至聖三者聖セルギイ大修道院

至聖三者聖セルギイ大修道院（Троице-Сергиева лавра）は、モスクワから北東約70キロメートルに位置するセルギエフ・ポサードにある、ロシア正教会において最も重要な修道院の一つです。この修道院は、その精神的な支柱としての地位を確立しており、「トローイツェ・セルギエヴァ・ラーヴラ」とも呼ばれます。

概要

1345年、ラドネジの聖セルギイによって至聖三者（三位一体）を記念する聖堂が建てられたのが修道院の始まりです。修道院は、設立当初から聖セルギイの指導の下で発展を続け、その後の歴史においても拡大を遂げました。15世紀には、アンドレイ・ルブリョフによる有名なイコン『至聖三者』が、修道院内の至聖三者大聖堂に納められました。16世紀には、修道院内最大の大聖堂である生神女就寝大聖堂が建立されました。

17世紀には、前駆授洗イオアン誕生教会や聖セルギイの食堂が建設されました。18世紀にはラヴラの称号が与えられ、高さ88メートルのバロック様式の鐘楼が建てられました。また、院内には神学校が設置され、19世紀には神学大学に改組されました。

20世紀にはロシア革命の影響で修道院は大きな打撃を受けましたが、ソ連崩壊後に復興し、1993年には建造物群が世界遺産に登録されました。修道院には、創設者であるラドネジの聖セルギイをはじめ、多くの聖人の不朽体が安置されており、歴代のモスクワ府主教や総主教の墓も存在します。至聖三者セルギイ大修道院の修道院長は、モスクワおよび全ロシアの総主教が務めます。

歴史

起源

修道院は、1345年にラドネジの聖セルギイによって創設されました。マコヴェッツ丘に建てられた至聖三者を記念する木造教会が起源とされています。聖セルギイは、修道院の初期発展に大きく貢献し、彼の弟子たちが修道院の規範を確立しました。1355年には、食堂、台所、製パン所などの施設が追加されました。

ラドネジの聖セルギイは、中世ロシアにおいて大きな影響力を持ち、紛争の仲介役としても活躍しました。特にモスクワ大公ドミトリー・ドンスコイを支持し、1380年のクリコヴォの戦いでは、戦いに赴くドンスコイを祝福し、彼の元で修道士であったペレスヴェートとオスリャービャを戦場に送りました。1408年、修道院はタタール人の襲撃を受け、火災に見舞われました。

聖セルギイの没後

1392年に聖セルギイが亡くなった後、1422年に最初の石造りの聖堂が、コソボの戦い後に逃れてきたセルビア人修道士たちによって建立されました。この聖堂は、聖セルギイの禁欲と神との一体感を象徴しており、至聖三者大聖堂として献堂されました。1452年、ラドネジのセルギイは聖人に列せられました。

至聖三者大聖堂のイコノスタスは、アンドレイ・ルブリョフとダニイル・チョールヌィイによって装飾されました。モスクワ大公国の諸侯は、至聖三者大聖堂で洗礼を受け、感謝の祈りを捧げるのが伝統となりました。1476年には、イワン3世によって聖神聖堂が建設され、ロシア正教会の教会建築の古い様式を示すものの一つとなりました。

セルギエフ・ポサードの発展

1559年、イヴァン雷帝の命により、生神女就寝大聖堂が建設されました。この大聖堂は、モスクワのクレムリンにある同名の聖堂を模して造られました。大聖堂のイコノスタスには、シモン・ウシャコフの傑作である「機密制定の晩餐」のイコンがあります。1684年には、内陣の壁面にヤロスラヴリの職人によるフレスコ画が描かれました。

修道院は寄進により裕福になり、周囲の森は伐採され、門前町が形成されました。この門前町が現在のセルギエフ・ポサードです。修道院はロシア史の記録とイコンの中心地となり、1547年には聖パラスケワ教会が建設され、聖パラスケワ女子修道院が創設されました。

大修道院

16世紀には、モスクワ防衛のために修道院の周囲に12基の塔を備えた石壁が築かれました。1608年から1610年にかけて、ポーランド・リトアニア共和国による包囲戦にも耐え抜きました。17世紀末には、ピョートル大帝が政敵から逃れるために修道院を利用し、皇帝を迎えるための施設が多数建設されました。聖セルギイの食堂は、ロシア最大級の室内空間でした。1693年から1699年にかけて、門上プレッテンチェースカヤ教会が建設されました。

1744年、女帝エリザヴェータ・ペトローヴナによって、修道院はラヴラの称号を与えられました。以後、モスクワ府主教が修道院長を兼務するようになりました。エリザヴェータの行幸には、寵臣アレクセイ・ラズモフスキー伯爵も同道しました。また、イワン・ミチューリンとドミトリー・ウフトムスキーによる高さ88メートルのバロック式鐘楼が建てられました。

ロシア 正教会の中心的大修道院として

1764年、女帝エカテリーナ2世によって修道院の領地と農奴は国有化されました。しかし、19世紀を通して、至聖三者セルギイ大修道院は最も豊かな修道院であり続けました。1742年に設立された神学校は、1814年に教会アカデミーに改組されました。修道院は写本と正教関係の書籍の一大コレクションを誇り、中世の聖具室も多くの訪問客を集めました。

ロシア革命後

1917年のロシア革命後、1920年に修道院は閉鎖され、ソ連政府によって国有化されました。1930年には鐘が鋳つぶされ、多くの文化遺産が失われました。しかし、第二次世界大戦後、1945年に修道院はロシア正教会に返還され、1946年に聖堂が再開されました。1960年代から1970年代にかけて、文化遺産の修復が行われ、1993年にはユネスコによって世界遺産に登録されました。

現在、至聖三者セルギイ大修道院では、朝5時から計4つの聖体礼儀が行われ、多くの巡礼者や信者が参祷します。修道院にはホテルも設置され、巡礼者を受け入れています。

世界遺産登録経緯

1920年ソ連政府によって文化財博物館となり、その後、ロシア正教会によって修復が行われました。1993年、ユネスコにより修道院全体と周辺の建造物群が世界遺産に登録されました。

登録基準

世界遺産登録基準のうち、以下の条件を満たし登録されました。

(2) ある期間を通じてまたはある文化圏において、建築、技術、記念碑的芸術、都市計画、景観デザインの発展に関し、人類の価値の重要な交流を示すもの。
(4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。

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