胎内川ダム

胎内川 ダム

新潟県胎内市、日本海へと注ぐ二級河川・胎内川の本流上流部に位置する、高さ93メートルの重力式コンクリートダムです。主な役割は、大雨による河川の氾濫を防ぐ洪水調節と、下流の農業用水などの安定供給を図る不特定利水であり、新潟県が管理する治水ダムとして重要な機能を担っています。

建設の背景と歴史

胎内川流域では、古くから治水対策が進められてきました。特に1949年からは中小河川改修事業によって、毎秒700立方メートルの洪水にも耐えうる堤防が整備されていました。しかし、1966年7月に発生した水害では、この堤防が決壊する被害が発生し、より抜本的な治水対策としてダム建設の検討が始まる契機となりました。当初、想定されていた最大の洪水流量（計画高水流量）は毎秒1,300立方メートルと見積もられ、そのうち毎秒600立方メートルを胎内川ダムで調節する計画が立てられました。

そんな中、ダム計画に大きな影響を与えたのが、翌1967年8月に新潟県下越地方から山形県にかけて襲った集中豪雨、通称羽越水害です。胎内川流域にあたる当時の北蒲原郡中条町や黒川村（現在の胎内市）は、この豪雨により甚大な被害を受けました。河川の氾濫や土石流によって、313棟の家屋が全壊・半壊し、6,000棟以上が床上・床下浸水の被害に遭い、300人を超える死傷者が出ました。また、既に稼働していた水力発電所も大きな被害を受けました。1962年までに完成し、合計で最大1万4,600キロワットを発電していた新潟県企業局の胎内第一発電所と胎内第二発電所も、羽越水害時には取水元である胎内第一ダム地点で24時間降水量が600ミリメートルを優に超えるという異常な状況に陥り、両ダムから水が溢れる事態となり、発電所施設が水没する深刻な被害に見舞われました。

羽越水害を受けて、胎内川の治水計画は大きく見直されることになります。計画高水流量は一気に毎秒2,100立方メートルへと引き上げられ、この新たな基準に基づいた胎内川ダム建設工事が着手されました。1969年度に建設に向けた調査が完了し、同年度からまずダムサイトへのアクセス道路整備が進められました。そして1971年にはダム本体の建設工事が始まり、約5年の歳月を経て1976年度に胎内川ダムは完成しました。この時期、新潟県では羽越水害を教訓とした治水事業として、加治川本流に加治川治水ダム（新発田市）や、その支流内の倉川に内の倉ダムといったダム群の建設も同時期に進められており、特に加治川治水ダムは胎内川ダムと非常によく似た外観を持っています。

胎内川における河川整備は、胎内川総合開発事業としてその後も継続されました。特に、既存の胎内第一ダムよりさらに上流部に、新たに奥胎内ダムが建設されました。奥胎内ダムは高さ82メートルの重力式コンクリートダムとして計画され、胎内川全体の計画高水流量毎秒2,100立方メートルのうち、奥胎内ダムが毎秒380立方メートル、そして胎内川ダムが毎秒490立方メートルをそれぞれ分担して洪水調節を担うことになりました。奥胎内ダムは1985年に調査が開始され、2002年にダム本体工事が着工、2018年度に完成しています。奥胎内ダムは洪水調節に加え発電も目的とする多目的ダムであり、最大2,600キロワットの電力を生み出す胎内第四発電所がダムに併設され、2019年から運転を開始しています。

周辺と利用状況

胎内川ダムへのアクセスは、日本海東北自動車道・中条インターチェンジから国道7号（中条黒川バイパス）を経て、県道53号胎内二王子公園羽黒線を胎内川沿いに上流へ進むルートとなります。胎内第二ダムや胎内第一発電所を過ぎると、ダムが現れます。周辺は積雪が多い豪雪地帯であるため、冬期の積雪によって車道が通行不能になった場合でも、ダム管理所の職員が往来できるようヘリポートが設置されています。ダム上部の天端は歩道として開放されており、左岸側にはダム全体を見下ろすことができる展望台も設けられています。

ダムの直下には、ダムから放流される水を利用して発電を行う風倉発電所があります。最大2,000キロワットの電力を生み出すこの発電所は、ダム完成当時には存在しませんでした。1970年代のオイルショックを契機に水力発電の価値が見直されたことを受け、本来は治水専用であった胎内川ダムにも発電機能が付加されることになったものです。ここで発電された電力は、主に胎内市内の公共施設の運営に利用されています。風倉発電所は1983年に建設工事が始まり、1985年に完成しました。運営は胎内川水系にある他の発電所と同様に新潟県企業局に委託されており、運転開始以来、年間1,000万キロワット時を超える電力量を安定して供給し続けています。

胎内川ダムのさらに上流には、羽越水害の被害を受けた胎内第一ダムがあり、その近くには胎内川の源流部にあたる飯豊山地への登山拠点として利用されている奥胎内ヒュッテがあります。そして、その最上流には、比較的新しい奥胎内ダムが壮大な姿を見せています。胎内川に建設されたこれらのダム群は、流域の安全を守り、安定した水の供給やクリーンなエネルギーの生産に貢献しています。

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