鄧愈

鄧愈（とう ゆ）：明朝建国を支えた不屈の武将

鄧愈（とう ゆ）は、元末から明初にかけて活躍した武将で、明朝の開国功臣の一人です。1337年に泗州虹県（現在の安徽省宿州市泗県）で生まれ、元の名は鄧友徳（とう ゆうとく）といいましたが、後に朱元璋によって改名されました。その生涯は、戦乱の世を駆け抜け、明朝の建国と安定に大きく貢献しました。

朱元璋との出会い

鄧愈の父、鄧順興（とう じゅんこう）は、臨濠（現在の安徽省滁州市鳳陽県）で元軍との戦いで戦死しました。兄の鄧友隆（とう ゆうりゅう）が父の後を継ぎましたが、病死したため、16歳（数え年）の若さで鄧愈が跡を継ぐことになりました。若くして軍を率いた鄧愈は、常に最前線で戦い、その勇猛さで周囲を感服させました。

朱元璋軍への参加と頭角の表れ

1353年、朱元璋が滁陽（現在の安徽省滁州市）で蜂起すると、鄧愈はすぐにこの軍に参加し、管軍総管の地位を得ました。1355年には、朱元璋軍に従って長江を渡り、集慶（現在の江蘇省南京市）の占領に貢献しました。1356年、朱元璋は徐達（じょ たつ）を大将軍として軍を指揮させ、周辺都市を攻略させましたが、鄧愈は別働隊として広徳（現在の安徽省宣城市広徳市）を攻略し、その功績により広興翼元帥に昇進しました。

広徳の守備を任された鄧愈は、元軍の謝再興（しゃ さいこう）率いる軍勢の攻撃を受けましたが、これを撃退し、総管の武世栄（ぶ せいえい）とその部下1000人を捕虜とする大勝利を収めました。1357年には、捕虜を自軍に組み入れ、宣州に移動し、胡大海（こ だいかい）と共に徽州の績渓（現在の安徽省宣城市績渓県）・歙（現在の安徽省黄山市歙県）を攻略しました。この功績により、枢密院判官に任じられ、その守備を担うことになりました。

苗族との戦い

同年、元軍は苗族の将軍である楊完者（よう かんしゃ）に兵10万を与え、徽州の奪還を試みました。鄧愈は、守備兵を鼓舞し、胡大海軍の到着まで持ちこたえ、挟撃によって元軍を破りました。さらに追撃して休寧（現在の安徽省黄山市休寧県）・婺源（現在の江西省上饒市婺源県）を奪い、兵3000を獲得、高河にあった敵の基地も攻略しました。

1358年には、李文忠（り ぶんちゅう）・胡大海と共に遂安を攻略、長槍帥の余子貞（よ してい）を破り、北上して淳安・建徳を占領しました。楊完者が反撃を試みましたが、再び敗北し、李副枢が捕虜となり、渓洞で兵30000が降伏しました。翌月には、烏竜嶺で楊完者の主軍を破るという連戦連勝の活躍を見せました。

陳友諒との戦い

1360年、西の大軍閥である陳友諒（ちん ゆうりょう）との決戦が始まりました。この戦いで、陳友諒配下の鄧克明（とう こくめい）が朱元璋に降伏を申し出ましたが、鄧愈はこれが敵の策略であると見抜き、夜通し200里（約100km）を駆け抜け、この情報を報告しました。鄧克明は逃亡しましたが、鄧愈は自軍の軍紀を厳守させ、撫州を平定しました。その後、陳友諒の部下である胡廷瑞（こ ていずい）が降伏し、竜興路（現在の江西省南昌市）が朱元璋軍の支配下となり、洪都府と改名されました。鄧愈は江西行省参政に任じられ、降伏した祝宗（しゅく そう）・康泰（こう たい）を部下としました。

しかし、祝宗・康泰は待遇に不満を持ち、反乱を起こしました。鄧愈は側近数十騎と共に逃走し、最後は養子の馬を譲り受けて、辛うじて応天府に逃げ込みました。朱元璋はすぐに徐達に軍を返させ、鄧愈・朱文正（しゅ ぶんせい）と共に反乱を鎮圧させました。

鄱陽湖の戦いと掃討戦

1363年、陳友諒は兵60万を率いて洪都府を攻撃し、鄱陽湖の戦いが勃発しました。鄧愈は洪都府の撫州門を守備し、陳友諒軍の猛攻に耐えながら、城壁を修復し、3ヶ月に及ぶ激戦を戦い抜きました。その後、朱元璋の援軍が到着し、陳友諒軍を破り、さらに敵の本拠地である武昌も陥落させました。

鄧愈は、鄱陽湖南部にある旧陳領の平定を命じられ、鄧克明の弟である鄧志清（とう しせい）が率いる兵2万を撃破し、将軍級の武将50余名を捕虜としました。さらに、常遇春（じょう ぐうしゅん）に従って沙坑（現在の江西省吉安市新幹県七琴鎮沙坑村）・麻嶺（現在の江西省撫州市南城県）にある敵拠点を平定し、吉安・贛州も陥落させました。その功績により、1364年、28歳という異例の早さで江西行省右丞に昇進しました。

襄陽での統治

鄧愈は、細やかな配慮を欠かさず、苦労を厭わず、兵に対しては厳格でありながら、降伏した者には寛容であったと伝えられています。朱元璋は、常遇春が襄陽を占領したのを機に、鄧愈に襄陽の統治を命じました。鄧愈は朱元璋の期待に応え、襄陽の統治に尽力しました。1367年には、建御史台右御史大夫に任じられ、翌1368年には、明が建国されると太子諭徳を兼務しました。

北伐とチベット攻略

北伐に際しては征戍将軍に任じられ、南陽以北の未占領地を攻略しました。唐州・南陽に進攻し、逃げる元軍を破り、史国公ら26人を捕らえました。さらに東北に軍を進め、随・葉・舞陽・魯山を占領しました。1369年には、元は中華の地を捨てて北方に逃れ、北元と呼ばれるようになりました。1370年、大将軍徐達と共に征虜左副将軍として定西攻略に従軍し、ココ・テムルを敗走させました。さらに別働隊を率いて河州を占領し、チベットの諸酋長を降伏させました。その後も、黄河上流を西に進み、黒松林で敵を破り、さらに河州西方の朶甘（チベット自治区チャムト東部）・烏斯蔵の諸部族を従わせました。

晩年

1371年には、明軍の蜀攻略の際に兵站を命じられ、1372年には辰州・澧州の諸蛮が反乱を起こすと、征南将軍として鎮圧を命じられました。1373年には、右副将軍として徐達に従って西北に従軍し、1377年には、吐蕃の川蔵で反乱が起こると、征西将軍として鎮圧に向かいました。崑崙山脈で敵兵1万を斬り、馬牛羊十余万を捕獲し、帰還の途中で病を得て、寿春で41歳で亡くなりました。死後、寧河王を追封され、武順と諡されました。

鄧愈は、その卓越した武勇と統率力、そして民を思う慈悲心によって、明朝の建国に大きく貢献した武将として、後世に語り継がれています。

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