美しい暦

石坂洋次郎の小説『美しい暦』とその映画化

石坂洋次郎の中編小説『美しい暦』は、1940年6月に新潮社から刊行された「新作青春叢書」の一作です。物語は、仙台の女学校を舞台に、質屋の娘である矢島貞子を中心に、男の先生、女の先生、そして近隣の高等学校（二高）の高校生・田村など、様々な登場人物たちが織りなす青春模様を描いています。戦時下という時代背景にも関わらず、若者たちの繊細な感情や人間関係を鮮やかに描き出し、多くの読者の心を捉えました。

1951年版映画

戦後、この小説は二度にわたり映画化されています。最初の映画化は1951年、松竹によって製作されました。原研吉が監督を務め、佐野周二、高橋貞二、津島恵子、桂木洋子といった実力派俳優が出演しました。モノクロ映画として、原作の持つ情感を丁寧に映像化した作品として評価されています。

1963年版映画

二度目の映画化は1963年、日活によって製作されました。森永健次郎が監督を務め、当時人気絶頂だった吉永小百合が主演を務めたことで大きな話題となりました。共演には、浜田光夫、芦川いづみ、長門裕之など、豪華なキャストが集結しました。この映画はカラー作品であり、1時間28分という上映時間の中で、原作の物語をより鮮やかに、そして現代的な感覚で表現しています。

あらすじ

物語は、田村が仲間たちと女学校に乗り込み、教師が自分たちを不良だと発言したと告発するところから始まります。その教師とは、中年女性教員の朝川タケ。朝川は生徒たちの前で、そのようなことを言った覚えはないと主張しますが、女生徒の吉村と貞子は、確かに言ったと証言します。しかし、他の生徒たちは否定し、吉村が妾の子であり、貞子が質屋の娘であるため、信用できないと教員室で議論になります。そこに美術教師の武井が割って入り、貞子たちの肩を持つという展開が繰り広げられます。

この映画では、ミヤリサン製薬とのタイアップがあったと推測される場面があります。吉永小百合演じる貞子が、帰宅後、母親に空腹を訴え、「バーモンでも飲んどきなさい」と言われ、楽しげに「バーモン」（りんご酢と蜂蜜のシロップ）を飲むシーンがあります。また、恋愛を「悲しからずや」と表現する場面がありますが、これは若山牧水の短歌から引用したもので、原作にはない演出です。

スタッフ

企画: 坂上静翁
監督: 森永健次郎
脚本: 三木克巳
原作: 石坂洋次郎
撮影: 松橋梅夫
音楽: 渡辺宙明
主題歌:「美しい暦」（作詞:佐伯孝夫、作曲:吉田正、唄:吉永小百合）
挿入歌:「白い花の青春」（作詞:松本栄、作曲:村沢良介、唄:浜田光夫）
美術: 西亥一郎

キャスト

矢島貞子（女学生）: 吉永小百合
田村邦夫（高校生）: 浜田光夫
村尾先生（化学）: 芦川いづみ
武井先生（美術）: 長門裕之
吉村春枝（女学生）: 白樹栞
相川フミ（女学生）: 松岡きっこ
矢島千絵（貞子の母）: 丹阿弥谷津子
沢田孝作（貞子の叔父）: 内藤武敏
沢田民子（貞子の叔母）: 奈良岡朋子
源作（職人）: 桂小金治
朝川先生（家庭）: 細川ちか子
校長: 織田政雄
滝田教務主任: 藤村有弘
吉村香代（春枝の母）: 山岡久乃
太田先生: 三船好重

まとめ

『美しい暦』は、小説、そして二度の映画化を通じて、時代を超えて愛される作品となりました。特に1963年版の映画は、吉永小百合の瑞々しい演技と、青春の光と影を鮮やかに描いたことで、多くの人々の記憶に残る作品となっています。原作が持つ文学的な深みと、映画ならではの映像美が融合した作品として、今後も多くのファンに愛され続けることでしょう。

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