纒向型前方後円墳

纒向型前方後円墳とは

纒向型前方後円墳（まきむくがたぜんぽうこうえんふん）は、弥生時代終末期から古墳時代初頭にかけて出現した、前方後円形を呈する墳墓の一種です。この概念は、考古学者の寺沢薫氏によって提唱されました。寺沢氏は、従来弥生墳丘墓と見なされていた墳墓の中に、古墳の要素を持つものを積極的に評価し、それらを「纒向型前方後円墳」と名付けました。

概要

寺沢薫氏は、1988年に奈良県桜井市の纒向遺跡にある纒向石塚古墳や纒向矢塚古墳、千葉県市原市の神門4号墳・5号墳、福岡県小郡市の津古生掛古墳などを「纒向型前方後円墳」として抽出しました。これらの墳墓は、後の時代に定型化する前方後円墳の成立以前、あるいは成立期に、纒向遺跡との政治的・祭祀的関係のもとで成立したと考えられています。

これらの墳墓は、中国の尺度を用いた一定の規格と類型を持ち、関東地方から九州北部にかけて広く分布しています。また、畿内系の土器を伴うことが多く、墳丘の築造には、版築に近い手法が用いられているのが特徴です。前方部が低く短く、墳丘の全長と後円部・前方部の長さの比が3:2:1となる点も、この墳墓の重要な特徴です。

寺沢氏は、定型的な前方後円墳は、纒向型前方後円墳の成立以降に、その要素が大量化、巨大化し、隔絶性が整備されて成立したと主張しています。纒向古墳群に属する石塚古墳、矢塚古墳、勝山古墳、東田大塚古墳、ホケノ山[[古墳]]は、いずれも墳丘規模が90～100メートルで、前方部が短く、帆立貝のような形状をしているという共通点を持っています。

起源と発展

寺沢氏は、古墳時代の始まりを「纒向型前方後円墳の出現と、それを生み出した時代・社会の成立」と定義しました。その原型としては、兵庫県加古川市の西条52号墓を挙げています。西条52号墓は、円丘と突出部を持ち、弥生墳丘墓と前方後円墳の両方の要素を持つ墳墓であり、3世紀前半に築造されたと推定されています。

さらに、纒向型の源流は、2世紀末の楯築墳丘墓に見られる「円丘に3分の1大の明確な方形突出部」を持つ墳丘墓であるとしています。楯築墳丘墓は、特殊器台や特殊壺といった円筒埴輪の原型とされる遺物が出土しており、吉備地方の強い影響を受けていると考えられています。

寺沢氏の研究は、定型的な前方後円墳が突然出現したものではないことを示した重要なものとして高く評価されています。しかし、纒向型前方後円墳の成立を、定型的前方後円墳の成立よりも大きな画期とする考え方には、異論も存在します。

弥生墳丘墓と古墳のあいだ

古墳の定義としては、

高い墳丘を持つこと
様々な形式の棺と、それを囲む石室などがあること
各種の副葬品を持つこと
埋葬施設が墳頂からあまり深くない場所にあること

などが挙げられますが、近年の発掘調査の結果、弥生時代の墳丘墓もこれらの規定にほぼ当てはまることがわかってきました。

そのため、寺沢氏が提唱した纒向型前方後円墳を弥生墳丘墓に含めるのであれば、古墳の新たな定義が必要となります。

弥生時代の墓制は、地域によって多様な形態を持つ一方、古墳時代の墳墓は前方後円墳などの墳形に集約され、副葬品も全国的に画一化する傾向が見られます。このことから、弥生墳丘墓と前方後円墳の間には、政治的な隔絶した差異があると考えられます。

暦年代

纒向石塚古墳から出土した木材の年輪年代測定の結果、西暦177年が検出され、伐採年は200年を下らないと推定されています。纒向勝山古墳では西暦203年から211年、ホケノ山[[古墳]]では西暦55年から235年の数値が得られています。これらの結果から、纒向古墳群の3基は、2世紀後葉から3世紀前半に築造されたと推測されます。

分布と規模

纒向型前方後円墳は、関東地方から九州北部にかけて広く分布しており、その規模は、纒向の古墳を基準とした縮尺で築造されているものが多く見られます。これは、纒向を震源として、各地に広がったことを示唆しています。

纒向型から定型化へ

纒向型前方後円墳は、前方後円墳の始まりではなく、弥生墳丘墓の終末段階として捉えるべきだという意見も多く、寺沢氏の説は定説には至っていません。

寺沢氏は、纒向型前方後円墳が最も古く巨大であることから、その規格性が全国に広がったと主張しています。また、定型化に際しては、中国の「天円地方の思想」を受け入れつつ、北部九州や吉備など、各地の要素が総合された結果であると論じています。

寺沢氏の説は、初期ヤマト王権が、弥生時代の大和・畿内の勢力ではなく、西日本各地の部族的国家連合によって形成されたという見解を示唆しており、邪馬台国論争にも新たな視点を提供しています。

まとめ

纒向型前方後円墳は、弥生時代から古墳時代への移行期における重要な墳墓です。その特徴や分布、年代を研究することで、前方後円墳の成立過程や古代社会の構造を解明する上で重要な手がかりを得ることができます。

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