羅切

羅切（らせつ）とは

羅切とは、男性の外部生殖器、具体的には陰茎または陰茎と陰嚢を切り離す行為を指します。日本においては、単に陰茎のみを切断する場合と、陰嚢もろとも切断する場合を「羅切」と呼び、睾丸のみを摘出する去勢手術とは区別されます。

語源

「羅切」という言葉は、仏教の隠語に由来します。男性器や陰茎は、修行の妨げとなることから、インドの悪魔「マーラ」にちなんで「魔羅（まら）」と呼ばれていました。この魔羅を切断するという意味で「羅切」という言葉が使われるようになったとされています。

日本における羅切の実例

本来の意味である仏教の修行として羅切が行われた例は多くありません。しかし、江戸時代中期の川柳に「禅坊主、羅切してから、無一物」という句があり、一部で行われていたことが伺えます。

江戸時代の僧侶、了翁道覚は、寛文2年（1662年）に性欲を断つため自ら羅切を行いました。傷の治癒に苦しみましたが、自ら調合した薬「錦袋円」を販売したところ、江戸の名物になったと伝えられています。

また、『宇治拾遺物語』には、修行のために羅切をしたと見せかけて寺に潜り込んだ偽の僧侶の話が登場します。この話から、当時、僧侶による羅切が必ずしも珍しい行為ではなかったことが推測できます。また、陰茎のみを切断し、陰嚢と睾丸は残されていたことも示唆されています。

浄土宗の僧、遵西は、後鳥羽上皇の女房たちが感化されて出家した事件に関与したとして罪に問われ、羅切の上、斬首刑に処されました。

ヨーロッパにおける羅切

キリスト教系の宗教においても、宗教的な動機に基づく性器切断の例が見られます。去勢派教徒による組織的な自己去勢、ビザンチン帝国における聖職者の宦官や宦官修道院の存在、アレクサンドリアの教父オリゲネスによる自己去勢などが挙げられます。キリスト教以前の地中海世界では、キュベレ教徒によって同様の行為が行われていました。

他の男子去勢との違い

羅切と似た行為として、以下のようなものがあります。

宦官: 主人の妻妾との性交渉を避けるため、去勢された使用人。
宮刑: 刑罰としての性器切断。
カストラート: 変声期前の少年に去勢手術を施し、高音の歌声を維持させた男性歌手。
性別適合手術: 性同一性障害の治療の一環として、本人の希望に基づいて行われる性器切除。

これらの行為は、羅切とは目的や背景が異なります。

参考文献

三田村泰助著『宦官――側近政治の構造』中央公論新社［中公新書］、ISBN 978-4-12-100007-1。［中公文庫BIBLIO］、ISBN 978-4-12-204186-8。
石川武志著『ヒジュラ―インド第三の性』 青弓社 ISBN 978-4-7872-7056-6

関連項目

* 性器切断#宗教的修行としての性器切断

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