羽尾氏

羽尾氏（はねおし）とは

羽尾氏は、戦国時代に上野国（現在の群馬県）吾妻郡に勢力を持った国衆です。滋野一族の海野氏の末裔を自称し、鎌倉時代に三原荘の地頭となった海野幸氏の子孫とされています。同族には、同じく海野氏の末裔を称する鎌原氏や湯本氏がいました。家紋は「六文銭」です。

羽尾氏の歴史

1533年、羽尾氏は北条氏綱による鶴岡八幡宮の造営に奉加した国衆の一人として記録に残っています。戦国時代には、関東管領・山内上杉氏に従属する国衆として上野国で勢力を保っていました。

1560年、長尾景虎（後の上杉謙信）が関東に侵攻すると、当時の当主である羽尾治部入道道雲は上杉氏に味方し、箕輪衆の一員として参戦しました。同時期に、所領問題をめぐり対立していた鎌原重澄を斎藤憲広と共に攻め、鎌原氏を屈服させたとされています。

しかし、1562年に武田氏が西上野に侵攻してくると、武田氏の裁定を受け入れなかったため、鎌原氏は信濃に退去しました。その後も、道雲は吾妻斎藤氏と共に鎌原氏と争い続け、最終的には万座温泉滞在中に所領を奪われ、居城である羽根尾城を追われることになりました。

1563年、斎藤憲広が武田氏から離反して没落すると、羽尾道雲も没落したと考えられています。一方、道雲の弟とされる海野幸光・輝幸兄弟は武田氏に仕え、武田氏の吾妻郡支配の一端を担いました。

しかし、1581年、武田氏の家臣であった真田昌幸によって、幸光と輝幸、さらに輝幸の子である幸貞は粛清され、自害に追い込まれました。この粛清の背景には、海野兄弟と鎌原氏や真田氏との対立、武田氏の威信低下などがあったとされています。

1582年に武田氏が滅亡すると、羽尾道雲の子とされる羽尾源六郎は上杉景勝を頼り、旧領の回復を試みました。1584年には、羽根尾領であった丸岩城を奪い返し、吾妻郡の真田氏と対峙しますが、上杉氏からの十分な支援を得られず、最終的には没落しました。

主要な人物

羽尾治部入道道雲: 羽尾氏の当主と目される人物。「羽尾業幸」「羽尾修理亮」と同一人物と考えられています。
海野長門守幸光: 道雲の弟。武田氏に仕え、岩櫃城将を務めましたが、真田昌幸によって粛清されました。
海野能登守輝幸: 道雲と幸光の弟。武田氏に仕え、沼田城将を務めましたが、兄と同様に真田昌幸によって粛清されました。
羽尾源六郎: 道雲の子とされる人物。上杉景勝の支援を受け旧領の奪還を図りました。

関連する城郭

羽根尾城: 羽尾氏の居城。羽根尾集落の背後にある小山に築かれた山城です。
長野原城: 羽尾氏が所有していたとされる城。「箱岩城」とも呼ばれます。『加沢記』によると、羽尾道雲と真田幸綱の弟である常田隆永との間で攻防戦が繰り広げられました。
丸岩城: 「丸屋の要害」とも呼ばれる城。羽尾源六郎が旧領奪回の拠点としました。

まとめ

羽尾氏は、戦国時代に上野国で活躍した国衆であり、武田氏や真田氏との関係の中でその勢力を拡大、そして失っていきました。一族の歴史は、戦国時代の複雑な勢力関係を象徴するものであり、地域史を研究する上で重要な要素となっています。

参考文献

久保田順一『戦国上野国衆事典』戎光祥出版、2021年。
柴辻俊六; 平山優; 黒田基樹 ほか 編『武田氏家臣団人名辞典』東京堂出版、2015年。
平山優『武田氏滅亡』KADOKAWA、2011年。
平山優『武田遺領をめぐる動乱と秀吉の野望』戎光祥出版、2011年。
宮坂武男『信濃をめぐる境目の山城と館　上野編』戎光祥出版、2015年。

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