苻生

苻生（ふ せい）：暴虐の皇帝、その生涯と治世

苻生（ふ せい）は、五[[胡十六国時代]]の前秦の第2代皇帝であり、その治世はわずか3年と短いながらも、極度の暴虐と粛清によって悪名高いものとなりました。この記事では、彼の生涯を辿りながら、その人物像と治世の実態に迫ります。

生い立ちと幼少期

苻生は、前秦の初代皇帝である苻健（ふ けん）の三男として生まれました。元の姓は蒲（ほ）であり、略陽郡臨渭県（現在の甘粛省天水市秦安県の東南）を出身とする氐族でした。幼少の頃からその凶暴さは際立っており、祖父の蒲洪（後の苻洪）からは強く嫌われていました。

隻眼であった苻生に、蒲洪が冗談交じりに「片目の子は片方からしか涙を流さないと聞くが、本当か」と尋ねた際、苻生は自らを刀で刺し「これも涙と言うのか」と言い放ったという逸話は、彼の異常性を示すものとしてよく知られています。

苻健の時代

成長した苻生は、怪力と勇猛さを兼ね備えた武人となりました。素手で猛獣と格闘し、奔馬に追いつくほどの脚力を持ち、剣戟や騎射の腕も当代随一であったと伝えられています。しかし、その性格は依然として凶暴で、殺戮を好み、大酒を飲む日々を送っていました。

350年、父の苻健が苻姓を名乗り前秦を建国すると、苻生も名を改め、淮南公に封じられました。その後、桓温率いる東晋軍の侵攻に際しては、自ら陣頭に立って敵陣に突入し、武功を挙げました。皇太子であった兄の死後、讖文（予言）に従い、皇太子に立てられました。

皇帝即位と粛清の嵐

355年、父の苻健が崩御すると、苻生は皇帝に即位し、寿光と改元しました。しかし、その治世は粛清と恐怖政治の連続でした。

苻生は、群臣が改元時期について諫言しただけで激怒し、処刑しました。寵臣の趙韶（ちょうしょう）や董栄（とうえい）らを重用し、彼らは朝政を壟断し、国を乱しました。また、丞相の雷弱児（らいじゃくじ）や司空の王堕（おうだ）など、彼に諫言する者は容赦なく処刑しました。

その残虐さは常軌を逸しており、寵愛する妻妾でも気に入らなければ殺害し、死体を渭水に投げ捨てました。死刑囚の顔の皮を剥いで歌舞をさせ、その様子を群臣に見て楽しむという信じがたい行為も行いました。また、隻眼であることを気にし、「不足」「不具」といった言葉を禁じ、違反者を処刑したという記録も残っています。

苻堅による簒奪と最期

苻生の暴虐な振る舞いに、群臣は恐れおののき、人々は不満を募らせました。357年、苻生は侍婢に「苻法の兄弟を除こうと思う」と漏らしたことがきっかけとなり、清河王苻法（ふほう）とその弟である苻堅（ふけん）によるクーデターが勃発しました。

苻堅は兵を率いて苻生を捕らえ、越王に降格させた後、殺害しました。苻生は死の直前まで酒を飲み続け、前後不覚であったと伝えられています。享年23歳、在位わずか3年でした。

人物と評価

苻生は、幼少の頃から凶暴で、皇帝に即位してからはその性格がさらに悪化しました。酒色に溺れ、残虐な行為を繰り返したため、多くの人々から恐れられ、憎まれました。彼の治世は、前秦の国力を大きく衰退させる要因となりました。

しかし、『洛陽伽藍記』には、「苻生は勇を好み酒を嗜んだとはいえ、仁にしてでたらめに人を殺すようなことはなかった」という真逆の人物評も存在します。史書には悪行ばかりが記録されていますが、一面的な評価に終始すべきではないのかもしれません。

苻生の生涯は、権力者が暴走した場合、いかに国を滅ぼし、人々を不幸にするかを示す教訓として、後世に語り継がれています。

参考文献

『晋書』巻112
『資治通鑑』巻98 - 巻100
* 『十六国春秋』巻35

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