衛星航法補強システム

衛星航法補強システム（SBAS）とは

衛星航法補強システム（Satellite-Based Augmentation System, SBAS）は、既存の衛星測位システム（GNSS）の精度と信頼性を向上させるために導入されたシステムです。SBASは、静止衛星を利用してGNSSの補正信号を送信し、測位誤差を低減させます。特に、航空分野においては、精密な航法を実現するために重要な役割を担っています。

SBASの仕組み

SBASは、GNSSの測位データを補正するために、地上の基準局で観測したデータを静止衛星を経由して利用者に送信します。これにより、大気圏の影響や衛星の軌道誤差などが補正され、より正確な位置情報が得られるようになります。SBASは、広域ディファレンシャルGPS（WADGPS）やディファレンシャルGPS（DGPS）と類似した技術ですが、静止衛星を利用することでより広範囲なエリアで安定した補正信号を提供できます。

SBASの規格

SBASは、国際民間航空機関（ICAO）によって相互運用性を確保するための規格が定められています。また、SBASを受信可能な受信機の規格は、RTCA DO-229 で定義されています。SBASの信号は、GPS L1 と同じ1575.42 MHz の周波数で送信され、PRN番号と識別コードはICAOによって定められています。

日本におけるSBAS

日本では、国土交通省が運用する運輸多目的衛星「MTSAT」を利用してSBASによる補正情報の配信が行われていましたが、2020年4月からは、準天頂衛星システム「みちびき」を利用した補正情報の送信に切り替えられました。これにより、より安定した高精度な測位が可能となっています。SBASを利用した測位誤差は、一般的に1メートル程度とされています。

SBASの一覧（開発中含む）

以下は、現在運用されている、または開発中の主なSBASの一覧です。

アメリカ
広域GPS強化（WAGE）：アメリカ国防総省が運用する軍事用SBAS
民間
スターファイア：ディア・アンド・カンパニーとオセアニアリング・インターナショナルが運用する商用ナビゲーションシステム
アトラスGNSSグローバル・Lバンド・コレクションサービス：ヘミスフィアGNSSが運用する商用サービス
オムニスターとスターフィックスDGPSシステム：フグロが運用するシステム
その他
GPS·C：カナダ天然資源省が運用していたシステム（廃止済）
A-SBAS：ナイジェリアのナイジェリア通信衛星「NigComSat-1R」を使用した試験運用中のシステム

その他の衛星航法補強システム

SBAS以外にも、以下のような衛星航法補強システムがあります。

地上型衛星航法補強システム（GBAS）：地上に設置された基準局から補正情報を送信するシステムで、特に空港における航空機の着陸誘導に利用されます。GBASは、ディファレンシャルGPS（DGPS）のデータを利用し、計器着陸装置（ILS）が設置されていない空港への侵入を支援します。

関連技術

SBASと関連する技術として、以下のものが挙げられます。

補助GPS：携帯電話などの端末で、GPSの測位精度を向上させる技術
コスパス・サーサット：遭難信号を検知する衛星システム
ADS-B：航空機の位置情報を自動的に送信するシステム
広域マルチラテレーション：複数の地上局からの信号を利用して位置を特定するシステム
電子基準点：高精度な位置情報を提供するための基準点
オメガ航法：電波を利用した航法システム（現在は廃止）
* 広域増強システム（WAAS）：アメリカのSBAS

SBASは、GNSSの精度を向上させることで、航空、海運、陸上交通、測量など、様々な分野でその利用が広がっています。今後も、SBASの技術は進化し続け、より高精度で信頼性の高い測位が実現されることが期待されます。

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