腹裂きの刑

腹裂きの刑：世界各地に広がった残虐な死刑

腹裂きの刑とは、古代から近世にかけて世界各地で行われてきた死刑の一種です。罪人の腹部を刃物などで切開し、内臓、特に小腸を引き出して晒し者にしたり、肛門から腸を引き出すなど、極めて残虐な方法で処刑されました。

処刑方法とその後

処刑方法は地域や時代によって異なりましたが、共通しているのはその残虐性です。単純に腹部を切開するだけでなく、内臓、特に腸をウインチに巻きつけたり、石柱に結びつけ、罪人自身に巻き取らせるといった、想像を絶する苦痛を伴うものでした。大動脈を切断しない限り、罪人は大量出血によるショック死ではなく、長時間にわたる苦痛の末に絶命します。その惨状は、見せしめとして大きな効果を発揮したと考えられます。

切腹との違い

日本の切腹と共通する点は、腹部を切開するという点です。しかし、切腹は非公開で行われ、介錯によって速やかに命を絶たれるため、腹裂きの刑とは大きく異なります。切腹は武士の潔い死に方とされ、死後も身分や名誉が守られるのに対し、腹裂きの刑はあくまでも無残な見せしめのための酷刑であり、受刑者は衆人環視の中で、自身の内臓を眺めながら、屈辱と苦痛のうちに命を失います。さらに、腹裂きの刑は、権力者の気まぐれで、無実の人々にも執行されることがあったという点も大きな違いです。

世界各地の事例

オリエント・ヨーロッパ

地中海世界では、古代ギリシャやローマ帝国において、腹裂きの刑が執行されていました。オリエントでは、手足を引き裂くなどの他の拷問と併用されることも多く、腸を数メートルにわたって引き延ばし、ウインチに巻き付けるなど、より残虐な方法が取られることがありました。

例えば、303年にイタリアで殉教した聖エラスムスは、ランゴバルド族によって腹裂きの刑に処せられ、腸を引きずり出されてウインチに巻き付けられた後、解体されました。彼の絵や像には、しばしば腸を巻き付けた棒を持っている姿で描かれています。

ヴァイキング社会では、罪人の腹を裂いて腸を取り出し、石柱に結びつけ、罪人自身にその腸を石柱に巻き付けるという独自の処刑法がありました。

1437年にはスコットランド王ジェームズ1世暗殺に関わったロバート・グラハムが腹裂きの刑に処せられ、中世ドイツでは樹木の皮を無許可で剥いだ者が、その木に自身の腸を結び付けられるという事例も残っています。

中世イングランドでは、大逆罪を犯した者は、「首吊り・内臓抉り・四つ裂きの刑」という極めて残酷な方法で処刑されました。これは、首吊り寸前に縄を切って蘇生させ、生殖器を絶ち、腹を裂いて内臓を露出させた後、斬首して四肢を解体するというものです。

中国

中国では腹裂きの刑を「剖腹（ほうふく）」、腸を引きずり出す処刑を「抽腸（ちゅうちょう）」と呼びました。殷の紂王は残虐な暴君として知られ、妊婦の腹を裂いて胎児を確かめたり、老人の足を切り落とすなど、数々の残虐行為を行ったとされています。

前漢を滅ぼして新を建てた王莽は、反乱を起こした翟義の支持者を生きたまま解剖し、五臓六腑などを調べたという記録が残っており、これは中国における最初の医学的な生体解剖と言われています。

西晋の賈南風、前秦の苻生、宋の明帝、後廃帝劉昱、斉の東昏侯蕭宝巻など、多くの皇帝や権力者も腹裂きの刑を容赦なく用いました。その中には、妊婦の腹を裂いたり、側近の腹を裂いて内部を調べたりといった、極めて残虐な行為が含まれています。

南北朝時代から五代十国時代にかけては、側近や敵対勢力の処刑、さらには単なる私怨による殺害に腹裂きが用いられ、その残虐性は際立っていました。明の太祖朱元璋も独自の道具を用いて腸を引きずり出す残虐な方法を用いました。張献忠による大虐殺では、腸を引きずり出して殺害する方法も用いられたとされています。

アメリカ大陸

アステカ帝国では、神への生贄として人身御供が行われていました。生贄の胸を切り開き、心臓を摘み出して捧げるという儀式が行われ、スペイン人征服者コルテスもこの生贄の犠牲となったと伝わっています。

結論

腹裂きの刑は、その残虐性から、権力者による見せしめや恐怖政治の手段として用いられてきました。世界各地で様々なバリエーションで行われていたこの処刑方法は、人間の残虐性と権力の恐ろしさを改めて認識させるものです。この残虐な刑罰の歴史を知ることは、平和と人権の大切さを再確認する上で重要です。

もう一度検索