舞木検査場

概要と沿革

愛知県岡崎市舞木町に位置する舞木検査場は、名古屋鉄道が保有する主要な車両工場の一つです。名鉄名古屋本線の藤川駅と名電山中駅のほぼ中間にあたる場所にあり、電車の検査や整備を行う重要な施設として機能しています。1997年（平成9年）3月12日に新たな施設としてその運用を開始しました。

この検査場の開設は、名古屋本線の鳴海駅周辺で行われた高架化工事に伴い、それまで主要な車両工場であった鳴海工場が当地へ移転してきたことが契機となっています。加えて、新川検車区に併設されていた新川工場で行われていた機能も同時に舞木検査場へ集約されました。開設当初は「舞木定期検査場」と呼ばれていましたが、2000年（平成12年）に現在の「舞木検査場」へと名称が改められています。環境への配慮も積極的に進められており、2000年（平成12年）6月19日には国際環境規格であるISO14001の認証を取得しています。

設備と機能

舞木検査場は、約46,000平方メートルにおよぶ広大な敷地を有しています。この敷地内には、複数の線路設備が設けられています。具体的には、最大8両編成に対応できる留置線が2本、最大10両編成に対応できる留置線が1本、そして最大6両編成が使用可能な引上線が1本配置されています。さらに、検査や整備を終えた車両の性能を確認するための、長さ約400メートルに及ぶ試運転用の線路も備えられています。

ここで検査・整備の対象となるのは、名古屋本線を中心とした名鉄の車両群が中心です。それに加え、名古屋市交通局から検査を受託している7000形車両や、瀬戸線で使用される車両の台車や床下機器など、多岐にわたる種類の車両や機器のメンテナンスが実施されています。名古屋本線との車両の出入りは、敷地の豊橋側にある舞木信号場を経由して行われます。ただし、舞木信号場や最寄りの名電山中駅では折り返しができない構造になっているため、名古屋方面へ車両を出し入れする際は、一つ豊橋寄りの本宿駅まで回送して折り返し作業を行う必要があります。

専門職場の役割

検査場内は、その役割に応じて専門化されたいくつかの職場に分かれています。主な職場として、台車職場、電動機職場、電機職場、制動職場、そして車体職場があります。

台車職場: 車両から分離された台車は、専用の台車トラバーサーを用いてこの職場へ運び込まれます。ここでは、台枠をはじめ、軸箱や車輪といった主要部品に至るまで細かく分解し、それぞれの点検や整備が行われます。
電動機職場: 車両の走行に不可欠な主電動機（モーター）は、台車から取り外されてこの職場で整備されます。直流モーターの場合は、ブラシの交換や整流子の清掃・研磨といった作業が必要ですが、交流モーターは比較的構造がシンプルであるため、内部の清掃が主な作業となります。また、車両に必要な電力を供給する補助電源装置（電動発電機や静止形インバータ）や、ブレーキなどに使用される空気を作り出すコンプレッサーなども、この職場で整備対象となっています。
電機職場: 車両の走行を制御する装置や、運転士・乗務員が操作する機器などが整備される職場です。近年普及しているVVVFインバーター制御装置は、メンテナンスフリー化が進んでおり整備が容易ですが、抵抗制御や界磁添加励磁制御といった従来の方式の制御装置は、複雑なカム機構や多数の接点、カムモーターなどがあり、より細やかな点検・整備が求められます。その他、運転台にあるマスコンハンドル、車掌スイッチ、行き先表示器、放送用アンプ、集電装置であるパンタグラフ、車内の空調機器などもこの職場で点検・修理が行われています。
制動職場: 車両を安全に停止させるためのブレーキ装置や、車両の高さ調整を行うレベリングバルブ、警笛など、主に空気圧や油圧、機械的な制動に関わる機器の整備が行われます。
* 車体職場: 車両の外観や内装に関する整備を行います。車内のカーテンの点検や交換、車体の塗装などが主な作業です。近年増えているステンレス製車両は、運転台部分を除いて塗装が必要ない箇所が多いため、かつての赤い電車に比べてメンテナンスが容易と思われがちですが、実際には細かい汚れを徹底的に落とすために、塗装の前段階で「水研ぎ」と呼ばれる作業が行われることもあります。また、床下機器に付着した頑固な汚れを効率的に除去するため、日本で初めてドライアイス洗浄装置が導入されたことでも知られています。

構内入換

広大な検査場構内での車両の移動や入換には、専用の車両が用いられています。かつて名鉄で使用されていた電気機関車である旧デキ300形303号機が、現在は車両としては除籍されていますが、機械扱いで構内入換用として使用されています。さらに、整備工場建屋内の細やかな入換作業には、アント工業製の軌陸両用入換機（線路と道路の両方を走行可能な特殊車両）も機械扱いで使用されています。

保存車両

舞木検査場内には、鉄道史において貴重な車両が静態保存されています。かつて名鉄築港線で浮上走行の実験が行われたHSST（高速表面交通システム）の実験車両であるHSST-100形が保存されています。また、名鉄を代表する往年の名車である3400系のモ3401号、通称「いもむし」の愛称で親しまれた5500系の5517号（「チョコツートン」と呼ばれる塗装だった車両）の前頭部、そして特急「パノラマDX」として活躍した8800系の8803号の展望室部分と台車も保存されています。

特に、2008年（平成20年）12月からは、名鉄を象徴する車両である7000系パノラマカーのモ7001-7002号車が静態保存されています。このうち、モ7001号車は登場当時の美しい姿に復元されて保存されており、鉄道ファンにとって貴重な存在となっています。これらの車両は、保存が決定した同年11月9日に本宿駅から伊奈駅まで臨時列車「フェニックスエンブレム復活運転」として走行した後、舞木検査場へ回送されました。その回送時には、モ7002号車の行先系統板の下部に「まいぎ」という表記が特別に入れられていたというエピソードもあります。

その他の活動

過去には、この検査場に隣接して「名鉄住商工業舞木工場」が存在しました。ここでは、愛知環状鉄道からえちぜん鉄道へ譲渡されたMC6001形やMC6101形といった車両の両運転台化改造などが実施されていました（名鉄住商工業は後に名鉄本体へ統合されています）。

また、舞木検査場は一般向けの鉄道イベントの会場としても利用されています。2022年（令和4年）4月23日には、家族向けの鉄道イベントである「第14回名鉄でんしゃまつり」が開催されました。新型コロナウイルスの影響により2020年（令和2年）と2021年（令和3年）は中止となっていたため、この時の開催は3年ぶりとなりました。

周辺環境

検査場の周辺には、主要道路である国道1号線が通っています。

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