葛根田の大岩屋

葛根田の大岩屋（玄武洞）

岩手県雫石町に位置する葛根田の大岩屋は、国の天然記念物に指定されている柱状節理の景勝地です。地元では「玄武洞」の名で親しまれています。岩手山南西の麓、葛根田川沿いにそびえる高さ70メートル、幅約160メートルの巨大な岩壁は、訪れる人々を圧倒する迫力があります。

特徴

この岩壁の最大の特徴は、その下部に発達した高さ約10メートルの柱状節理です。柱状節理とは、溶岩が冷却される際に規則的な割れ目が入って形成される、柱状の岩の集合体のことです。葛根田の大岩屋の柱状節理は、含かんらん石輝石安山岩で構成されており、その独特な形状と美しさから、多くの人々を魅了しています。

歴史

「玄武洞」という通称は、かつて岩壁の下部が洞窟のように見えたことに由来します。しかし、1999年9月3日に発生した大規模な岩盤崩落により、その洞窟状の部分は消失してしまいました。この崩落は、前年の岩手県内陸北部地震の影響によるものと考えられています。崩落後、落石の危険性から、岩壁と県道沿いには大規模な防護柵が設置され、安全対策が施されました。

地質学的特徴

葛根田の大岩屋の柱状節理を形成する溶岩は、小松倉溶岩と呼ばれるもので、石英、単斜輝石、斜方輝石などの斑晶を含んだ、かんらん石玄武岩と安山岩を主体としています。柱状節理は、溶岩流の最下部に位置し、鉱物学的には「石英有単斜輝石斜方輝石かんらん石安山岩」と分類されます。また、岩壁の最下部10メートルは、柱の幅が直線的で大きいcolonnade（コロネード）構造であり、それより上部は柱の幅が狭く曲がっているentablature（エンタブラチャー）構造という、2つの柱状節理構造が連続している珍しい場所でもあります。この構造の違いは、柱状節理の形成過程を解明する上で重要な研究対象となっています。

研究

岩盤崩落は、地質学者にとって希少な現象であり、崩落面の形状の経年変化調査が行われています。3次元モニタリングシステムを使った計測や考察も進められており、柱状節理の構造や形状に関する研究も活発に行われています。

アクセス

所在地: 岩手県岩手郡雫石町長山
交通: 東北自動車道盛岡インターチェンジから車で約40分。JR田沢湖線雫石駅から車で約25分。

まとめ

葛根田の大岩屋は、自然が作り出した壮大な景観と、地質学的な貴重さを兼ね備えた場所です。かつての洞窟状の部分は失われましたが、現在でもその美しい柱状節理と、自然の驚異を感じることができます。地質学の研究対象としても注目されており、訪れる人々を魅了し続けています。

参考文献

加藤陸奥雄他監修・村井貞充、1995年3月20日 第1刷発行、『日本の天然記念物』、講談社
文化庁文化財保護部監修、1971年5月10日 初版発行、『天然記念物事典』、第一法規出版
村井貞充（地質鉱物担当）他、1972年7月15日 初版発行、『岩手の自然 名勝と天然記念物を訪ねて』、社団法人 岩手県文化財愛護協会 岩手県立図書館内
須藤茂、石井武政「雫石地区の地質 Ⅵ. 14 岩手火山群噴出物」『地域地質研究報告』、通商産業省工業技術院地質調査所、1987年11月5日
岩手大学 斎藤徳美 監修「3.盛岡地方振興局 初動体制、災害応急・復旧対策、災害警戒態勢の強化等」『1998年岩手山噴火危機対応の記録』、岩手県総務部総合防災室、2005年3月
阿部大志、高見智之、川村晃寛「岩盤崩落面の3次元モニタリングによる経年変化調査」『研究発表会講演論文集』、日本応用地質学会、2008年10月30日
星出隆志、石橋直、岩橋慶亮「岩手県雫石町玄武洞溶岩の内部構造と岩石組織から推定されるエンタブラチャーの形成過程」『日本地質学会第128年学術大会』、日本地質学会、2021年9月4日

関連項目

根室車石（北海道根室市）
東尋坊（福井県坂井市）
玄武洞（兵庫県豊岡市）
鎧袖（兵庫県美方郡香美町）

外部リンク

葛根田の大岩屋 - 国指定文化財等データベース（文化庁）
国指定記念物（天然記念物）　葛根田の大岩屋 雫石町役場 生涯学習スポーツ課
葛根田の大岩屋 いわての文化情報大辞典 岩手県文化スポーツ部文化振興課 文化芸術担当
* 葛根田渓谷と玄武の大岩屋 一般社団法人 しずくいし観光協会

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