草深原

草深原(そうふけっぱら)とは



千葉県印西市に存在した、多様な生物が生息する貴重な草原でした。かつては「奇跡の原っぱ」とも呼ばれましたが、都市開発によりその姿を消しました。

地理と地形



草深原は、印西牧の原駅の北側に位置し、約50ヘクタールの広さがありました。周囲には下総台地と谷津が広がる、特有の地形環境を持っていました。

開発前は、雑木林湿地が混在する里山でしたが、1969年から始まったニュータウン開発により、地形は大きく改変されました。大規模な造成工事によって表土が剥がされ、粘土層が露出、里山は崩され、湿地は埋め立てられ、平坦な土地へと姿を変えました。

開発後、40年ほどは本格的な造成が行われず、結果として、特殊な環境が維持されることとなりました。

植生と生態系



通常、草原は放置すれば森林化しますが、草深原では、造成後の平地を人の手で管理することで草原が維持されました。露出した粘土層は植物の生育を困難にしましたが、逆にその環境に適応した植物が侵入し、関東の山岳地帯に生息する植物も見られるようになりました。

その結果、オキナグサなど、関東地方に分布する草原性植物の約24%が生育し、トンボ、ゲンジボタル、ジャノメチョウなど、多くの絶滅危惧種を含む多様な生き物の生態系が形成されました。また、ノウサギやネズミなどの小動物も多く生息し、それらを餌とするホンドギツネやコミミズクも確認されていました。

評価



草深原は、20世紀後半から激減した草地環境において、生物多様性のホットスポットとして重要な場所でした。専門家は、人の手が加わったことで偶然生まれた環境であると指摘し、駅に近い場所に国立公園級の生態系があることを驚きをもって評価しました。

また、キツネの生息についても、千葉県内では珍しく、茨城県から利根川を越えてきた個体である可能性が指摘されています。草深原の風景は、江戸時代の小金牧や、北総台地の原風景を彷彿とさせるとも評されました。

このような背景から、草深原は「奇跡の原っぱ」と呼ばれるようになりました。

開発再開と保全運動



UR(都市再生機構)は、会計検査院の指摘を受け、未利用地の改善を求められました。そして、開発事業の終了期限が迫っていたことから、2012年に宅地造成を再開しました。これに対し、日本自然保護協会や地元の市民団体は、生態系の保全を求め、URや千葉県に要望書を提出しましたが、開発は強行されました。

専門家からは、草深原が関東地方で最も保全すべき草地であるとの意見が出され、学会からも造成の一時中断や草原の保全を求める要望書が提出されました。しかし、URは事業終了期限を理由に開発を推し進めました。

市民団体は、環境保全を求める署名活動を行い、多くの署名を集めましたが、開発は止まりませんでした。狭山丘陵トトロの森で行われたナショナル・トラスト方式も提案されましたが、高額な土地価格から実現には至りませんでした。

その後



延期されていた開発が2014年に再開され、駅に近い地域は住宅地となりました。2017年には、工業団地としての開発も進められました。かつて多様な生物が息づいていた草深原は、宅地や工業団地へと姿を変えました。

呼称と逸話



草深原は、「そうふけばら」または「そうふけっぱら」と呼ばれていました。印西町時代には、草深原に生息するキツネを題材とした民話も語り継がれていました。

かつて「奇跡の原っぱ」と呼ばれた草深原は、都市開発によって失われましたが、その存在は、生物多様性の重要性や、開発と環境保全のあり方について、私たちに多くのことを問いかけています。

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