聶元梓

聶元梓は、中華人民共和国の政治家であり学者でした。特に、文化大革命という激動の時代において、北京の主要な造反派リーダーとして広く知られています。1921年に生まれ、2019年にその生涯を閉じるまで、波乱に満ちた人生を送りました。

生い立ちと前半生

河南省滑県で生まれた彼女は、地元で共産党組織の設立に関わった兄、聶真の影響を受けながら育ちました。1937年に太原市の国民師範学校を卒業すると、抗日救国を目指す組織で軍事訓練を受けます。翌1938年には晋城の学校で学びつつ、中国共産党に入党しました。1939年には革命の本拠地であった延安に移り、学習と実務に携わりました。戦後、1946年にはハルビンで党の宣伝部門や理論研究部門の責任者を務めました。北京大学哲学科を卒業後、同大学で教鞭を執ります。私生活では、1944年に呉宏毅氏と結婚し3人の子供をもうけましたが、1959年に離婚。その後1966年に呉漑之氏と再婚するも、わずか1年足らずで再び離縁しています。

文化大革命期の活動

1966年5月、党中央から「五・一六通知」が発布され、ブルジョワ思想の批判と指導権の奪取が呼びかけられることで、文化大革命は公然たる運動となります。これに続く形で、5月25日、北京大学に滞在していた康生の妻、曹軼欧氏の指示を受けたとされる聶元梓は、他の哲学科教員6名と共に、大学指導部を厳しく批判する内容の壁新聞（大字報）を学内に張り出しました。この大字報は毛沢東の目に留まり、その強い支持を得た結果、北京大学のトップであった陸平氏は解任へと追い込まれます。

大学内の混乱を収拾するため、党中央から「工作組」が派遣されますが、毛沢東がこれを批判したことで、情勢は聶元梓ら造反派にとって有利に進展します。7月25日には、陳伯達氏と江青氏が北京大学を訪れ、造反派に対する全面的な支持を表明しました。これにより聶元梓は北京大学文化革命委員会の主任に選出され、名実ともに大学内の造反派リーダーとなります。8月18日には天安門広場での紅衛兵集会において、天安門上に立つ毛沢東との接見という栄誉にあずかりました。さらに11月には江青氏の指示で上海へ向かい、現地の学生組織と北京大学の組織を連携させ、上海市党委員会への批判活動を展開しました。

1967年には、かつての党や国家の要人であった彭真、薄一波、朱徳、鄧小平といった人々に対する批判運動の先頭に立ちました。4月に北京市に革命委員会が設立されると、その副主任（現在の副市長に相当）に任命され、さらに「首都大学専門学校紅衛兵代表大会」の中央委員長という要職も兼ねました。

絶頂期から転落へ

しかし、1968年3月、北京大学内で聶元梓派と反対派の紅衛兵セクトの間で、約1ヶ月に及ぶ激しい武力衝突が発生します。事態を収拾するため、8月には党と人民解放軍から派遣された「毛沢東思想宣伝隊」が大学に進駐し、紅衛兵組織は武装解除されました。この出来事によって、聶元梓は北京大学における造反派全体の指導者としての地位を失い、一派閥のリーダーへと格下げされてしまいます。1969年4月の共産党第9回全国大会では中央委員候補に選ばれるものの、その後、地方である江西省の北京大学分校農場へ送られ、労働に従事することになりました。1971年には隔離審査を受け、行動の自由を制限されます。1973年以降は北京に戻り、工場での労働を強いられました。

逮捕と晩年

文化大革命が終結した後、1978年4月、57歳になっていた聶元梓は逮捕されます。長期にわたる裁判を経て、1983年3月、「反革命宣伝煽動罪」と「誣告罪」により、懲役17年、政治権利剥奪4年という刑が言い渡されました。しかし、1984年には病気を理由に一時的な出所が認められ、1986年には仮釈放されます。釈放当時、彼女には生活費も医療費も住居も一切提供されませんでした。その後は北京市海淀区にある親類の古い家の一室で暮らしたといいます。1999年からは、地元の街道弁事処（末端の行政組織）から毎月600元の生活費が支給されるようになりました。晩年の生活は質素であり、心臓病や腰痛など多くの持病を抱えていましたが、健康維持のために運動を続けていました。2005年には、香港の出版社から自らの半生を綴った『聶元梓回想録』を出版しました。2006年にはニューヨーク・タイムズ紙に彼女の近況が掲載され、その中で言論の自由を抑圧する政府への批判的な見解を述べたことが伝えられました。また、ボランティアの人々の支援を受けながら生活している様子も紹介されています。2019年 8月28日、98歳で波乱の生涯を終えたことが報じられました。

もう一度検索