藤森康男

藤森 康男

藤森 康男（ふじもり やすお）は、明治40年（1907年）11月28日に長野県諏訪郡湖南村（現在の諏訪市）に生まれた日本海軍の軍人です。最終階級は海軍中佐でした。平成7年（1995年）7月6日に87歳で没しました。

経歴

諏訪中学を経て、大正14年（1925年）4月に海軍兵学校第56期生として入学しました。昭和3年（1928年）3月、同期111名中16番という成績で同校を卒業し、少尉候補生として練習航海に参加しました。昭和4年（1929年）11月に海軍少尉に任官。その後、昭和6年（1931年）12月に中尉、昭和9年（1934年）11月に大尉と昇進を重ねました。潜水艦の専門教育を受け、昭和11年（1936年）12月には潜水艦学校乙種課程を修了。潜水艦の水雷長として、伊号第二十三潜水艦（昭和12年12月）、伊号第六十四潜水艦（昭和13年7月）、伊号第七十五潜水艦（昭和14年）に乗り組みました。昭和14年11月には少佐に昇進し、第七六号掃海艇の艇長を務めました。昭和15年4月24日、海軍大学校甲種第38期生として入学しましたが、情勢の変化により大学での教育は同年10月15日に中断されました。

太平洋戦争と作戦への関与

昭和16年7月15日、呂号第六十潜水艦の艦長に着任。太平洋戦争開戦の昭和16年12月8日時点では、第7潜水戦隊第26潜水隊所属としてクェゼリンに待機していました。同年12月18日、ウェーク島攻略作戦に参加するためクェゼリンを出航しましたが、12月29日にクェゼリン環礁北端で座礁し艦が損傷しました。救難が試みられたものの断念され、艦体は海没処分となりましたが、藤森艦長以下乗員66名全員は救助されています。

昭和17年2月1日には伊号第百二十一潜水艦長となり、アラフラ海での気象偵察任務に従事しました。その後、中断されていた海軍大学校での課程が昭和17年12月1日に再開され、昭和18年6月2日に第38期生として卒業しました。同年6月1日、軍令部に出仕し部員を兼務。11月1日には作戦部作戦課潜水艦部員となり、海軍大学校の教官も兼任しました。昭和19年5月1日、海軍中佐に進級しています。

軍令部潜水艦担当作戦課員として、藤森は特殊作戦の構想に深く関与しました。特に、水陸両用戦車「特四式内火艇」を活用した「竜巻作戦」は彼の発想に基づくものでした。ガダルカナル島撤退後の戦訓から、従来の正攻法に代わる奇襲戦術として、防潜網を乗り越えて敵泊地を攻撃することを考えていた彼は、呉海軍工廠が考案した特四式内火艇の存在を知り、実験を経て作戦構想を練り上げました。この構想は軍令部第二部長の黒島亀人少将に取り上げられ、マーシャル諸島在泊のアメリカ艦隊攻撃を目的とした作戦として具体化され、情島での訓練も開始されました。竜巻作戦は、昭和19年初頭のアメリカ軍マーシャル侵攻に対する反攻計画である雄作戦に組み込まれましたが、海軍乙事件により雄作戦自体が消滅しました。その後、昭和19年夏予定のあ号作戦にも取り入れられましたが、特四式内火艇にエンジンの騒音、低速、履帯の破損といった性能上の問題があることが判明。中部太平洋方面艦隊司令長官南雲忠一中将からも情勢不適応として反対意見が出され、作戦実施は不可能と判断され延期、事実上中止となりました。

また、藤森は人間魚雷「回天」の開発にも深く関わりました。昭和18年末頃、黒木博司大尉らが発案した人間魚雷の採用を軍令部の藤森と海軍省軍務局員の吉松田守中佐に請願しました。藤森は昭和18年12月28日頃、この人間魚雷案を軍令部総長永野修身元帥に上申しましたが、当初は却下されました。しかし、後に脱出装置を設けることを条件に試作が認められ、最終的には脱出装置のない特攻兵器として「回天」が採用され、藤森はその関連業務を担当しました。回天を用いた特攻作戦である「玄作戦」も藤森が中心となって計画されました。当初はマーシャル泊地の空母5隻を目標とし、潜水艦で接近して回天を射出する計画でした。命中確度75パーセントと高い評価をしていましたが、準備や訓練の遅れから計画は延期されました。最終的には隠密行動を重視し、闇夜に移動して翌朝攻撃するという形で、昭和19年11月20日から玄作戦は実行に移されました。

終戦間際の昭和20年4月15日には特兵部員を兼務し、4月20日には軍務局員と教育局員も兼任しました。昭和20年8月、終戦を迎えると予備役に編入されました。戦後の昭和22年11月28日、公職追放の仮指定を受けています。

藤森康男は、海軍軍人として潜水艦部隊を経験し、太平洋戦争後期においては、戦局打開を目指した特殊兵器や作戦の企画・推進に重要な役割を果たしました。

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