臨時補助貨幣

臨時補助貨幣について

臨時補助貨幣とは、戦局の悪化に伴う貨幣材料の調達難に対応するため、日本の「臨時通貨法」に基づき発行された補助貨幣の総称です。1938年から1988年までの約50年間にわたり、様々な素材やデザインの硬貨が製造されました。

臨時通貨法の成立と臨時補助貨幣の発行

1937年の日中戦争勃発を契機に、1938年、「臨時通貨法」が施行されました。この法律により、従来の「貨幣法」で定められた貨幣以外に、臨時に補助貨幣を発行することが可能になりました。これにより、政府は勅令（後に政令）によって、貨幣の素材、品位、量目、形式を自由に変更できるようになり、戦時下の物資不足に対応した迅速な貨幣発行が可能となりました。

臨時補助貨幣の変遷

当初、臨時補助貨幣は、戦時下の補助貨幣需要増大を補うために発行されました。しかし、軍需用金属の需要が逼迫すると、以前に発行された貨幣を回収し、交換する形に移行しました。特にアルミニウムは増産が容易であったため、一銭、五銭、十銭の硬貨は、既存の補助貨幣の発行枚数を凌駕するほど大量に発行されました。

1940年代に入ると、金属資源の枯渇が深刻化し、貨幣の素材はアルミニウムから錫へと変更されました。しかし、連合軍の制空権、制海権が確立すると、錫の輸送も困難となり、陶貨幣の試作も行われました。しかし、陶貨幣は結局発行されることはありませんでした。

終戦後、政府は「大日本」表記の貨幣を回収し、新たに「日本政府」表記の貨幣を発行しました。しかし、戦後のインフレーションにより、貨幣価値は急落し、1948年には「円」単位の臨時補助貨幣が登場しました。

臨時通貨法の改正と廃止

「臨時通貨法」は当初、時限立法でしたが、その後、期限が削除されました。その後、1950年代には、十円、五十円、百円などの「円」単位の臨時補助貨幣が次々と追加されました。

1953年には、「小額通貨整理法」により、銭単位の臨時補助貨幣が廃止されました。しかし、1988年の「通貨法」施行により、「臨時通貨法」は廃止され、それまでに発行された臨時補助貨幣は、一部を除き「貨幣」と見なされることになりました。

各種臨時補助貨幣の詳細

以下に、主な臨時補助貨幣の種類、素材、量目、図案、発行年などをまとめます。

昭和13年制定の貨幣

10銭アルミニウム青銅貨幣: 銅950、アルミニウム50、量目4.000グラム、菊花紋章、旭光、吉祥波（表面）、桐紋、桜（裏面）。昭和13年から15年発行。
5銭アルミニウム青銅貨幣: 銅950、アルミニウム50、量目2.800グラム、菊花紋章、桐紋（表面）、桜（裏面）。昭和13年から15年発行。
1銭黄銅貨幣（烏）: 銅900、亜鉛100、量目3.750グラム、菊花紋章、桐紋、八稜鏡、海波（表面）、八咫烏、桜（裏面）。昭和13年発行。
1銭アルミニウム貨幣（烏）: アルミニウム1,000、量目0.900グラム、菊花紋章、桐紋、八稜鏡、海波（表面）、八咫烏、桜（裏面）。昭和13年から15年発行。

昭和15年-18年制定のアルミニウム貨幣

10銭アルミニウム貨幣（菊）: アルミニウム1,000、量目1.500グラム（後に1.200グラム、1.000グラム）、菊花紋章、桐（表面）、桜（裏面）。昭和15年から18年発行。
5銭アルミニウム貨幣（菊）: アルミニウム1,000、量目1.200グラム（後に1.000グラム、0.800グラム）、菊花紋章、瑞雲（表面）、金鵄（裏面）。昭和15年から18年発行。
1銭アルミニウム貨幣（富士）: アルミニウム1,000、量目0.650グラム（後に0.550グラム）、菊花紋章、富士山（表面）。昭和16年から18年発行。

昭和19年制定の錫貨幣

10銭錫貨幣: スズ930、亜鉛70、量目2.400グラム、菊花紋章、桐紋、瑞雲（表面）。昭和19年発行。
5銭錫貨幣: スズ930、亜鉛70、量目1.950グラム、菊花紋章、桐紋、瑞雲（表面）。昭和19年発行。
1銭錫貨幣: スズ500、亜鉛500、量目1.300グラム、菊花紋章、唐草（表面）。昭和19年から20年発行。

戦後の貨幣

10銭アルミニウム貨幣（稲穂）: アルミニウム1,000、量目1.000グラム、菊花紋章、稲穂（表面）、桜（裏面）。昭和20年から21年発行。
5銭錫貨幣（鳩）: スズ930、亜鉛70、量目2.000グラム、菊花紋章、鳩（表面）、桐紋（裏面）。昭和20年から21年発行。
50銭黄銅貨幣（鳳凰）: 銅600-700、亜鉛400-300、量目4.500グラム、菊花紋章、鳳凰（表面）、鍬、鶴嘴、稲、麦、魚、歯車（裏面）。昭和21年から22年発行。
50銭黄銅貨幣（桜）: 銅600-700、亜鉛400-300、量目2.800グラム、菊花紋章、桜（表面）。昭和22年から23年発行。
5円黄銅貨幣（国会議事堂）（無孔）: 銅600 - 700 亜鉛400 - 300、量目4.000グラム、国会議事堂(表面）、鳩、梅(裏面）。昭和23年から24年発行。
1円黄銅貨幣（橘）: 銅600-700、亜鉛400-300、量目3.200グラム、橘（表面）。昭和23年から25年発行。
5円黄銅貨幣（稲穂）（楷書体）: 銅600-700、亜鉛400-300、量目3.750グラム、稲穂、歯車、水（表面）、双葉（裏面）。昭和24年から33年発行。
10円青銅貨幣（平等院鳳凰堂）（ギザ縁）:銅950 スズ10 - 20 亜鉛40 - 30、量目4.500グラム、平等院鳳凰堂(表面）、常盤木(裏面）。昭和26年から33年発行。
50円ニッケル貨幣（菊）（無孔）:ニッケル1,000、量目5.500グラム、菊（表面）、分銅（裏面）。昭和30年から33年発行。
1円アルミニウム貨幣（若木）: アルミニウム1,000、量目1.000グラム、若木（表面）。昭和30年から63年発行。
100円銀貨幣（鳳凰）: 銀600 銅300 亜鉛100、量目4.800グラム、鳳凰(表面）、旭日、桜(裏面）。昭和32年から33年発行。
100円銀貨幣（稲穂）:銀600 銅300 亜鉛100、量目4.800グラム、稲穂(表面）、分銅(裏面）。昭和34年から41年発行。
50円ニッケル貨幣（菊）（有孔）:ニッケル1,000、量目5.000グラム、菊（表面）。昭和34年から41年発行。
10円青銅貨幣（平等院鳳凰堂）:銅950 スズ10 - 20 亜鉛40 - 30、量目4.500グラム、平等院鳳凰堂(表面）、常盤木(裏面）。昭和34年から63年発行。
5円黄銅貨幣（稲穂）（ゴシック体）: 銅600-700、亜鉛400-300、量目3.750グラム、稲穂、歯車、水（表面）、双葉（裏面）。昭和34年から63年発行。
100円白銅貨幣（桜）: 銅750、ニッケル250、量目4.800グラム、桜（表面）。昭和42年から63年発行。
50円白銅貨幣（菊）: 銅750、ニッケル250、量目4.000グラム、菊(表面）。昭和42年から63年発行。
500円白銅貨幣（桐）:銅750、ニッケル250、量目7.200グラム、桐(表面）、竹、橘(裏面）。昭和57年から63年発行。

記念貨幣

東京オリンピック記念1000円銀貨幣: 銀925、銅75、量目20.000グラム、富士山、桜（表面）、五輪マーク、桜（裏面）。昭和39年発行。
東京オリンピック記念100円銀貨幣: 銀600、銅300、亜鉛100、量目4.800グラム、聖火台、五輪マーク（表面）、オリーブ（裏面）。昭和39年発行。
日本万国博覧会記念100円白銅貨幣: 銅750、ニッケル250、量目9.000グラム、赤富士（富嶽三十六景より）(表面）、大阪万博シンボルマーク、地球(裏面）。昭和45年発行。
札幌オリンピック記念100円白銅貨幣: 銅750、ニッケル250、量目12.000グラム、聖火台（表面）、五輪マーク、雪紋（裏面）。昭和47年発行。
沖縄国際海洋博覧会記念100円白銅貨幣: 銅750、ニッケル250、量目4.800グラム、守礼門、波（表面）、沖縄海洋博シンボルマーク、イルカ（裏面）。昭和50年発行。
天皇陛下御在位五十年記念100円白銅貨幣: 銅750、ニッケル250、量目12.000グラム、二重橋、皇居（表面）、菊花紋章、鳳凰（裏面）。昭和51年発行。
国際科学技術博覧会記念500円白銅貨幣:銅750、ニッケル250、量目13.000グラム、筑波山、梅(表面）、つくば科学博シンボルマーク(裏面）。昭和60年発行。
内閣制度創始百周年記念500円白銅貨幣:銅750、ニッケル250、量目13.000グラム、総理大臣官邸(表面）、内閣之印(裏面）。昭和60年発行。
天皇陛下御在位六十年記念100000円金貨幣:金1,000、量目20.000グラム、鳩、水(表面）、菊花紋章(裏面）。昭和61年から62年発行。
天皇陛下御在位六十年記念10000円銀貨幣:銀1,000、量目20.000グラム、日の出、瑞鳥(表面）、菊花紋章(裏面）。昭和61年発行。
天皇陛下御在位六十年記念500円白銅貨幣:銅750、ニッケル250、量目13.000グラム、紫宸殿(表面）、菊花紋章(裏面）。昭和61年発行。

臨時補助貨幣の現在

現在、銭単位の臨時補助貨幣や一円黄銅貨は、金属としての価値や希少価値がほとんどないため、古銭商での買取は難しいのが現状です。しかし、五十銭黄銅貨の昭和22年銘は、現存数が極めて少ないため、高価買取となる場合があります。

参考文献

青山礼志『新訂 貨幣手帳・日本コインの歴史と収集ガイド』ボナンザ、1982年。
久光重平『日本貨幣物語』（初版）毎日新聞社、1976年。
石原幸一郎『日本貨幣収集事典』原点社、2003年。
大蔵省昭和財政史編集室 編『昭和財政史（第9巻）通貨・物価』東洋経済新報社、1956年。
大蔵省造幣局 編『造幣局長年報書（第六十五〜百十四年報告書）』大蔵省造幣局、1939 - 1988。
大蔵省造幣局 編『造幣局百年史（資料編）』大蔵省造幣局、1971年。
造幣局125年史編集委員会 編『造幣局125年史』造幣局、1997年。
『図録 日本の貨幣・全11巻』東洋経済新報社、1972-1976。
日本貨幣商協同組合 編『日本の貨幣-収集の手引き-』日本貨幣商協同組合、1998年。
大蔵省印刷局『日本のお金 近代通貨ハンドブック』大蔵省印刷局、1994年6月。ISBN 9784173121601。
利光三津夫、植村峻、田宮健三『日本通貨図鑑 カラー版』日本専門図書出版、2004年6月。ISBN 9784931507074。

関連項目

補助貨幣
貨幣大試験
* 日本の貨幣史

もう一度検索