艦船擬人化

艦船擬人化とは

艦船擬人化とは、フィクション作品において、軍用艦船に人間、またはそれに近い性質や特徴を与えて描写する擬人化表現の一種です。2000年代以降、萌え擬人化の一ジャンルとして定着し、兵器擬人化を取り入れた作品が広く見られるようになりました。特に日本、中国、台湾では、漫画やコンピュータゲームといった媒体で様々な作品が発表され、相互に影響し合いながら、一つの大きなカテゴリを形成しています。

ジャンル形成以前

艦船擬人化の萌芽は、ジャンルとして確立する以前から見られました。

『愛宕新聞』: 1934年、高雄型重巡洋艦の2番艦「愛宕」の艦内で発行されていた艦内新聞『愛宕新聞』には、1番艦の「高雄」を「タカ夫君」、愛宕を「アタ子さん」として擬人化したイラストが掲載されていました。
小磯良平のポスター: 1940年、小磯良平が描いた日本郵船の新田丸級貨客船3隻（新田丸、八幡丸、春日丸）を三姉妹に見立てたポスターも、これらの船が後に海軍に徴用され大鷹型航空母艦（大鷹、雲鷹、冲鷹）となったことから、艦船擬人化のルーツとして言及されることがあります。

これらの初期の例に見られるように、艦船擬人化は必ずしも現代のような萌え要素を持つものではありませんでした。また、艦船が女性として描かれることが多いのは、欧米圏で船舶を女性名詞で呼ぶ習慣に影響を受けていると考えられます。

ジャンルの形成期

1990年代以降、萌え擬人化が台頭し、サブカルチャーとしての艦船擬人化が形作られていきました。それ以前の艦船擬人化とは、発生の経緯が大きく異なります。

モデルグラフィックス: 1984年に創刊した模型雑誌『モデルグラフィックス』では、「艦船ちゃんいらっしゃい」という企画が始まりました。この企画では、第二次世界大戦で使用された艦船を可愛らしいものとして捉え、解説していました。1995年頃からは、艦船の兵装を身に着けた少女のイラストが「今月の大鑑巨砲少女」として投稿されるようになります。この企画は、当初は読者投稿ではなく、編集部と関係の深い岡部いさくの告知的なイラストから始まり、読者投稿によるファンアートの掲載は翌月から開始されました。この企画は約7年間続き、2002年以降は総合イラストコーナーに統合されましたが、「艦船ちゃんいらっしゃい」自体はその後も継続されました。『モデルグラフィックス』は、ガンダムの萌え擬人化であるMS少女の企画も行っており、艦船擬人化はMS少女の派生として始まったと考えられています。
バトルシップガール: 2000年には橋本紡による架空戦記「バトルシップガール」が発表されました。この作品では、少女の人格を持った人工知能が搭載された宇宙艦が登場し、艦船擬人化の新たな可能性を示しました。
軍艦越後の生涯: 2001年には中里融司による架空戦記「軍艦越後の生涯」が発表されました。この作品では、艦艇に少女型の「船魂」が宿るという設定で、現代の艦船擬人化作品に繋がる初期の作品の一つとして位置づけられています。
制服兵器兵站局: 2002年には、兵器の萌え擬人化をテーマにしたイラスト投稿サイト「制服兵器兵站局」が立ち上がりました。当初は戦闘機や航空機が中心でしたが、後に陸海空の兵器擬人化を扱う総合サイトとなりました。2014年に閉鎖されるまでに3000枚以上のイラストが投稿され、多くのイラストレーターがここから輩出されました。サイト閉鎖後、一部のイラストは散逸しましたが、現在は後継サイトが投稿記録を保持しています。

商業展開とジャンルの確立

2000年代後半以降、艦船擬人化は商業的な展開を見せ、その人気を確固たるものにしていきます。

MC☆あくしず: 2006年に創刊された『MC☆あくしず』は、艦船だけでなく、戦車や軍用機など、近代兵器全般の萌え擬人化を扱う専門誌です。同誌から派生したゲーム作品も登場し、艦船擬人化の人気を牽引しました。
萌え萌え2次大戦シリーズ: 2007年には、システムソフト・アルファーが『大戦略』シリーズのスピンオフとして『萌え萌え2次大戦(略)』を発売しました。この作品では、「鋼の乙女」と呼ばれるユニットとして、擬人化された艦船が登場しました。
蒼き鋼のアルペジオ: 2009年、漫画『蒼き鋼のアルペジオ』の連載が始まりました。この作品では、艦が自らの構成素材から生み出した人間体の「メンタルモデル」が登場し、艦船擬人化の新たな表現方法を提示しました。2013年にはアニメ化もされ、人気を博しました。
Battleship Girl -鋼鉄少女-: 2011年には、台湾の漫画家である皇宇（ZECO）が、漫画『Battleship Girl -鋼鉄少女-』を連載しました。この作品は、艦艇の擬人化に焦点を当て、独特なデザインが特徴です。

『艦これ』の登場とジャンルの確立

2013年、ブラウザゲーム『艦隊これくしょん -艦これ-』がリリースされ、艦船擬人化は一大ブームを巻き起こします。『艦これ』は、従来の兵器擬人化ゲームとは一線を画し、艦船擬人化を一つのジャンルとして確立させました。

『艦これ』はアニメ化や様々なメディアミックス展開が行われ、後続作品に大きな影響を与えました。しかし、DMMの海外アクセス遮断方針により、海外では『艦これ』のフォロワー作品が多数登場することになります。

『艦これ』フォロワーの登場とその後

『艦これ』の成功を受け、中国や台湾を中心に、『艦これ』と共通のコンセプトを持つゲームが多数リリースされました。

戦艦少女: 2014年にリリースされた『戦艦少女』は、当初は『艦これ』の影響が強かったものの、リニューアル後は独自の路線を歩んでいます。日本版もリリースされ、人気を集めています。
少女艦隊: 2017年にリリースされた『少女艦隊』は、恋愛シミュレーションゲームの要素を取り入れているのが特徴です。戦闘時には実艦に変形するという設定も斬新です。
アズールレーン: 2017年にリリースされた『アズールレーン』は、シューティングゲームとしての側面を強く打ち出し、『艦これ』とは異なるゲーム性で人気を博しています。
アビス・ホライズン: 2018年にリリースされた『アビス・ホライズン』は、3DアクションRPGとして、高いグラフィックとアクション性が特徴です。
ブラック・サージナイト: 2020年にリリースされた『ブラック・サージナイト』は、闇堕ちした艦船が登場するという独自のシナリオが特徴です。
パズルガールズ: 2021年にリリースされた『パズルガールズ』は、パズルゲームとしての要素を取り入れ、宇宙を舞台にした世界観で他の作品と差別化を図っています。
Victory Belles: 2023年にリリースされた『Victory Belles』は、キャラクターの言語を出身国に合わせており、全てのキャラクターを同一の原画家が描いているという特徴があります。

この他にも、様々な艦船擬人化ゲームが登場しており、ジャンルは多様化を続けています。また、中国では、これらの艦船擬人化ゲームの略称として、「艦○」という通称が使われることもあります。

艦船擬人化の今後

艦船擬人化は、単なる萌え要素に留まらず、歴史的背景や軍事的な知識を織り交ぜた作品も登場しています。また、ゲーム以外のメディア展開も盛んであり、今後も様々な形で発展していくことが予想されます。

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