計理士
計理士とは
計理士は、1927年から1967年まで日本に存在した会計専門家のための国家資格です。1927年3月31日に公布された計理士法（昭和2年法律第31号）に基づき、法律によって定められた業務を行う資格として創設されました。しかし、1948年に公認会計士制度が新たに発足したことで計理士法は廃止され、新たな計理士の登録は終了しました。既存の計理士資格自体はその後も約20年間存続しましたが、最終的には1967年3月末をもって完全にその歴史に幕を閉じました。
設立の背景と法制化への道のり
日本において、企業の会計実務を取り扱う専門職の必要性が意識されるようになったのは、20世紀初頭のことと言われています。特に、1908年に明らかになった日本製糖汚職事件では、企業の帳簿操作を通じて不正な資金が捻出された疑いが指摘され、これに対し外国人株主から会計監査の必要性が強く提起されました。これを契機に、会計専門家の法制化に向けた動きが始まりました。
法制化に向けた道のりは平坦ではありませんでした。初めて「会計監査士法案」が帝国議会に提出されたのは1914年ですが、これを含めて7回も関連法案が提出され、衆議院を4度通過したにもかかわらず、その都度貴族院での承認を得られずに成立には至りませんでした。こうした状況を経て、最終的に1927年の第52回帝国議会で、政府が提出した計理士法が可決され、ようやく会計専門家資格の法制化が実現しました。
業務範囲と資格取得方法
計理士法第1条には、計理士の業務として「計理士の称号を用いて会計に関する検査、調査、鑑定、証明、計算、整理又は立案を為すこと」が明記されており、これらの業務は計理士の業務独占とされていました。無資格者がこれらの業務を行った場合には罰則も規定されていました。
資格を取得する方法は二通りありました。一つは、国家試験に合格する方法です。試験は筆記試験と口述試験がありましたが、この試験ルートでの資格取得者は極めて少数でした。最も受験者・合格者が多かったとされる1943年ですら、受験者64人に対して最終合格者はわずか7人であり、計19回の試験での累計合格者は113人に過ぎませんでした。
もう一つは、主に無試験で資格を取得する方法です。旧制専門学校などで会計学を修了した者がこの対象となりました。また、法律施行から最初の5年間は経過措置が設けられ、大学や専門学校で経済関連の学科を修め、卒業後3年以上会計関連業務に従事した者に対しては、試験を受けることなく出願のみで資格が付与されました。この経過措置による無試験取得者は非常に多く、施行から3年目の1929年にはすでに1,000人を超え、最終的には累計2万5570人にも達し、資格者の大部分を占めることになりました。
資格の質のばらつきと法改正運動
無試験取得者が圧倒的多数を占めた結果、計理士資格保有者の専門能力に大きなばらつきが生じることが問題視されるようになりました。このような状況を受けて、複数の計理士団体が結成され、法律の改正を求める活動が繰り返し行われました。計理士法には公認会計士法と異なり、資格者団体に関する明確な規定はありませんでしたが、これらの団体は1940年には一本化されました。しかし、第二次世界大戦の終結まで法改正は実現しませんでした。
法改正の方向性についても、団体間や関係者間で意見の相違が見られました。無試験取得制度の廃止や、計理士団体の法的根拠の確立、税務業務に関する位置づけの修正、さらにはより高度な会計監査に特化した新資格の創設などが提案されました。特に、会計監査への特化という提案は、当時の計理士の実際の業務内容、すなわち会計検査が業務全体の10%にも満たず、最も多かったのが「計算」業務であったという実態とは必ずしも一致しない側面を持っていました。
公認会計士制度への移行と資格の終焉
太平洋戦争後、日本経済の民主化政策の一環として、会計専門家制度の抜本的な見直しが行われました。大蔵省は1948年1月に「計理士制度調査委員会」を設置し、新たな制度設計に着手しました。その結果、同年7月には公認会計士法が公布され、8月より施行されたことにより、計理士法は廃止されました。
新しい公認会計士制度への移行にあたり、既存の計理士に対してはいくつかの経過措置が講じられました。当初、公認会計士としての監査・証明業務を行える期限や、「計理士」の名称で業務を行える期限が定められましたが、その後の法改正により延長されました。特に1950年の改正では、1951年3月末までに再登録を行った計理士は、生涯にわたって計理士の名称を用いて計理士法第1条に定められた業務を行うことが可能となりました。
また、計理士が公認会計士資格を取得するための道も開かれました。「特別公認会計士試験」が設けられ、計11回実施されました。この試験の合格率は6.9%と低水準でした。さらに、実務経験3年以上の計理士には登録により会計士補資格が付与される措置や、経験10年以上の計理士にはレポート提出で特別試験に代えられるなどの救済措置も実施されました。
特別公認会計士試験は1954年に廃止されましたが、その後も計理士に対する公認会計士試験における受験資格上の優遇は続きました。しかし、1964年に公布された「公認会計士特例試験等に関する法律」により、計理士資格は1967年3月31日をもって完全に廃止されることが決定されました。この法律では、その期間中に計理士を対象とした公認会計士特例試験が5回実施されることや、計理士名簿に登記している者に対する税理士資格取得に関する規定も盛り込まれました。こうして、計理士制度はその約40年の歴史に終止符を打ちました。この制度変更は、当初目指された職業会計士を公認会計士に一本化するという考え方が、一時的な「二本建論」を経て、最終的に「一本建論」へと回帰した過程として捉えられています。
資格廃止後の状況
1967年3月末の資格廃止後間もない同年8月、「計理士の名称の使用に関する法律」が定められました。これにより、制度廃止時点で計理士名簿に登記していた者は、財務書類の作成や財務に関する調査・立案・相談業務を行う際に限り、「計理士」の名称を使用することが限定的に認められました。
その後、旧計理士の関係者から、改めて公認会計士資格の付与を求める請願が国会に提出された事例があります。これは2002年のことで、その時点で計理士を称していた者は約100人、平均年齢は80歳を超えていたとされています。
著名な計理士資格保有者
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