自由恋愛主義

自由恋愛主義とは

自由恋愛主義（フリー・ラブ）は、あらゆる形態の愛を認め、結婚、避妊、姦通などの性的事柄を国家の規制から解放しようとする社会運動です。この思想は、個人の関係に対する国家や教会の干渉を批判し、成人の自由な結びつきを尊重すべきだと主張します。また、男女を問わず「性的快楽の権利」があると唱え、社会的な制約からの解放を目指します。

歴史的背景

自由恋愛の歴史は、自由主義哲学（リバタリアニズム）と密接に結びついています。成人間の自由な関係は、感情的であれ性的であれ、第三者によって尊重されるべきだという考えが根底にあります。ヴィクトリア時代には過激な思想と見なされましたが、その後、社会変革の先駆けとして発展しました。

日本では、「恋愛」という概念が明治時代に輸入された新しいものであり、サブカルチャーを通じてさまざまな実験が行われています。また、従来の結婚制度に疑問を呈する声も存在します。

概要

アメリカでは、かつて中産階級が家庭を安定の場と求めた反動として、「自由恋愛運動」が生まれました。厳格な男女の役割分担に対するマイノリティの反発が背景にあります。

「フリー・ラブ」という言葉は、1960～70年代のカウンターカルチャーと結びつき、「乱交」と誤解されることもあります。しかし、歴史的に自由恋愛主義者は、複数の性的パートナーや短期間の性的関係を主張していません。彼らが主張するのは、法律によって性的な関係が規制されるべきではないということです。

「ラディカル・セックス」という言葉は、自由恋愛を否定的に捉える人々によって、同じように使われてきました。しかし、自由恋愛主義者には、「性行為の強制への反対」と「女性が自分の体を自由に使う権利」という2つの強い信念があります。

自由恋愛に関する法律には、未婚の夫婦が一緒に暮らすことを禁じる法律、姦通や離婚、同意年齢、同性愛、中絶、売春の規制などが含まれます。自由恋愛主義者の間でこれらの問題に対する意見は一様ではありませんが、結婚生活での個人の尊厳が侵害されることも懸念されています。

19世紀以降の自由恋愛運動は、セクシュアリティについて公的に議論する権利を擁護し、猥褻法と戦ってきました。20世紀には、結婚が感情や心理状態の奴隷化を促すと主張し、結婚に対する批判を強める人々も現れました。

フェミニズムとの関係

自由恋愛の歴史は、フェミニズムの歴史と深く関係しています。18世紀後半から、メアリー・ウルストンクラフトのようなフェミニストが結婚制度に異議を唱え、廃止を提唱しました。

フェミニズムの観点から、既婚女性は妻や母親としての役割に限定され、他の職業を追求する機会を失うと批判されました。当時のアメリカでは、法律によって結婚した女性や母親が教師として雇用されることを禁じる場合もありました。

1855年、自由恋愛主義者のメアリー・ゴブ・ニコルズは、結婚を「女性を滅ぼすもの」と述べ、女性が法律や世論において男性の所有物とみなされていると指摘しました。自由恋愛主義者は、子どもたちが強制された結婚生活のなかで生まれるのではなく、「選択の自由」と「愛情」の結果であるべきだと主張しました。また、婚姻外の子どもが、既婚の親と同じ権利を持てないことも問題視されました。

1857年、女性社会革命家のミネベア・パトナムは「自由恋愛の議論では女性がそのテーマについての意見を出そうとしたことはない」と訴え、女性の意識改革を促しました。19世紀には、少なくとも6冊の自由恋愛を支持する本が出版されましたが、すべて男性によって書かれたものでした。しかし、アメリカ南北戦争後の主要な自由恋愛定期刊行物の半数には、女性編集者がいました。

自由愛の支持者にとって、セックスは生殖のためだけのものではありませんでした。避妊は女性の自立の手段とみなされ、避妊運動のリーダーも自由恋愛を受け入れていました。セクシュアル・ラディカルは、女性の体をコントロールし、避妊、婚姻内での虐待、性教育などの問題について自由に話し合う権利を主張しました。

歴史

歴史を通じて、多くのユートピア的な社会運動が自由な愛のビジョンを共有してきました。古代のグループから啓蒙思想、そして現代に至るまで、自由恋愛の概念はさまざまな形で表現されてきました。

- エッセネ派: 紀元前1世紀から紀元後1世紀に中東に住んでいたユダヤ教のグループ。セックス、結婚、奴隷を避け、共同生活を送った。
- アダム派: 2～4世紀に北アフリカに住んでいた初期のキリスト教宗派。結婚を拒否し、ヌーディズムを実践した。
- マズダク教: 6世紀にペルシャで広がった宗教。結婚を認めつつも、ある程度の自由恋愛を支持した。
- カタリ派: 10～14世紀に西ヨーロッパで活動した宗教グループ。結婚を拒否し、独身を重んじた。

啓蒙思想の時代には、ウィリアム・ブレイクやメアリー・ウルストンクラフトのような思想家が、伝統的な道徳や宗教に挑戦し、自由恋愛の考えを広めました。

- ウィリアム・ブレイク: 結婚による性的抑圧を奴隷制と比較し、伝統的なキリスト教の貞操観念に反対した。
- メアリー・ウルストンクラフト: 結婚制度に異議を唱え、その廃止を提唱した。女性の性的自由とコントロールを主張した。

近代の人物と自由恋愛

19世紀初頭には、アンリ・ド・サン＝シモン、シャルル・フーリエ、ロバート・オウエンなどのユートピア社会主義者が、自由恋愛の考えを提唱しました。フーリエは、「真の自由」は情熱の抑制がない状態でのみ生じると主張しました。オーウェンは、結婚を宗教や私有財産と同じく抑圧者だとしました。

リヒャルト・ワグナーは、複数の作品で自由恋愛を提唱し、不倫関係を築きました。フリードリッヒ・ニーチェは、自由恋愛的な思想を語りましたが、女性作家との関係では、自身の哲学との矛盾を指摘されました。

自由恋愛の起源

19世紀の社会学者ハーバート・スペンサーは、結婚を「法律による結びつき」と「愛情による結びつき」の2つからなるとし、後者が失われた場合は離婚すべきだと主張しました。

自由恋愛は、「女性の権利」を強調し、女性に対する差別的な性的犯罪（結婚法や反避妊法）に反対しました。

アメリカ

アメリカでは、19世紀半ばから後半にかけて自由恋愛運動が始まりました。ジョン・ハンフリー・ノイズは、「複雑な結婚」を提唱し、ユートピア社会ではクリスチャンが法律や所有権から自由であるべきだとしました。また優生学を支持し、「特定の人々のみが親になるべきだ」と主張しました。

1852年、マルクス・エッジワース・ラザロは、結婚が社会調和を妨げると主張し、自由恋愛を支持しました。自由恋愛運動は奴隷制廃止運動とも結びつき、黒人活動家との連携もみられました。1872年、ビクトリア・ウッドルは、アメリカ初の女性大統領候補となり、自由恋愛を主張しました。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、ニューヨークのグリニッジ・ビレッジで自由恋愛の理想が広まりました。エマ・ゴールドマンのような活動家は、同性愛や避妊へのアクセスなど、さまざまな性的自由を求めました。

プレイボーイ誌の創設者であるヒュー・ヘフナーは、自由恋愛の概念を一般に広める上で大きな影響を与えました。

イギリス

イギリスでは、1883年に設立された「新しい生活仲間の哲学」が自由恋愛の主要な提唱者となりました。メンバーにはエドワード・カーペンター、ジョン・デビッドソン、ハブロック・エリス、エメリン・パンクハーストなどがいました。

エドワード・カーペンターは、同性愛者の権利を擁護し、性的教育の必要性を主張しました。彼は、女性の「性的」および「経済的自由」が公正で平等な社会の実現に不可欠だと考えました。

バートランド・ラッセルは、自由恋愛に関する著作を数多く発表しました。彼は、結婚や道徳に関するビクトリア朝の考え方を批判し、セックスについての法律や考えは時代遅れであると主張しました。また、「ソドミー法」の廃止を提唱しました。

オーストラリア

19世紀後半、オーストラリアでも自由恋愛への関心が高まりました。チャーミー・フレミングは、自由恋愛をテーマに議論を行い、パンフレットを発表しました。リバタリアンであるアリス・ウィンズピアは、男女両方の自由を主張しました。

フランス

モンマルトルとモンパルナスのボヘミアン地区では、自由恋愛の思想が広まりました。エミール・アルマンは、ヌーディズムとポリアモリーを主張し、「友愛」という概念を提唱しました。彼は、感情がなくてもセックスを行うことに抵抗はなく、パートナーとの間で「自由恋愛契約」を結ぶべきだと主張しました。

ドイツ

ドイツでは、「プログレッシブ・ウィメンズ・アソシエイション連盟」が、結婚のボイコットとセクシュアリティの享受を求めました。同性愛者の解放運動も始まり、性的解放につながりました。ジークムント・フロイトやオットー・グロスなどの思想家が活躍しました。

ソ連

ロシア革命後、アレクサンドラ・コロンタイは自由恋愛を提唱しましたが、レーニンはこれに反対しました。ソビエト政府は、同性愛を禁止し、離婚を困難にしていた帝政ロシアの法律を廃止しましたが、スターリン政権下で状況は悪化しました。

日本

日本では、大正時代に与謝野晶子が自由な恋愛を表現し、伊藤野枝はアナーキストの大杉栄と自由恋愛関係に陥りましたが、関東大震災の混乱の中で殺害されました。

現代

1940年代から1960年代にかけて、ビート・ジェネレーションが自由恋愛の伝統を引き継ぎました。アレン・ギンズバーグやウィリアム・S・バロウズのような作家が活躍しました。サンフランシスコのヒッピー文化は、セックスとボヘミアン主義の影響を受けました。セックス研究者のアルフレッド・キンゼイとマスターズ・アンド・ジョンソンの研究は、セックスと結婚に対する伝統的な考え方に挑戦しました。

1967年の「サマー・オブ・ラブ」は、ヒッピー文化をアメリカ全土に広めました。新左翼運動は、結婚を戦争を支持する資本主義文化の象徴として批判しました。ジョン・レノンとオノ・ヨーコは「Make Love Not War」をスローガンに掲げました。

第二波フェミニズムは、伝統的なセクシュアリティに関する教えに疑問を呈し続けました。1973年のロー対ウェイド事件は、中絶へのアクセスを大幅に増加させました。同性愛者の権利も重要な問題となりましたが、21世紀初頭には、ゲイ活動家は同性婚に焦点を移しました。

離婚や事実婚がより一般的になり、若いカップルは結婚という形式にこだわらなくなりました。自由恋愛の理念は、社会に多様な関係のあり方を認識させ続けています。

もう一度検索