蜂谷道彦

蜂谷道彦（はちや みちひこ）

蜂谷道彦は、1903年に岡山県で生まれ、1980年4月13日に亡くなった日本の医学者・内科医師です。彼は、1945年の広島市への原子爆弾投下で被爆しながらも、広島逓信病院（現在の広島はくしま病院）の院長として、被爆者の治療と原爆症の研究に生涯を捧げました。

生い立ちと医学の道

蜂谷は、岡山県立矢掛中学校、第六高等学校を経て、1929年に岡山医科大学（現在の岡山大学医学部）を卒業しました。その後、同大学の稲田内科で研究を重ね、1938年に医学博士の学位を取得。1942年には、広島逓信病院の院長に就任し、このことが彼の人生を大きく変えることとなります。

原爆投下と被爆

1945年8月6日、広島に原子爆弾が投下されました。当時、蜂谷は病院近くの自宅におり、この爆撃により太腿を中心に全身に木材やガラスの破片が刺さるなどの重傷を負いました。30箇所近い傷を縫合するほどの重傷でしたが、8月11日には職場に復帰し、院内の患者の治療を開始しました。

被爆者医療への貢献

蜂谷は、患者の病床記録を作成させ、患者の白血球が減少していることを発見しました。さらに、爆心地からの距離や被爆位置と白血球数の関係を地図にして公表し、原爆の影響を可視化しました。この記録は、原爆症の研究において非常に重要な資料となりました。

『ヒロシマ日記』

原爆投下直後の56日間の職務記録は、『ヒロシマ日記』として1955年に出版されました。この日記は、被爆直後の広島の惨状、病院での治療の様子、医師としての苦悩や葛藤を克明に記しており、世界18カ国語に翻訳され、多くの人に読まれています。この本の印税は、被爆孤児のための奨学基金「広島有隣奨学会」の設立に使われました。

その後

1966年8月15日、蜂谷は広島逓信病院院長を辞任し、故郷の岡山県に戻り、静かな生活を送りました。しかし、1980年4月13日に生涯を閉じました。

著書と論文

蜂谷の主な著書には、以下のものがあります。

『ヒロシマ日記』：原爆投下直後の56日間の記録。被爆状況、医療活動、被爆者の苦しみなどが詳細に描かれています。
「原爆の災害と家屋の放射遮蔽効果」：土木学会誌に掲載された論文で、原爆の被害と家屋の放射線遮蔽効果について考察しています。

関連人物

蜂谷道彦は、原爆投下後の被爆者医療に尽力した多くの医療関係者と並び称されます。彼らの活動は、原爆の悲劇を世界に伝え、平和への意識を高める上で重要な役割を果たしました。

永井隆：長崎医科大学助教授。長崎での被爆後、救護活動にあたり『原子爆弾救護報告書』を著しました。
マルセル・ジュノー：赤十字国際委員会派遣員で、被爆直後に広島で医療活動を行いました。
重藤文夫：広島赤十字病院の若手局員として被爆直後の医療活動にあたり、後に同病院の院長を務めました。
都築正男：東京帝国大学医学部教授。東大病院で被爆者医療にあたり、原爆症研究の先駆者となりました。


また、原爆体験記を著した著名人も多く、彼らの著作は原爆の悲惨さを後世に伝えています。

小倉豊文：広島文理科大学教授。被爆死した妻への私信の形式で書かれた体験記『絶後の記録』の著者です。
大佐古一郎：中国新聞記者。被爆体験を含む1945年の日録『広島 昭和二十年』の著者です。
杉本直治郎：広島文理科大学教授。戦後初期に刊行された体験記『原爆体験記』に手記を寄せています。
長田新：広島大学教授・教育学者。児童・生徒による体験記『原爆の子〜広島の少年少女のうったえ』を編纂しました。


蜂谷道彦の生涯は、原爆の悲劇の中で医療に尽力した医師の模範であり、彼の功績は今後も語り継がれるべきものです。

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