藤戸の戦い

藤戸の戦い

藤戸の戦いは、平安時代末期の寿永3年/元暦元年12月7日（1185年1月10日）に、備前国児島（現在の岡山県倉敷市藤戸）の藤戸海峡で繰り広げられた合戦です。源範頼率いる源氏軍と、平家の平行盛軍が激突し、治承・寿永の乱における重要な戦いの一つとなりました。この戦いは、藤戸合戦、または児島合戦とも呼ばれています。

戦いの背景

一ノ谷の戦いで敗れた平氏は、瀬戸内海を経済基盤として西へ逃れました。平氏は瀬戸内海の制海権を握り、備前・備中などの豪族も多くが平氏の家人でした。源氏軍は、平氏追討のため西国へ進軍しましたが、水軍を持たないことが課題でした。そこで、源頼朝は瀬戸内海の武士団を味方に付けるべく、離反した武士に平家討伐を命じました。また、梶原景時が水軍調査を行うなど、軍事・政治両面での工作活動を進めました。

しかし、源氏軍の水軍確保は難航し、源範頼軍は兵站を絶たれ、兵糧不足に陥りました。一方、平氏は2000艘もの兵船で屋島から出撃し、瀬戸内海を掌握していました。この状況下で、源氏軍は山陽道の平氏拠点である児島を攻略する必要に迫られました。

戦いの経過

当時の藤戸周辺は、海に島が点在する地形でした。平行盛は500余騎の兵を率いて児島の篝地蔵に城郭を構え、源氏軍を迎え撃つ構えでした。源氏軍の佐々木盛綱は、海峡を挟んだ本土側の藤戸に陣を構え、城郭攻略を目指しました。

『吾妻鏡』によると、海峡は波が激しく船もなかったため、渡るのが困難でした。しかし、行盛が挑発したことで、盛綱は奮い立ち、わずか6騎の郎従を率いて馬に乗ったまま海峡を渡り、行盛を追い落としたとされています。平氏軍は敗走し、屋島へと退却しました。

『平家物語』では、盛綱が浦の男から浅瀬の情報を得て、その男を口封じのために殺害したという話が語られていますが、このエピソードは覚一本などの語り本系『平家物語』にのみ見られ、延慶本や『源平盛衰記』にはない話です。

謡曲「藤戸」

この戦いを題材にした能の演目「藤戸」は、世阿弥によって作られました。謡曲では、浅瀬の情報を教えた漁師の若者を盛綱が殺害するという悲劇的なエピソードが語られます。

物語は、盛綱が児島に所領を与えられた場面から始まります。殺害された若者の母親が盛綱に恨みを訴え、盛綱は若者の供養を行います。供養の場に若者の亡霊が現れ、盛綱に祟りを及ぼそうとしますが、最終的には成仏するという内容です。

伝説

盛綱に殺された若者の母親は、息子を殺した盛綱に通じる「笹」を山から全て引き抜いたと伝えられています。それ以来、この山には笹が生えなくなったことから、笹無山と呼ばれるようになったとされています。

まとめ

藤戸の戦いは、源氏と平氏の戦いにおいて重要な転換点となる戦いでした。佐々木盛綱の活躍や、能の演目にもなっている悲劇的なエピソードは、この戦いを後世に語り継ぐ上で重要な役割を果たしています。

参考資料

岡山県高等学校教育研究会社会科部会歴史分科会/編 『新版 岡山県の歴史散歩』 山川出版社 1991年

関連項目

平家物語
藤戸寺
藤戸

外部リンク

藤戸合戦の古戦場をたずねて（デジタル岡山大百科）
演目事典：藤戸（ふじと） the能ドットコム

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