装載艇

日本海軍艦載艇：多様な役割を担った小型ボート

日本海軍の艦艇には、様々な種類の小型ボートが搭載されていました。一般的には艦載艇と呼ばれますが、公式文書では「装載艇」や「装載短艇」という表記も用いられました。これらの小型艇は、港湾設備が未発達だった当時、艦艇が沖合に停泊せざるを得ない状況下で、陸上との連絡や物資輸送の重要な役割を果たしました。さらに、泊地警備、船体塗装時の足場、艦艇間の連絡といった雑用にも広く活用されました。救命艇としてカッターも搭載されていました。

艦載水雷艇：戦闘と輸送の両立

明治時代から第一次世界大戦頃にかけて、日本海軍の戦艦には56フィート艦載水雷艇が搭載されていました。当初はレシプロ機関を搭載した汽艇でしたが、1924年（大正13年）にメートル法の採用に伴い、17メートル艦載水雷艇と改称され、ディーゼル機関への換装が進みました。これにより、エンジンルームが短くなり船室が長くなるなど、外観にも変化が見られました。昭和時代に入ると魚雷搭載は廃止され、内火艇と役割がほぼ同じとなりましたが、第二次世界大戦を通して搭載され続けました。

廃艦となった旧式艦艇から流用されたり、新規に建造された同型艇は、20トン級の交通船兼曳船として港湾部などで多数運用され、レシプロ機関を搭載し、操舵室を前部甲板に配置したものが多かったようです。これらの艇は規格がまちまちで、実験的な機関を搭載した艇も存在しました。初期のレシプロ機関搭載艇は14ノット以上の速力を誇りましたが、150馬力ディーゼル機関への換装後は10ノットに低下しました。

内火艇：多用途小型艇の主力

内火艇は石油機関を搭載した小型艇で、「内火」は当時の日本海軍における内燃機関の呼称に由来します。構造は異なれど、内火ランチや運貨艇を含む内燃機関搭載の小型艦載艇の総称としても用いられました。艦艇乗組員の輸送・連絡が主な任務でしたが、物資輸送や、武装しての泊地警備にも使用されました。15メートル内火艇は鎮守府や艦隊司令長官の専用艇として使用されることもありました。

艇中央部に操舵室とエンジン、前部に兵員室、後部に士官室を備えた構造が一般的でした。士官室上部は固定天蓋でしたが、12メートル以下の艇では軽量化のため天幕とされていました。7.5メートルと6メートル内火艇は内火ランチとほぼ同構造でした。多くの内火艇は雑役船として公称番号が付けられ運用され、特二式～特五式内火艇のように、水陸両用戦車の名称を秘匿するために「内火艇」と称された特殊な艇も存在しました。ディーゼル機関150馬力、もしくは石油発動機2基160馬力のものが存在し、通常は80馬力×2軸で13.5ノットでしたが、120馬力×2軸、15ノットの艇もあったようです。

内火ランチ：兵員・物資輸送の小型艇

内火ランチも石油機関を搭載した小型艇で、兵員や物資の輸送に用いられました。内火艇との明確な区別は難しく、両者をまとめて「内火艇」と呼ぶことも多かったです。エンジンは中央やや後部に配置され、操舵は艇の前部または後部にありました。残りのスペースは兵員や物資の搭載スペースとなり、上部には日よけの天幕が張れるようになっていました。

カッター：人力と帆走を両立

カッター（橈艇）はオールを使った人力で航走する手漕ぎボートで、必要に応じて帆走も可能でした。兵員・物資の輸送、錨作業、そして救命艇としても用いられました。

通船：小回りの利く和船

通船（伝馬船、櫓艇）は櫓を漕いで航走する和船で、他の艦載艇に比べて小回りが利いたため、船体の外装塗装時の足場など雑用に使用されました。エンジンを搭載した通船も存在しました。

運貨船：物資輸送の専用艇

運貨船は主に物資の運搬に用いられる小型艇で、大きさや構造は特に定められていませんでした。日本陸軍が開発した上陸用舟艇である小発動艇（小発）や大発動艇（大発）などが特型運貨船として海軍でも大量に採用されました。主力となったのは14メートル特型運貨船（大発）で、陸軍の技術協力のもと海軍でも大量生産されました。艦載艇としては、航空母艦に13メートル特型運貨船（中発）、松型[[駆逐艦]]や二等輸送艦に10メートル特型運貨船（小発）、一等輸送艦には13メートルと14メートル特型運貨船（大発）が予定されていました。艦載以外には、海軍陸戦隊や泊地での物資輸送にも用いられました。特型運貨船は艇後部にエンジンと操舵を備え、前方全てを物資搭載スペースとしていました。13メートル以上の艇には、上陸用のランプが装備されていました。

内火ジャンク：河川砲艦専用の小型艇

河川砲艦には、浅喫水で平底の河川専用艇である内火ジャンクが搭載されていました。

搭載場所と搭載数

艦載艇は通常、上げ下ろしに便利な舷側に搭載されることが多かったですが、戦艦では主砲の爆風による損傷を防ぐため、爆風の影響が少ない艦中央部にまとめて搭載されることが多かったようです。大和型戦艦のように46cm砲を搭載した艦艇では、甲板上の搭載は困難だったため、艦内に格納されました。初期の航空母艦では舷側に搭載されていましたが、その後は救命艇を除き艦尾飛行甲板下にまとめて搭載されるようになりました。潜水艦の艦載艇は潜航時に水没するため、エンジンを取り外し、内部に水がたまらないように処置して甲板下に格納されました。大型の一等潜水艦でも搭載できるのは1隻程度だったため、停泊時の陸上への連絡は民間の船に頼っていたようです。搭載数は艦種や時期によって大きく異なりました。

参考文献：
雑誌『丸』編集部『写真 日本の軍艦 第11巻 駆逐艦II』光人社、1990年
雑誌『丸』編集部『写真 日本の軍艦 第12巻 潜水艦』光人社、1990年
雑誌『丸』編集部『写真 日本の軍艦 第14巻 小艦艇II』光人社、1990年
雑誌『丸』編集部『写真 日本の軍艦 別巻1 海軍艦艇図面集 I』（光人社、1990年）
福井静夫『日本補助艦艇物語』（光人社、1993年）
長谷川藤一『軍艦メカニズム図鑑-日本の航空母艦』グランプリ出版、1997年
不二美術模型出版部編『艦船模型の制作と研究 戦艦長門・陸奥』出版共同社、1977年
槇幸『潜水艦気質よもやま物語』（文庫本）光人社、2004年
* 「歴史群像」編集部『歴史群像太平洋戦史シリーズVol.38 最上型重巡』（学習研究社、2002年）

もう一度検索