織田勝長

織田勝長は、安土桃山時代に活躍した武将であり、織田信長の息子の一人です。彼の生涯は、戦国時代の複雑な政治情勢と、織田家、武田家という二つの有力な武家との関係の中で、翻弄されたものでした。勝長の幼名は御坊丸といい、『甲陽軍鑑』には勝長という名で記載されていますが、史料で確認できる実名は、津田源三郎、織田源三郎信房です。法名は林庭宗松とされています。

生い立ちと岩村城入府

勝長の生年は不明で、母親についても記録が残っていません。元亀3年（1572年）、美濃国岩村城の城主であった遠山景任が亡くなった後、勝長は遠山家の養子として迎えられ、岩村城に入府しました。遠山氏は、織田氏と武田氏の両方に服属するという複雑な立場にありましたが、景任の妻、おつやの方が織田信長の叔母であった関係から、遠山家は織田家寄りの家臣の意向で、信長の子を養子に迎えることになったのです。

武田氏との関係

しかし、同年11月、武田信玄が西上作戦を開始すると、武田家臣の秋山虎繁が信濃から美濃へ侵攻し、岩村城を包囲します。武田方を支持する家臣が呼応したため、岩村城は降伏。おつやの方は秋山虎繁を夫として迎え、幼い勝長を養育することを条件に武田方との和議が成立しました。これにより、勝長は人質として甲府に送られることとなります。

織田家への帰還と元服

勝長は武田家のもとで元服し、武田勝頼から一字を賜り「源三郎信房」を名乗ります。しかし、織田家と武田家の関係が悪化すると、勝長の身柄は再び織田家へと返還されました。天正9年（1581年）に織田家に帰還した後、織田家において「勝長」として元服し、源三郎と称したとされています。信長は勝長を尾張国犬山城の城主とし、彼に小袖、刀、鷹、馬、槍など多くの贈り物をしました。また、勝長の側近にもそれぞれ贈り物をしたと伝えられています。

甲州征伐と最期

天正10年（1582年）、織田・徳川連合軍による武田領への侵攻である甲州征伐では、勝長は総大将である兄の織田信忠に従い参陣します。上野国における武田氏残党の鎮圧に貢献し、安中七郎三郎の仲介で大戸浦野氏を服属させるなど、その武将としての能力を発揮しました。

しかし、同年6月、本能寺の変が発生し、勝長は長兄の信忠とともに二条新御所にいたところを明智光秀軍に襲撃されます。激戦の末、勝長は信忠と共に討ち死にしました。享年は不明ですが、20代であったと推定されています。

子孫

勝長には、長男の勝良がおり、織田信雄に仕えた後、加賀前田家に仕えました。その子孫も加賀藩に仕え、その血筋は現代にまで繋がっています。

関連作品

織田勝長は、その数奇な生涯から、多くの小説やテレビドラマで取り上げられています。

小説:
宮本昌孝著『最期の赤備え』（時代小説短編集『尼首二十万石』に収録）
河丸裕次郎著『新 織田戦記』（織田勝長を主人公とした仮想戦国シミュレーション小説）
伊東潤著『温もりいまだ冷めやらず』（『戦国鬼譚 惨』収録の短編）、『覇王の血』（『決戦!本能寺』収録の短編）

テレビドラマ:
NHK大河ドラマ『徳川家康』（1983年）
TBSドラマ『おんな風林火山』（1986年）

これらの作品を通じて、織田勝長の人生と、彼が生きた時代の歴史に触れることができます。

参考文献

丸島和洋「武田勝頼の外交政策」『武田勝頼のすべて』新人物往来社、2007年
丸島和洋「織田信房」「大竜寺麟岳」『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年
大日本人名辞書刊行会 編『大日本人名辞書』 大日本人名辞書刊行会、1926年
加藤護一 編『恵那郡史』恵那郡教育会、1926年
谷口克広; 高木昭作（監修）『織田信長家臣人名辞典』吉川弘文館、1995年
谷口克広「信長の兄弟と息子の出生順」『愛知県史のしおり』資料編11織豊1月報、2003年
平山優「織田源三郎信房について」『山梨県史だより』30号、2005年

織田勝長の生涯は、戦国時代の激動を象徴するものであり、多くの歴史研究者や作家によって様々な角度から語り継がれています。

もう一度検索