訴追派貴族

訴追派貴族（Lords Appellant）

訴追派貴族とは、14世紀後半のイングランドにおいて、リチャード2世の側近を大逆罪で訴追した貴族たちのことを指します。1388年の非情議会でその動きが顕著になったため、歴史に名を残しました。彼らは国王の政治姿勢を批判し、王室の権力を制限しようとしました。

訴追派貴族の結成

当初、グロスター公トマス・オブ・ウッドストック、アランデル伯リチャード・フィッツアラン、ウォリック伯トマス・ド・ビーチャムの3名が中心となり、国王リチャード2世に対抗する勢力を形成しました。その後、グロスター公の甥であるダービー伯ヘンリー・ボリングブルック（後のヘンリー4世）とモウブレー男爵トマス・モウブレーが加わり、最終的に5名の貴族が結束しました。

グロスター公とアランデル伯は、リチャード2世との個人的な確執からこの動きに加わりました。一方、ウォリック伯、ボリングブルック、モウブレー男爵は、国王自身よりも、国王側近であるオックスフォード伯ロバート・ド・ヴィアーの存在を危険視していました。彼らは、オックスフォード伯やサフォーク伯マイケル・ド・ラ・ポールを大逆罪で訴えるべきだと主張し、「訴追派貴族」と呼ばれるようになりました。

国王側近の訴追

1387年秋、訴追派貴族はオックスフォード伯とサフォーク伯を批判する訴状を議会に提出しました。同年冬には、ラドコット・ブリッジの戦いで訴追派貴族軍が王軍を破り、宮廷と議会を掌握しました。彼らは、この反乱を正当化するために、リチャード2世に圧力をかけ、1388年2月に議会を召集させました（非情議会）。

訴追派貴族は、自分たちの反乱の原因を国王側近の専横に求め、寝所騎士23人のうち12人を解任し、サイモン・バーリーやジョン・ビーチャムら4人を処刑しました。また、王座裁判所首席裁判官のロバート・トレジリアンや前ロンドン市長のニコラス・ブレンバーも処刑しました。オックスフォード伯とサフォーク伯にも死刑判決が下されましたが、彼らはすでにイングランドから逃亡していました。

訴追派貴族のその後

リチャード2世は、この事件を深く恨み、訴追派貴族への復讐を誓いました。1397年7月、彼はグロスター公、アランデル伯、ウォリック伯をクーデター的に逮捕し、同年9月の議会で裁判にかけました。グロスター公は議会に連行される前にカレーで暗殺され、アランデル伯とウォリック伯は1386年から1388年の行動を大逆罪と断じられ、アランデル伯は処刑、ウォリック伯は終身刑となりました。

訴追派貴族のうち、ヘレフォード公（ダービー伯）ヘンリー・ボリングブルックとノーフォーク公（モウブレー男爵）トマス・モウブレーは、この裁判で処分を免れました。しかし、国王は議会を通じて「50人を除く」大赦令を出し、処罰への恐怖が広がりました。ボリングブルックとノーフォーク公は、ラドコット・ブリッジでの反乱行動について互いを非難し合い、決闘を申し込む事態に発展しました。しかし、リチャード2世は決闘を禁止し、2人とも国外追放処分としました。

1399年2月3日にランカスター公ジョン・オブ・ゴーントが死去すると、国外追放中の息子のボリングブルックはイングランドに帰国し、父の遺領を継承できると期待しました。しかし、リチャード2世は彼に永久追放命令を出し、ランカスター公家の遺領を没収すると宣言しました。これに激怒したボリングブルックは、同年7月にイングランドに上陸してクーデターを起こし、8月にはリチャード2世を王位から追放し、ヘンリー4世として即位し、ランカスター朝を開きました。

訴追派貴族の活動は、リチャード2世の治世における政治的な混乱を象徴する出来事であり、その後のイングランドの歴史に大きな影響を与えました。



参考文献
青山吉信 編『イギリス史〈1〉先史〜中世』山川出版社〈世界歴史大系〉、1991年。ISBN 978-4634460102。
松村赳、富田虎男『英米史辞典』研究社、2000年。ISBN 978-4767430478。
* キング, エドマンド『中世のイギリス』慶應義塾大学出版会、2006年。ISBN 978-4766413236。

もう一度検索