1922年）に朝日新聞社へ入社しました。童話作家の巖谷小波とかねてから温めていた子供新聞発行の構想について相談を重ね、巌谷の紹介で大正12年（1923年）にアサヒグラフ局員となります。そこで『日刊アサヒグラフ』の子供向けページを担当することになり、自身が企画したのが、記念碑的作品となる『正チャンの冒険』でした。この作品では、織田自身が「織田小星」の筆名で原作と文章を担当し、挿絵は樺島勝一が手がけました。同年から連載が開始された『正チャンの冒険』は、登場人物のセリフを吹き出しに入れるという、当時としては画期的な表現技法を本格的に使用したことで知られています。また、主人公の正ちゃんがかぶっていた三角帽「正チャン帽」は子供たちの間で大流行し、社会現象を巻き起こしました。この作品は、単なる子供向け漫画としてだけでなく、日本の漫画表現の進化に重要な役割を果たしました。

政治活動と実業家として

漫画原作者としての顔を持つ一方、織田信恒は政治家としても活動しました。大正期には、有馬頼寧や岡部長景らが主催する信愛会に参加し、労働者のための夜間学校である信愛中等夜学校の設立に関与しています。また、有馬や近衛文麿らが運営した新進の華族による会合「十一会」にも名を連ねました。大正15年（1926年）には鉄道大臣秘書官を務めています。昭和3年（1928年）7月26日には貴族院議員の補欠選挙で当選し、研究会に所属しました。彼は昭和22年（1947年）5月2日に貴族院が廃止されるまで、議員として活動を続けました。その間、濱口内閣では外務参与官、齋藤内閣では農林政務次官といった要職も歴任しています。

実業家としても幅広い分野で手腕を発揮しました。昭和12年（1937年）には硫安販売の取締役会長に就任したのをはじめ、静岡電気鉄道の社長、NHKの理事など、数多くの企業の要職を歴任しました。

戦後と晩年

第二次世界大戦後、昭和22年（1947年）に行われた第1回参議院議員通常選挙には、全国区から無所属で立候補しましたが、残念ながら当選は果たせませんでした。しかし、その後も社会との関わりを持ち続け、内閣の（旧）観光事業審議会委員や、京浜急行電鉄の取締役・監査役、京浜自動車工業の社長などを務めています。さらに、川崎さいか屋の取締役や、財団法人安達峰一郎記念館の理事長といった役職も歴任しました。

昭和42年（1967年）5月20日午後4時、織田信恒は心筋梗塞のため、東京都世田谷区代田の自宅で亡くなりました。享年77歳でした。その功績に対し、勲二等瑞宝章が授与されています。墓所は東京都文京区にある高林寺にあります。

政治、経済、文化という多岐にわたる分野で活躍した織田信恒は、特に「織田小星」としての漫画原作者の顔を通じて、日本の大衆文化史にも記憶される人物です。

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