薗田誠一

薗田誠一：多才な音楽家、教育者、評論家

薗田誠一（そのだ せいいち、1905年10月5日 - 1986年8月3日）は、20世紀の日本を代表する声楽家、オペラ歌手、音楽教育者、音楽評論家、音楽学者、そして合唱指揮者として多岐にわたる分野で活躍しました。お茶の水女子大学の名誉教授でもあります。

若き日の研鑽と声楽家としての活躍

千葉県に生まれた薗田は、1930年に東京音楽学校（現在の東京藝術大学音楽学部）を卒業。在学中からマルガレーテ・ネトケ＝レーヴェやヘルマン・ヴーハープフェニッヒといった著名な声楽家に師事し、研鑽を積みました。卒業後は、リサイタルやコンサートを中心に活動を展開し、特にドイツ歌曲の分野でその才能を発揮しました。

戦後、すぐに演奏活動を再開。門下生の柴田睦陸が中心となって結成された東京藝術大学歌劇研究部（後の二期会）では、ベルリオーズのオペラ『ファウストの劫罰』で主役のファウストを務めました。ただし、二期会の結成自体には参加していません。

合唱指揮者としての手腕

薗田は、合唱指揮者としても優れた手腕を発揮しました。1946年から1954年まで東京大学音楽部コールアカデミーの常任指揮者を務めたほか、長門美保歌劇研究所の『魔弾の射手』、名古屋合唱団の指揮も担当。1947年と1949年には東京放送合唱団を指揮し、柴田南雄の作品初演にも携わりました。また、訳詞家としても活動しており、東京混声合唱団の演奏会でリストの歌曲「Oh! Quand je dors」の訳詞を手がけています。

教育者としての貢献

教育者としては、1930年から1943年まで武蔵野音楽学校で指導にあたり、1942年から1949年まで東京女子高等師範学校の教授を務めました。学制改革に伴い、1949年から1969年までお茶の水女子大学教授として教鞭を執りました。この間、1959年から1960年にはアメリカやヨーロッパへ留学し、1964年には日本声楽発声学会の発足にも参画。1969年にお茶の水女子大学の名誉教授となり、1977年まで名古屋芸術大学で後進の指導にあたりました。

薗田の門下からは、柴田睦陸、小川寛興など、多くの優れた音楽家が輩出されました。特に、柴田睦陸の師であったことは、特筆すべき事実でしょう。

音楽評論家としての活動

教育活動と並行して、薗田は音楽雑誌などへの執筆活動も精力的に行いました。特に、歌唱技術に関する論考は、第一線の指導者・研究者としての彼の立場を明確に示しています。また、音楽評論家としても多くの評論を発表し、日本の音楽文化の発展に貢献しました。

長年にわたり、日本音楽コンクール、全日本学生音楽コンクールの声楽部門審査員を務め、音楽界の発展にも大きく貢献しました。

晩年と遺産

1986年8月3日、薗田誠一は80歳でこの世を去りましたが、彼の音楽に対する情熱と教育者としての功績は、今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

受章歴

1976年、長年の音楽活動への貢献が認められ、勲三等旭日中綬章を受章しました。

主な舞台出演

薗田は、数多くの舞台でその歌声を披露しました。以下は、主な舞台出演の記録です。

1932年：東京音楽学校 ワーグナー『ローエングリン』（コンサート形式）タイトルロール
1933年：武蔵野音楽学校演奏会
1933年：東京音楽学校第67回定期演奏会 ベートーヴェン交響曲第9番 テノール独唱
1943年：日本交響楽団臨時公演 ベートーヴェン『第九』 テノール独唱
1943年：出陣学徒のための演奏会 バッハ『マタイ受難曲』 テノール独唱
1947年：長門美保歌劇研究所 カール・マリア・フォン・ウェーバー『魔彈の射手』合唱指揮
1948年：日本交響楽団第295回定期演奏会 ベートーヴェン『荘厳ミサ曲』 テノール独唱
1948年：日本交響楽団臨時定期演奏会 ベートーヴェン『荘厳ミサ曲』 テノール独唱
1949年：関西交響楽団第22回定期演奏会 ベートーヴェン交響曲第9番 テノール独唱
1951年：東京芸術大学歌劇研究部 ベルリオーズ『ファウストの劫罰』 ファウスト
1951年：NHK交響楽団 ヴェルディ『ファルスタッフ』（演奏会形式） バードルフ

主なディスコグラフィー

薗田の歌声は、以下のレコードで聴くことができます。

ハイドン オラトリオ『十字架上の七つの言葉』から「神よ、なぜわたしを見捨てられたのか」
CD8枚組 甦る！NHKラジオ歌謡（オムニバス）
CD7枚組 日本SP名盤復刻選集2、3（オムニバス）

著作・論文

薗田は、多くの著書や論文を執筆しました。以下はその一部です。

著書
『兒童の發聲指導』
『創元音楽講座 第3巻（演奏篇）ドイツ・リート フランス・メロディー』（共著）
論文
「発声法論」

掲載誌等

薗田の文章は、以下の雑誌などに掲載されました。

月刊楽譜
音楽の友
音楽芸術
フィルハーモニー
レコード芸術
教育音楽
日本及日本人

編曲作品

薗田は、以下の作品の編曲も手がけました。

『英国民謡集』
アニーローリー
誰かが誰かと
埴生の宿
思い出
わがパステル
* 楽しがりし昔

薗田誠一は、その多岐にわたる才能と音楽への深い愛情で、日本の音楽文化に大きな足跡を残しました。

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