広域増強システム

広域増強システム（Wide Area Augmentation System, WAAS）は、連邦航空局（FAA）が開発した航空航法支援システムであり、グローバル・ポジショニング・システム（GPS）の精度、完全性、可用性を向上させることを目的としています。

WAASの基本概念

WAASは、航空機がそのカバーエリア内の空港への精密進入を含む、飛行のあらゆる段階でGPSを信頼して利用できるようにすることを目指しています。特定の地域では、地域増強システム（LAAS）や地上型衛星航法補強システム（GBAS）によってさらに強化することが可能です。

WAASの仕組み

WAASは、北アメリカとハワイに配置された地上基準局のネットワークを利用して、西半球のGPS衛星信号のわずかな変動を測定します。これらの基準局からの測定データはマスター局に送られ、マスター局で受信した偏差補正（DC）が処理されます。修正メッセージは静止WAAS衛星に送信され、これらの衛星が補正メッセージを地球にブロードキャストします。WAAS対応のGPS受信機は、この補正メッセージを用いて位置を計算し、精度を向上させます。

国際民間航空機関（ICAO）は、このタイプのシステムを衛星航法補強システム（SBAS）と定義しています。ヨーロッパやアジアなど、他の地域でも独自のSBASが開発されています。例として、欧州静止衛星航法オーバーレイサービス（EGNOS）、日本の多機能衛星補強システム（MSAS）、インドのGPS支援GEO拡張航法（GAGAN）、ロシアの差分補正監視システム（SDCM）などが挙げられます。また、商用システムとしては、StarFire、OmniSTAR、Hemisphere GNSS（Atlas）などがあります。

WAASの目的

精度

WAASの主な目的は、空港に特別な機器を設置することなく、航空機がカテゴリーIの進入を実施できるようにすることです。これにより、地上設備のない空港でも、GPSに基づいた新たな計器進入方式を開発できます。カテゴリーIの進入では、横方向に16メートル、垂直方向に4.0メートルの精度が求められます。

WAASの仕様では、少なくとも95%の確率で7.6メートル以下の位置精度（水平および垂直の両方）を提供することが求められています。実際のシステム性能測定では、アメリカ合衆国本土の大部分、カナダとアラスカの大部分で、通常、水平方向に1.0メートル、垂直方向に1.5メートル以上の精度が得られています。

完全性

航法システムの完全性とは、信号が誤った情報を提供し、潜在的な危険を引き起こす可能性がある場合に、適時に警告を発する機能のことです。WAASの仕様では、システムがGPSまたはWAASネットワークのエラーを検出し、6.2秒以内にユーザーに通知する必要があります。WAASが計器飛行方式（雲中を飛行）において安全であることを証明するためには、精度の要件を超えるエラーが検出されない可能性が極めて低いことを示す必要があります。具体的には、その確率は1×10−7とされており、これは1年間で3秒以下の不良データに相当します。これにより、受信機の自律的完全性監視（RAIM）と同等以上の完全性情報が提供されます。

可用性

可用性とは、航法システムが精度と完全性の要件を満たしている確率を指します。WAAS導入前は、GPSの仕様では、システムが使用できない状態が年間合計4日間（99%の可用性）まで許容されていました。しかし、WAASの仕様では、サービスエリア全体で99.999%（five nines）の可用性が義務付けられており、これは年間5分強のダウンタイムに相当します。

精度の比較

WAASは、従来のGPSに比べて大幅に高い精度と信頼性を提供します。これにより、航空機はより安全かつ効率的に飛行できるようになりました。

関連項目

衛星航法補強システム
欧州静止衛星航法オーバーレイサービス
MSAS
地域増強システム
距離測定装置
計器飛行方式
計器着陸装置
LORAN
マイクロ波着陸装置
無指向性無線標識
戦術航法装置
超短波全方向式無線標識
広域航法

外部リンク

FAA WJHTC's Real-Time Interactive WAAS Performance Display（英語）
FAA's WAAS program（英語）
Garmin's What is WAAS?（英語）
* WAAS coverage in Canada（英語）

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