裏固

裏固（うらがため）

裏固は、柔道の固技、特に抑え込み技の一つです。国際柔道連盟（IJF）が認定する技であり、独特の体勢で相手を制します。講道館では長らく抑え込み技として認められていませんでしたが、2017年に正式に採用されました。IJFでの略号はURGです。

概要

基本形は、うつ伏せになった相手の腕を、取り手（以下、取）が自身の右腕で素早く掬い上げ、左腕で相手の下穿きを掴みます。そこから、相手の腹の下に頭を潜り込ませ、テコの原理を利用して相手をひっくり返します。仰向けになった相手を、掴んだ両手を離さずに、取の後頭部を相手の腹部に固定して抑え込みます。

この際、相手の腹部に深く後頭部を乗せすぎると返されやすいため、取は足を動かして抑え込みやすい位置に調整します。横四方固で取のみが裏返しになり仰向けになったような形、または後袈裟固に似た形状になりますが、相手に取の背中を完全に向けている点が後袈裟固とは異なります。また、この技から後袈裟固や肩袈裟固からの腕挫腕固への移行もよく見られます。

講道館における抑え込み技の規定では、取と相手が概ね向き合った状態を抑え込みの条件とみなしていましたが、技術の多様化に対応するため、講道館技研究部で技名称の再検討が行われ、2017年に正式に認められることになりました。一方、IJFでは1995年9月に制定されたIJF技名称の抑え込み技に含まれましたが、1998年に一度除外され、2013年のルール改正で再び抑え込み技として認められました。

七大学柔道や1995年9月のIJF技名称に加えられた時点の講道館柔道審判規定の取り扱い条項では抑え込みとして認められませんでしたが、他の抑え込み技からこの体勢に移行した場合は、抑え込みが継続されました。1998年以降、IJF審判規定において無効だった時期は、他の抑え込み技からこの体勢に移行した場合、抑え込みは「解けた」と判断されました。

1995年9月にIJF技名称に加えられたことを取り扱った講道館機関誌『柔道』の記事では、この技の画像が『「裏固」の変形』と表現されています。これは、すでに柔道界には三船久蔵が「裏固」と呼んだ抑え込み技が存在していたためです。

試合での実例

ワールドマスターズ2017サンクトペテルブルク男子100kg級1回戦：ヴァルラーム・リパルテリアニ（ジョージア）がアンディ・グランダ（キューバ）に2:10で裏固を決め勝利（加藤返から裏固への連携）。
グランドスラム・パリ2018男子66kg級準々決勝戦：キリアン・ルブルーシュ（フランス）がウー・ジキャン（中国）に4:00で裏固を決め勝利（加藤返をこらえられたため、自ら前転し相手を半横転させ裏固へ）。

変化

上四方固で取のみが裏返しになり仰向けになったような裏固も存在します。この場合、相手の両腕を制して背中で抑え込みます。

試合での実例

* 2019年世界柔道選手権大会女子78kg超級準々決勝戦：イダリス・オルティス（キューバ）がベアトリス・ソウザ（ブラジル）に3:47で裏固を決め勝利。

三船久蔵の裏固

柔道家・三船久蔵は、1954年の書籍『道と術　柔道教典』で次のような技法を裏固と称しました。

取は右側面からうつ伏せ状態の相手の右腕を自身の右脚で引っ掛けます。さらに、相手の左腋下に自身の左腕を入れて抱え込みながら仰向けに倒れこんで、相手を仰向けの状態に持ち込みます。この際、取の両脚は相手の右腕に絡めておきます。そこから、取は自ら回転して、相手をひっくり返しエビ状にしながらうつ伏せ状態になって相手を制御します。

これは、プロレスのフォール技であるステップ・オーバー・アーム・シザースの形に似ています。この技は書籍『柔道大事典』の「裏固」の項で工程図付きで紹介されていますが、柔道競技において抑え込み技として認められるかどうかは記載されていません。『柔道大事典』が発行された1999年は、全ての裏固が抑え込み技として認められていない時期でした。

映画『燃えよドラゴン』（1973年）のオープニングでは、ブルース・リーがスパーリング相手役のサモ・ハン・キンポーをこの裏固で倒しています。

基本形は、この裏固の途中で相手が取の上になった形に似ています。

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