薮内正幸

薮内正幸：動物への愛と精緻な描写で人々を魅了した動物画家

薮内正幸（1940年5月23日 - 2000年6月18日）は、日本の動物画家、絵本作家として知られています。彼は、独学で絵の技術を習得し、動物学者である今泉吉典のもとで標本画の基礎を学びました。薮内は、「僕は毛描き」と自称するほど、鳥や動物の羽毛や毛の一本一本まで丁寧に描くことに情熱を注ぎました。そのため、彼の描く図鑑の挿絵は非常に精緻でありながら、親しみやすく温かい雰囲気を醸し出しています。生涯で1万点を超える作品を描き、多くの人々に愛されました。

生涯と画業

薮内正幸は、鳥や動物を深く愛し、その姿を精魂込めて描き続けました。快活でユーモアがあり、親しみやすい人柄から、友人たちからは「ヤブさん」と呼ばれていました。彼はまた、鳥や動物たちの生息環境の保護にも強い関心を持っていました。

1940年、大阪府港区に生まれた薮内は、幼少期から鳥や動物に強い興味を持ち、動物園では飽きることなく動物たちを観察し、絵を描いていました。小学生の頃から動物学者との交流を始め、高校時代には鳥類画家の小林重三の作品に感銘を受け、模写に励みました。

福音館書店の編集長であった松居直は、詳細な動物図鑑の刊行を企画しており、挿絵の描き手を探していました。今泉吉典が、高校生であった薮内の絵を見て推薦したことがきっかけで、薮内は上京し、福音館書店に入社しました。そこで、本格的に動物画の勉強を始めます。

福音館書店時代

福音館書店では、動物図鑑の制作に携わる傍ら、動物の骨格や筋肉の動きを学ぶため、国立科学博物館に通い、今泉吉典の指導を受けました。1962年には、鯨類学者である西脇昌治の著書『鯨類・鰭脚類』の挿絵を担当しました。また、小原秀雄と今泉吉典による『世界哺乳類図説』シリーズの挿絵も手がけました。しかし、1964年に「世界哺乳類図説」の企画は中断となりました。その後、薮内の描いた挿絵は、東京大学出版会や新思潮社から出版され、世に出ることになりました。

絵本作家として

図鑑挿絵の仕事がなくなったことで落胆した薮内でしたが、松居直の勧めにより、絵本制作に取り組み始めました。1965年には初の絵本『くちばし』を刊行。この絵本は、多様な鳥のくちばしを正確かつ生き生きと描いた作品として、高い評価を受けました。1966年には幼児向けの絵本『どうぶつのおやこ』を出版し、背景を省略することで動物の姿を際立たせ、子供たちに本物の動物を感じさせました。

1969年には、科学絵本シリーズ「かがくのとも」の創刊号で『しっぽのはたらき』の挿絵を担当し、科学的な正確さと子供の好奇心を刺激する絵を描きました。また、1970年には、西脇昌治著の『くじら』で、科学絵本でありながら物語性のある画面を作り上げました。

斎藤惇夫の児童文学『ガンバの冒険』シリーズの挿絵も担当し、動物を正確に、かつ躍動的に描くことができる画家として、斎藤から高く評価されました。薮内との出会いが、斎藤に新たな物語を生み出すきっかけにもなりました。

独立後の活躍

1971年に福音館書店から独立した後、薮内はフリーの動物画家として活動を始めます。1973年からは、サントリーの「愛鳥キャンペーン」のイラストを担当し、新聞広告やポスターを通じて、環境保護を訴えました。このキャンペーンは、13年間にもわたり継続され、薮内のイラストは多くの人々に親しまれました。

また、1973年から1980年にかけて『日本の野鳥』シリーズ全6巻を福音館書店から刊行。図鑑としての正確さと、絵本としての美しさを兼ね備えた作品として、高い評価を得ました。1975年には、記念切手「自然保護シリーズ」「アホウドリ」のイラストを担当。1977年から1991年には、『世界の生物 分類と飼育』の挿絵を担当するなど、幅広い分野で活躍しました。

[1983年]]には『コウモリ―地下実験室からの報告』が第30回サンケイ児童出版文化賞を受賞。1989年には『日本の恐竜』が第9回吉村証子記念日本科学読物賞を受賞。1992年には『野鳥の図鑑』で[[国際児童図書評議会]オナーリスト賞を受賞するなど、数々の賞を受賞しました。

私生活と晩年

薮内は、1965年に福音館書店の同僚であった互井幸枝と結婚。1969年には長男の竜太が誕生しました。晩年は、絵本制作の傍ら、赤ちゃん向けの動物絵本を多く制作しました。これらの絵本は、ブックスタート事業用の絵本にも選ばれています。

2000年6月18日、食道がんにより60歳で死去しましたが、彼の作品は今も多くの人々に愛され続けています。2004年には、山梨県北杜市に薮内正幸美術館が開館し、彼の原画が展示されています。

主な作品

薮内正幸は、図鑑、絵本、挿絵など、多岐にわたる分野で活躍しました。

図鑑・事典

『鯨類・鰭脚類』
『世界哺乳類図説〈食虫目・皮翼目〉』
『世界哺乳類図説〈単孔目・有袋目〉』
『古脊椎動物図鑑』
『世界の動物 分類と飼育』

絵本図鑑

『日本の野鳥』全6巻
『野鳥の図鑑―にわやこうえんの鳥からうみの鳥まで』
『日本の恐竜』
『野や山にすむ動物たち―日本の哺乳類』
『海にすむ動物たち―日本の哺乳類 II』

絵本

『くちばし』
『どうぶつのおやこ』
『しっぽのはたらき』
『くじら』
『どうぶつのおかあさん』
「薮内正幸のどうぶつ絵本」全4巻
『もう おきるかな?』
『ここよ ここよ』

挿絵

『ガンバの冒険』シリーズ
『青いイルカの島』
『この鳥を守ろう それが人の生命を守る』
国松俊英の著書
『広辞苑』
『平凡社大百科事典』
* 「サントリー愛鳥キャンペーン」新聞広告、ポスターなど

薮内正幸美術館

薮内正幸美術館は、薮内正幸の原画を所蔵・展示する専門美術館です。美術館は、彼の没後、関係者によって設立され、彼の作品を後世に伝える役割を担っています。美術館には、薮内の原画だけでなく、彼の愛した動物たちの写真や資料も展示されています。

薮内正幸は、その精緻な描写と、動物への深い愛情を通して、多くの人々に感動と喜びを与え続けました。彼の作品は、これからも私たちに、自然の美しさや命の尊さを教えてくれるでしょう。

もう一度検索