藍玉 (明)

藍玉（らん ぎょく）

藍玉は、明朝初期に活躍した武将です。定遠（現在の安徽省定遠県）出身で、兄に藍栄、姉に常遇春の妻がいます。義兄である常遇春の麾下で頭角を現し、その推薦により大都督府僉事に抜擢されました。明朝成立後は、傅友徳による四川の夏平定、徐達の漠北遠征にも従軍し、その軍事的才能を発揮しました。

軍功と栄達

洪武11年（1378年）、沐英と共に西蕃（チベット）遠征に参加し、アムドやカムの部族を従属させることに成功しました。この功績が評価され、翌年には永昌侯に封じられ、2,500石の食禄を与えられました。徐達や常遇春が亡くなった後、藍玉は明朝軍の中核を担う存在となりました。

洪武20年（1387年）には、大将軍の馮勝に従って北伐に参加し、北元の丞相ナガチュを降伏させるという大きな成果を挙げました。翌年には、失脚した馮勝に代わって大将軍に任命され、15万の兵を率いてモンゴル高原へ遠征しました。ブイル・ノールで北元の皇帝トグス・テムル軍を破り、トグス・テムルは逃亡したものの、妃や次男、多くの皇女、捕虜、軍馬・家畜を捕獲するという大勝利を収めました。しかし、この遠征中にトグス・テムルの妃と姦通したという噂が流れ、恥じた妃が自害するという事件が起こりました。この噂を聞いた洪武帝は激怒しましたが、藍玉には恩賞が与えられました。ただし、梁国公の授与は取りやめとなり、代わりに涼国公に封じられました。

洪武23年（1390年）には、湖広施州衛の異民族の反乱を鎮圧し、洪武25年（1392年）には西蕃罕東の地（現在の甘粛省敦煌市南東）に遠征。帰国後には太子太傅に任じられました。

傲慢な振る舞いと失脚

藍玉は数々の軍功を挙げましたが、その性格は傲慢で、しばしば洪武帝から叱責を受けていました。領民の土地を占有したり、軍令を破って閉門した関所を強引に通行するなど、その横暴な振る舞いが『明史』に記録されています。

洪武26年（1393年）、藍玉は錦衣衛指揮の蔣瓛から謀反の疑いをかけられ、誅殺されました（藍玉の獄）。この事件は多くの高官や将兵を巻き込み、15,000人から30,000人に及ぶ犠牲者を出したとされています。また、事件の余波は藍玉の娘婿である蜀王朱椿にも及んだと言われています。

藍玉の獄は、明朝初期における大規模な粛清事件であり、その後の政治に大きな影響を与えました。藍玉の供述や罪状は「逆臣録」として刊行され、後世に伝えられました。

参考文献

川越泰博『明史』（中国古典新書続編, 明徳出版社, 2004年9月）
山根幸夫「藍玉」『アジア歴史事典』9巻収録（平凡社, 1962年）
山根幸夫「漢民族の復興」『中国史 4』収録（世界歴史大系, 山川出版社, 1999年6月）
『騎馬民族史 正史北狄伝』3巻（羽田明、佐藤長 他訳注、東洋文庫、平凡社、1973年3月）

読書案内

川越泰博『明代中国の疑獄事件 藍玉の獄と連座の人々』（風響社, 2002年2月）

関連項目

胡藍の獄
胡惟庸

外部リンク

明史 巻132

もう一度検索