毛利水軍

毛利水軍：瀬戸内海を制した毛利氏の水軍

毛利水軍は、戦国時代に瀬戸内海で活躍した毛利氏直轄の水軍です。毛利氏が勢力を拡大するにつれて、小早川氏や大内氏の水軍を取り込み、さらには能島村上家、来島村上家、因島村上家からなる村上水軍をも傘下に収め、瀬戸内海の覇権を確立しました。

歴史

発祥

戦国時代初期、中国地方では大内氏と尼子氏の二大勢力が対立していました。安芸国は中小の国人領主が乱立しており、毛利氏は大内氏側、安芸武田氏は尼子氏側に属していました。しかし、1527年に毛利元就が武田元繁に勝利すると、安芸武田氏は衰退しました。その後、大内・毛利連合と尼子・安芸武田連合の抗争が続きますが、1541年の佐東銀山城の戦いで安芸武田氏は滅亡しました。

佐東銀山城のあった佐東郡は、山陽道と瀬戸内海に面した安芸国の流通・経済の中心地であり、佐東川の河口は安芸武田氏の水軍衆の拠点でした。佐東銀山城には大内氏の城番として冷泉隆豊が入りますが、元就は佐東川河口周辺の川ノ内地域を与えられました。これにより毛利氏は、安芸武田氏の水軍衆であった福井氏や山県氏を取り込み、児玉就方や飯田義武を川ノ内警固衆の将に任じました。これが初期の毛利水軍の誕生です。

1543年には元就の三男・小早川隆景が竹原小早川氏の養子となり、1550年には沼田小早川氏も継承し、小早川家は一本化されました。こうして小早川氏が毛利氏と一体化したことで、毛利氏は小早川水軍を傘下に収め、さらに小早川氏と姻戚関係を結んでいた村上氏とも関係を持つこととなりました。

厳島の戦い

1551年、大内義隆が陶隆房の謀反により自害に追い込まれると、元就は毛利直轄水軍の育成を本格化させました。陶氏の謀反を良しとしない吉見氏の挙兵を巡り、毛利氏と陶氏の緊張が表面化すると、1554年、元就は大内氏から独立。佐東銀山城や厳島など海運や水軍の要衝を掌握しました。

1555年、毛利氏と陶氏による厳島の戦いが発生。兵力で劣る毛利軍は、宮尾城を攻めるために厳島に上陸していた陶軍を奇襲により撃滅しました。この戦いでの毛利水軍の戦力は、毛利水軍（川ノ内警固衆）50〜60艘と小早川水軍60〜70艘に、村上水軍の援軍200〜300艘が加わったとされます。村上水軍は、陶氏の瀬戸内海の徴税権を水軍から取り上げる政策に反発して、毛利氏に加わったとも言われています。

この後、元就は防長経略を開始。大内方の水軍であった白井房胤・賢胤親子、小原隆言、弘中方明、冷泉元豊・元満兄弟、賀屋氏、桑原氏・沓屋氏、玖珂郡警固衆、益田藤兼らが帰順しました。また、村上氏も引き続き毛利氏に協力し、関門海峡を封鎖して大内氏の滅亡に貢献しました。

尼子氏・大友氏との戦い

尼子晴久の急死後、元就は尼子氏への攻勢を強め、1562年には出雲へ出陣。毛利水軍は日本海に出陣し、尼子方の隠岐水軍と交戦し、海上輸送ルートを遮断するなど、尼子氏の防衛網を弱体化させました。1566年、尼子義久が降伏し、戦国大名としての尼子氏は滅びました。

その後、1569年に尼子勝久を擁する尼子再興軍が隠岐水軍の力を借りて出雲国に乱入しますが、毛利元秋らの活躍により撃退されました。尼子再興軍に協力した隠岐水軍は毛利氏に降伏し、毛利水軍へと編入されました。

一方、元就は博多の権益奪取も目論んでいました。北九州の諸豪族が次々と毛利氏に恭順すると、大友宗麟は大軍を派遣して毛利軍と対決。毛利水軍は海上輸送の主力として活動し、蓑島合戦や門司城の戦いなどで大友軍と戦い勝利に貢献しました。最終的に北九州からは撤退を余儀なくされましたが、門司城は維持し、関門海峡を両岸から制し続けました。

織田水軍との死闘

元就の死後、毛利氏の当主は毛利輝元となりました。毛利氏の勢力拡大とともに、織田信長の勢力圏と接するようになり、織田氏との関係が悪化。1576年、毛利氏は石山本願寺への兵糧搬入を計画。木津川口で織田水軍を焙烙火矢で壊滅させ、兵糧を運び込むことに成功しました（第一次木津川口の戦い）。しかし、1578年の第二次木津川口の戦いでは、織田水軍が鉄甲船を用意していたため、毛利水軍は敗退しました。これにより石山本願寺への兵糧搬入は滞り、顕如は信長に降伏しました。

この海戦後、大坂湾の制海権は織田方のものとなりましたが、淡路島以西の制海権は毛利水軍が握り続けました。しかし、羽柴秀吉の調略により来島村上氏が離反。毛利氏と能島・因島両村上氏が来島村上氏を攻撃したため、来島兄弟は秀吉の下に逃亡しました。

豊臣政権下

本能寺の変後、羽柴秀吉が天下人となると、毛利氏は秀吉の天下統一に協力し、毛利水軍も四国征伐や九州征伐に出動しました。小田原征伐でも兵員・兵糧の輸送部隊として豊臣軍を支え、文禄・慶長の役では朝鮮への渡海を担い、李舜臣率いる朝鮮水軍と海戦を行いました。

関ヶ原の戦いと幕藩体制下

関ヶ原の戦いで毛利氏が西軍に属したため、防長2ヶ国へ減封。制海権は徳川家の直轄となり、大船建造の禁により水軍の存続は不可能となりました。毛利水軍は長州藩の一組織として縮小され、一部は帰農しました。

組織

毛利水軍は、川ノ内警固衆、小早川水軍を中心に、厳島の戦い前後から防長経略以降にかけて様々な水軍衆を取り込みました。能島村上氏、因島村上氏、来島村上氏などの海賊衆とも協力関係にありました。