萩往還

萩往還：歴史と文化の道

萩往還は、山口県萩市と防府市を結ぶ、江戸時代に整備された全長約53キロメートルの街道です。関ヶ原の戦後、毛利氏が萩城に移った慶長9年（1604年）に、幅4メートルの重要な道路として整備されました。萩城下町の唐樋札場を起点に、明木、佐々並、山口市を経由し、三田尻（現在の防府市）に至るルートは、西国街道とを繋ぐ参勤交代路として、また、日本海側の萩と瀬戸内海側の商港・中関港を結ぶ重要な役割を果たしました。

当時、萩往還には石畳が敷かれ、旅人の休息所である立場や一里塚、往還松などが設けられ、整備された街道として機能していました。幕末には、多くの志士たちがこの道を往来した記録も残っています。しかし、明治時代以降は利用者が減少し、道は荒廃し、険しい山道などは廃道となりました。

現在、萩往還の大部分は国道262号や山口県道62号山口旭線として整備され、萩市、山口市、防府市を結ぶ重要な幹線道路となっています。萩市明木地区や佐々並地区には、当時の面影を残す遺構が一部現存しており、昭和52年（1977年）から復元・整備が進められました。その結果、萩市から防府市に至る古道と関連遺跡群は、平成元年（1989年）に国の史跡「萩往還」として指定されました。さらに、平成8年（1996年）には文化庁選定の歴史の道百選、平成16年（2004年）には萩―山口間が美しい日本の歩きたくなるみち500選に選ばれ、平成19年（2007年）には日本風景街道にも登録されました。平成23年（2011年）には、佐々並地区が国の重要伝統的建造物群保存地区にも選定されています。

主な関連史跡

萩往還沿線には、多くの歴史的史跡が点在しています。

萩市

唐樋札場跡: 萩往還の起点であり、萩と三田尻を結ぶ一里塚の基点でもありました。明治維新後に取り壊されましたが、平成22年（2010年）に復元され、国の史跡に追加指定されています。
涙松遺址: 往来者が涙を流したという言い伝えが残る松並木跡です。吉田松陰が安政の大獄で江戸に送られる際に詠んだ歌の碑も建立されています。
悴坂一里塚: 唐樋札場から最初の一里塚です。
一升谷の石畳: 長く急勾配の谷間に造られた石畳で、雨による崩落を防ぐために造られたと考えられています。
落合の石橋: 萩往還のほぼ中間点に位置する石橋で、国の登録有形文化財に登録されています。

山口市

国境の碑: 長門国と周防国を分ける国境を示す碑です。
六軒茶屋跡・一の坂駕籠建場跡: 萩往還最大の難所とされる一の坂にあった休息所です。藩主の休憩所である駕籠建場も復元されています。

防府市

宮市本陣兄部家: 寛永19年（1642年）から明治時代にかけて本陣を務めた旅館で、西国大名などが宿泊しました。平成元年（1989年）に国の史跡に指定されましたが、平成23年（2011年）の火災で焼失し、現在は表門など一部施設を除いて見学できません。
三田尻御茶屋跡: 長州藩の公館で、参勤交代の際に藩主の宿舎として用いられました。
御舟倉跡: 毛利水軍が本拠地とした場所で、軍船の停泊・修理・建造が行われていました。

萩往還は、単なる街道としてだけでなく、歴史や文化を伝える貴重な遺産です。現在も、その歴史と文化を伝える取り組みが続けられています。例えば、山口県立山口高等学校と山口県立萩高等学校では、毎年生徒会主催で萩往還を歩く行事「萩往還を歩く会」が開催されています。

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