菊池義武

菊池義武：肥後菊池氏最後の当主、その生涯と悲劇

菊池義武（きくち よしたけ）は、戦国時代の武将であり、肥後菊池氏の最後（26代）の当主として知られています。彼は豊後国の大名・大友氏の出身で、大友重治とも呼ばれていました。曽祖父に菊池氏一門の木野親則を持つなど、菊池氏の血を引く人物でもありました。

生涯

永正2年（1505年）、菊池義武は豊後国の大名・大友義長の次男として生を受けました。当時の肥後国では、名族・菊池氏が家督争いの内紛を繰り広げていました。父・義長は、表向きは当主・菊池政隆を支持していましたが、裏では菊池氏の家督を狙う阿蘇氏出身の菊池武経を支援していました。やがて、義長は公然と筑後・肥後へ侵攻し、政隆を滅ぼします。

その後、義長は武経を排除し、自身の子・菊法師丸（後の義武）を菊池氏の当主に擁立しようと画策しました。永正7年（1510年）には、相良氏に武経排除への協力を求めています。しかし、義長の家中の権力闘争に嫌気が差した武経は、永正7年（1511年）に阿蘇領矢部へ逃亡しました。これにより義長は、菊法師丸を菊池氏の後継者とするよう、菊池氏の重臣や傘下の国人へ公然と働きかけ、菊法師丸に代わって所領の安堵を約束し始めました。しかし、永正15年（1518年）に父・義長が病死してしまいます。

大友氏の家督を相続した義長の嫡男で、菊法師丸の兄・大友義鑑もまた、肥後国に勢力を拡大するために、大きな影響力を持つ菊池氏の乗っ取りを目論んでいました。義鑑は、武経の跡を詫摩氏出身の菊池武包に継がせ、弟・重治の成長後に菊池氏の家督を継がせる密約を結びました。永正17年（1520年）、重治は菊池武包から家督を譲られ、菊池氏の当主となります。重治は享禄4年（1531年）に従四位下左兵衛佐に任じられ、天文3年（1534年）までに義国を経て義武と名を改めました。

この間、義武は兄・義鑑の方針に従い、城氏・赤星氏・隈部氏といった菊池氏庶流の重臣を老中（家老）から外して、大友氏から連れてきた重臣や鹿子木氏、田島氏などの非菊池氏系の国人から老中を選びました。

しかし、天文3年（1534年）、義武は大内義隆や相良氏と同盟を結び、兄に反抗し独立します。その理由は、兄との不仲、自身の野心、あるいは滅びゆく菊池氏の再興を願ったためなど、諸説ありますが、定かではありません。一説には、義武は大友氏当主に未練があり、筑後国領有という領土的野心もあったことが原因だと考えられています。一方、義鑑からすれば、肥後国を自分のものとするための道具であるはずの義武が、自らの意思で動き出すことは容認できない事態でした。

義鑑は、かつて大友氏から義武の老中に派遣されていた山下長就をはじめ、吉岡長増や田北親員らを派遣して筑後国から肥後国に向けて進軍させました。しかし、室町幕府の仲裁によって大友義鑑と大内義隆が和睦を結ぶことになると、支援を失った義武の敗北は決定的となり、義武は肥前国の高来に亡命、結局、姻戚関係にあった相良氏を頼って落ち延びました。天文9年（1540年）には、相良氏や宇土氏ら肥後南部衆の支援を得て木辺で大友方の国人衆と戦い勝利するも、隈本攻めで敗北しました。一方、大友義鑑は肥後の直接統治を決意し、天文12年（1543年）には幕府に働きかけて肥後守護職を獲得しました。

天文19年（1550年）に兄・義鑑が二階崩れの変で横死すると、義武は鹿子木氏や田島氏の支援を得て再び隈本城を奪還しました。さらに、この変事をきっかけに豊後国内が内乱に陥ると予測して、相良氏・名和氏・三池氏・溝口氏ら肥後南部・筑後南部の国人衆と連合して肥後全土の制圧を目指しました。しかし、甥の大友義鎮（後の宗麟）は直ちに国内の混乱を鎮圧すると、義武を一族から義絶する旨を表明して大軍を派遣し、隈本城は落城、義武は島原に落ち延びました。義鎮は義武討伐に協力した阿蘇氏との関係を強化し、これまで排除の対象であった城氏・赤星氏・隈部氏を取り立てることで肥後支配の安定を確立させることになります。

相良氏当主の相良晴広は、薩摩国の島津忠良に義武と義鎮の和睦周旋を依頼するなど努めたものの、講和は成りませんでした。また、義武は天文23年（1554年）に剃髪して日向国か薩摩国に亡命しようとするも果たせませんでした。同年11月、義鎮の和平を口実にした帰国の誘いに乗り豊後へ向かいましたが、その途上、直入郡木原で義鎮の家臣・立花道雪とその配下の軍勢に包囲され、自害を余儀なくされました。享年50。義武の死により、肥後の名門菊池氏は名実共に滅亡しました。

人物

義武は、兄に似ず凡庸な人物であったと伝えられています。政治・軍事は家臣に任せきりで、権勢に驕り横暴な振る舞いが多かったとされています。重臣で自身の曽祖父にあたる木野親則はしばしば諫言をしましたが、義武は聞き入れず、逆に親則を殺してしまったとされています。

菊池義武の生涯は、戦国時代の地方豪族が、大勢力に翻弄されながらも生き残りをかけて戦った悲劇を象徴していると言えるでしょう。

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