藤原正光

藤原正光：平安時代を駆け抜けた公卿

藤原正光（ふじわら の まさみつ）は、平安時代中期に生きた公卿です。父は関白太政大臣を務めた藤原兼通。藤原北家という名門に生まれました。

若き日の栄達と父の死

正光は、安和2年（969年）の円融天皇即位に伴い、13歳という若さで昇殿を許されました。これは、彼が天皇の東宮時代の小舎人であったことが大きく影響しています。翌年には従五位下・近江少掾に叙任。その後も、父・藤原兼通が摂政となると、侍従、左近衛少将と順調に昇進を重ねました。しかし、貞元2年（977年）に兼通が亡くなると、正光の昇進は停滞し、閑職である右馬頭へと異動となります。

兼家への接近と皇太后宮権亮

父の死後、正光は兼通と不仲であった藤原兼家に接近したようです。永観2年（984年）、花山天皇が即位し、兼家の孫である懐仁親王が東宮となると、正光は東宮昇殿を許されます。寛和2年（986年）に懐仁親王が一条天皇として即位し、国母である詮子が皇太后となると、正光は皇太后宮権亮に就任するなど、兼家の側近として重用されました。この時期の昇進も、兼家との関係が影響していると考えられています。

道長との関係と立后の儀

正暦2年（991年）に詮子が出家すると、正光は皇太后宮権亮を辞任しますが、翌年には左近衛中将に任じられます。長徳2年（996年）には、藤原道長が台頭し、正光の兄・顕光が右大臣に任ぜられました。正光自身も蔵人頭に補せられ、その後大蔵卿へと異動します。道長の娘である彰子が中宮となると中宮亮に任じられるなど、道長との関係も良好であったことが伺えます。しかし、三条天皇の皇后・娍子の立后に際しては、道長派の一員として立后の儀式への出席を求められた際、使者に瓦礫を投げつけたという逸話も残っています。これは、一条天皇の中宮・定子のために退出の上卿を務めた兄・時光とは対照的な行動であり、兄弟間での道長との距離感の違いを示しています。

公卿として

蔵人頭を8年間務めた後、寛弘元年（1004年）に従三位・参議に叙任され、公卿の仲間入りを果たしました。議政官として政務に携わる傍ら、大蔵卿も兼任しましたが、これ以上の昇進は叶いませんでした。長和3年（1014年）に58歳で亡くなりました。

『枕草子』に登場する人物

清少納言の『枕草子』には、「大蔵卿ばかり耳とき人はなし」という一節があり、これは正光のことを指しているとされています。この記述から、正光が非常に耳が良く、些細な言葉も聞き逃さなかった人物であったことがわかります。

藤原正光は、平安時代中期という激動の時代を、権力者との関係を巧みに利用しながら、自身の地位を築き上げていった人物と言えるでしょう。

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