裴嶷

裴嶷（はい ぎょく）

裴嶷（生没年不詳）は、西晋末期から五胡十六国時代にかけて活躍した人物で、慕容廆（ぼようかい）に仕えた漢人参謀として知られています。字（あざな）は文冀（ぶんき）、本貫は河東郡聞喜県（かとうぐんぶんきけん）であり、名門である河東裴氏の支族、東眷裴氏（とうけんはいし）の出身です。

生涯

西晋での活躍

裴嶷は当初、西晋に仕え、中書侍郎（ちゅうしょじろう）、給事黄門郎（きゅうじこうもんろう）、滎陽郡太守（けいようぐんたいしゅ）といった官職を歴任し、順調に昇進を重ねました。

永嘉の乱と慕容廆との出会い

しかし、永嘉の乱（えいかのらん）によって天下が乱れると、兄の裴武（はいぶ）が玄菟郡太守（げんとぐんたいしゅ）であったことから、自ら志願して同じ平州（へいしゅう）にある昌黎郡太守（しょうりぐんたいしゅ）に任じられました。昌黎郡に着任後、間もなく裴武が亡くなったため、朝廷からの召還命令も重なり、裴嶷は裴武の子である裴開（はいかい）を連れて、裴武の棺を伴い喪のために南へ向かいました。

その途上で慕容廆の領土を通りかかった際、慕容廆は裴嶷を敬い、手厚く礼遇しました。裴嶷が去る際には多くの贈り物を贈りました。その後、裴嶷は遼西（りょうせい）まで到達しましたが、道が途絶えていたため、裴開と共に慕容廆の傘下に入ることを決意します。裴開は故郷が南にあることを理由に段氏への仕官を主張しましたが、裴嶷は慕容廆の仁義と覇王の志を高く評価し、その傘下に入ることを選びました。

慕容廆は裴嶷の帰順を大いに喜び、手厚く迎え入れました。

慕容廆の参謀として

建興元年（313年）に慕容廆の謀主に任じられ、乱を避けて遼東へ流れてきた多くの士人をまとめ上げ、慕容廆の勢力拡大に大きく貢献しました。その功績により、慕容廆から大いに賞賛されました。

大興元年（318年）には、慕容廆に対して中原を平定し、勢力拡大を目指すよう進言しました。裴嶷の進言は慕容廆に受け入れられ、長史（ちょうさ）に任じられ、軍事と政治の謀略を全て委ねられることになります。裴嶷は遼東・遼西に割拠する弱小部族を次々と傘下に収め、慕容廆の勢力を着実に拡大していきました。

大興2年（319年）には、宇文部（うぶんぶ）の大人（たいじん）である宇文遜昵延（うぶんそんじつえん）が侵攻してきましたが、裴嶷は奇策を用いて宇文部を打ち破り、慕容部の勢力拡大に大きく貢献しました。

東晋への使者として

慕容廆は東晋朝廷に勝利を報告するため、裴嶷を派遣しました。裴嶷は宇文部から奪った玉璽を携えて建康（現在の南京）へ赴き、慕容廆の威徳を称え、東晋朝廷の評価を高めました。元帝（東晋の皇帝）は裴嶷に東晋への仕官を勧めましたが、裴嶷はこれを辞退し、慕容廆への忠義を貫きました。裴嶷の功績により、慕容廆は東晋から監平州諸軍事・安北将軍・平州刺史に任じられ、領地を加増されました。

その後

大興4年（321年）に慕容廆が遼東公（りょうとうこう）に封じられると、改めて長史に任じられました。その後、遼東相（りょうとうしょう）を経て、楽浪郡太守（らくろうぐんたいしゅ）に転任しましたが、その後の事績は明らかになっていません。

人物・評価

裴嶷は清廉で誠実な人物であり、政治・謀略の両面で優れた才能を発揮しました。慕容廆からの信頼は非常に厚く、「天が我に授けたもの」とまで称賛されました。

家系

祖父：裴輯（はいしゅう）- 東眷裴氏の祖
父：裴昶（はいちょう）- 西晋の司隷校尉
兄：裴武（はいぶ）- 玄菟郡太守
甥：裴開（はいかい）- 裴嶷と共に慕容部に帰順

裴嶷の活躍は、慕容部の勢力拡大に大きく貢献し、後の燕（えん）の建国へと繋がりました。彼の清廉な人柄と優れた才能は、後世にも語り継がれています。

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