花田長太郎
大正から昭和にかけて将棋界で活躍した花田長太郎は、1897年7月6日に北海道函館市に生まれました。関根金次郎十三世名人に師事し、没後に九段を追贈されています。
花田は18歳で上京し、1914年（大正3年）に棋士の道を歩み始めました。入門翌年の1915年には、兄弟子の土居市太郎七段との対局記録が残っており、当時二段だった花田は飛車落とされで敗れています。しかし、土居ら兄弟子たちの指導を受けながら実力をつけ、1917年には四段へと昇段を果たしました。
当時の将棋界は、師である関根と兄弟子の土居の対立から将棋同盟社が分裂するなど混乱期にありました。花田は兄弟子の金易二郎らと共に、師の関根に従い「東京将棋倶楽部」を結成します。この時期、若き日の木村義雄も花田や金の棋力を目標としていたといいます。
1922年には七段に昇段し、当時の大棋士であった坂田三吉と平手で対局し勝利しました。この一戦は、坂田が得意とする袖飛車に対して、花田が深い研究でこれを打ち破った名局とされ、今日の定跡手順としても知られています。
1925年には八段に昇段します。これは前年の将棋三派合同により東京将棋連盟が結成された際に増員された八段の一人でした。この決定に対し、坂田三吉が不満を抱き、自ら名人を称して関東棋界との関係を断つ一因ともなりました。同年には、木村義雄と初めてラジオによる対局を行っています。
1935年、関根十三世名人が勇退を表明し、実力によって名人を決定する制度が始まると、花田は八段のみが出場する第1期名人決定特別リーグ戦に参加しました。リーグ初戦は同年6月26日の金子金五郎との対局でした。しかし、同年11月に神田辰之助の八段昇段を巡る問題（神田事件）が深刻化すると、金子と共に連盟を脱退し、神田と合流して「将棋革新協会」を設立、その会長に就任します。その後、関根や小菅剣之助らの仲介により、半年後の1936年6月29日に連盟と和解し、名人決定リーグに復帰を果たしました。
リーグ戦では、弟弟子である木村義雄との激しい首位争いを展開しました。しかし、この頃には既に他の八段棋士を次々と「指し込み」に追い込むほど圧倒的な力をつけていた木村との間には、次第に差が開いていきました。名人決定特別リーグでの成績は互角でしたが、他の棋戦における勝敗で差がついたのです。1937年には、長らく関東棋界と絶縁状態だった坂田三吉が木村・花田との対戦を希望した際、花田は木村と共にこれを受け、「天竜寺の決戦」と呼ばれる対局で坂田に勝利しました。同年12月、名人戦リーグ最終局で木村と対戦し、千日手指し直しという熱戦の末に敗れました。リーグ戦では同じ13勝2敗の成績でしたが、一般棋戦での成績差により二位に終わります。この木村との最終戦は、花田が革新協会の会長であったことから、連盟残留派と分裂派の対決として「湯河原の決戦」とも称され、世間の注目を集めました。
第二次世界大戦中の1943年、第4期名人戦の挑戦者決定リーグに繋がる予備手合で木村と対戦しましたが、香落ちと平手の二番勝負で連敗を喫しました。
戦後、将棋界が再始動する中で、1947年の第6期名人戦では弟子の塚田正夫が木村から名人位を奪取するという快挙を成し遂げました。この時の喜びを、花田は「うれしくてうれしくて、なにも申し上げようがありません」と語ったと伝えられています。
翌1948年に行われた第7期名人戦の挑戦者決定戦では、前年に名人位を失った木村を抑えて第2期順位戦で3位に入り、升田幸三、大野源一、大山康晴と共に挑戦者決定トーナメントへの出場資格を得ました。初戦は大山康晴との対戦に決まっていましたが、既に病に侵されていた花田は無念の棄権を選択し、不戦敗となります。そして、その直後の1948年2月28日、50歳という若さでこの世を去りました。「せめてもう香車一本強くなりたかった」という言葉を遺したといわれています。その功績を称え、1962年に九段が追贈されました。
棋士としては、終盤の寄せに特に力を発揮したことから「寄せの花田」「終盤の花田」と呼ばれ、序盤の金子金五郎、中盤の木村義雄と並び称されることもありました。また、「将棋の虫」と称されるほど研究熱心であり、特に戦前、主流だった相掛かり戦法において「花田定跡」として知られる手順を複数確立した業績を残しています。
人物としては、米よりもパンを好み、牛肉を好物としていたため、戦時中に牛肉が手に入りにくい状況を嘆いていたという逸話も残っています。
花田長太郎は棋士として複数の著書も出版しており、『名人八段指将棋全集(7) 花田長太郎集』や、塚田正夫との共著である『平手将棋の新しい指し方』などがあります。
若くして亡くなった花田長太郎ですが、その卓越した終盤力と研究熱心な姿勢は多くの棋士に影響を与え、将棋史にその名を刻んでいます。
主な昇段履歴は以下の通りです。
1914年 入門
1917年 四段
1925年 八段
1962年 九段（追贈）
花田は18歳で上京し、1914年（大正3年）に棋士の道を歩み始めました。入門翌年の1915年には、兄弟子の土居市太郎七段との対局記録が残っており、当時二段だった花田は飛車落とされで敗れています。しかし、土居ら兄弟子たちの指導を受けながら実力をつけ、1917年には四段へと昇段を果たしました。
当時の将棋界は、師である関根と兄弟子の土居の対立から将棋同盟社が分裂するなど混乱期にありました。花田は兄弟子の金易二郎らと共に、師の関根に従い「東京将棋倶楽部」を結成します。この時期、若き日の木村義雄も花田や金の棋力を目標としていたといいます。
1922年には七段に昇段し、当時の大棋士であった坂田三吉と平手で対局し勝利しました。この一戦は、坂田が得意とする袖飛車に対して、花田が深い研究でこれを打ち破った名局とされ、今日の定跡手順としても知られています。
1925年には八段に昇段します。これは前年の将棋三派合同により東京将棋連盟が結成された際に増員された八段の一人でした。この決定に対し、坂田三吉が不満を抱き、自ら名人を称して関東棋界との関係を断つ一因ともなりました。同年には、木村義雄と初めてラジオによる対局を行っています。
1935年、関根十三世名人が勇退を表明し、実力によって名人を決定する制度が始まると、花田は八段のみが出場する第1期名人決定特別リーグ戦に参加しました。リーグ初戦は同年6月26日の金子金五郎との対局でした。しかし、同年11月に神田辰之助の八段昇段を巡る問題（神田事件）が深刻化すると、金子と共に連盟を脱退し、神田と合流して「将棋革新協会」を設立、その会長に就任します。その後、関根や小菅剣之助らの仲介により、半年後の1936年6月29日に連盟と和解し、名人決定リーグに復帰を果たしました。
リーグ戦では、弟弟子である木村義雄との激しい首位争いを展開しました。しかし、この頃には既に他の八段棋士を次々と「指し込み」に追い込むほど圧倒的な力をつけていた木村との間には、次第に差が開いていきました。名人決定特別リーグでの成績は互角でしたが、他の棋戦における勝敗で差がついたのです。1937年には、長らく関東棋界と絶縁状態だった坂田三吉が木村・花田との対戦を希望した際、花田は木村と共にこれを受け、「天竜寺の決戦」と呼ばれる対局で坂田に勝利しました。同年12月、名人戦リーグ最終局で木村と対戦し、千日手指し直しという熱戦の末に敗れました。リーグ戦では同じ13勝2敗の成績でしたが、一般棋戦での成績差により二位に終わります。この木村との最終戦は、花田が革新協会の会長であったことから、連盟残留派と分裂派の対決として「湯河原の決戦」とも称され、世間の注目を集めました。
第二次世界大戦中の1943年、第4期名人戦の挑戦者決定リーグに繋がる予備手合で木村と対戦しましたが、香落ちと平手の二番勝負で連敗を喫しました。
戦後、将棋界が再始動する中で、1947年の第6期名人戦では弟子の塚田正夫が木村から名人位を奪取するという快挙を成し遂げました。この時の喜びを、花田は「うれしくてうれしくて、なにも申し上げようがありません」と語ったと伝えられています。
翌1948年に行われた第7期名人戦の挑戦者決定戦では、前年に名人位を失った木村を抑えて第2期順位戦で3位に入り、升田幸三、大野源一、大山康晴と共に挑戦者決定トーナメントへの出場資格を得ました。初戦は大山康晴との対戦に決まっていましたが、既に病に侵されていた花田は無念の棄権を選択し、不戦敗となります。そして、その直後の1948年2月28日、50歳という若さでこの世を去りました。「せめてもう香車一本強くなりたかった」という言葉を遺したといわれています。その功績を称え、1962年に九段が追贈されました。
棋士としては、終盤の寄せに特に力を発揮したことから「寄せの花田」「終盤の花田」と呼ばれ、序盤の金子金五郎、中盤の木村義雄と並び称されることもありました。また、「将棋の虫」と称されるほど研究熱心であり、特に戦前、主流だった相掛かり戦法において「花田定跡」として知られる手順を複数確立した業績を残しています。
人物としては、米よりもパンを好み、牛肉を好物としていたため、戦時中に牛肉が手に入りにくい状況を嘆いていたという逸話も残っています。
花田長太郎は棋士として複数の著書も出版しており、『名人八段指将棋全集(7) 花田長太郎集』や、塚田正夫との共著である『平手将棋の新しい指し方』などがあります。
若くして亡くなった花田長太郎ですが、その卓越した終盤力と研究熱心な姿勢は多くの棋士に影響を与え、将棋史にその名を刻んでいます。
主な昇段履歴は以下の通りです。
1914年 入門
1917年 四段
1925年 八段
1962年 九段（追贈）
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。