謝東閔

謝東閔（しゃ とうびん）の生涯

謝東閔（1908年1月25日 - 2001年4月8日）は、中華民国の政治家であり、台湾省出身者として初めて副総統を務めた人物です。本名を謝進喜といい、号を求生と称しました。台湾省政府主席やその他の要職も歴任し、晩年には「謝求公」と敬称を込めて呼ばれていました。出身地の二水郷では「東閔仙」とも呼ばれ、地域住民から深く親しまれていたことが伺えます。

前半生

1908年、謝東閔は台湾の裕福な家庭に生まれました。幼少期は二八水公学校（後の二水公学校、現在の二水国民小学）、その後は台中州立第一中学（現在の台中一中）で学びました。中学時代には日本による台湾統治への不満を抱き、祖国である中華民国本土での学習を志すようになります。

1925年、謝は中学を卒業しないまま台湾を離れ、長崎経由で上海へと渡りました。上海の東呉法学院に進み、後に広東で学びます。1931年には広州の中山大学政治系を卒業し、日本語の助教として大学に勤務する傍ら、広州や香港で執筆活動を行いました。

政治家としての活動

1931年、謝東閔は広州市自治会兼任幹事に就任し、1936年には軍事訓練委員会の少校秘書を務めました。1938年から1941年までは、香港郵政総局郵電検査処の検査員として活動し、1942年に桂林市の広西日報社で電訊室主任、後に編集長を務めました。その後、中国国民党台湾省党部の設立準備に参加要請を受けます。

1943年から1945年にかけて、謝は中国国民党台湾党部の執行委員として、漳州、永安、福州などで抗日活動に従事しました。1945年の日中戦争終結後、台北州接管委員会主任委員の連震東らと共に台湾の船隊接収に携わり、1946年1月まで高雄州接管委員会主任委員を務めました。

1946年以降、謝は高雄県政府首任県長（官派、1947年まで）、台湾省行政長官公署民政処副処長（1946年10月）、台湾省政府教育庁副庁長、台湾省立師範学院（現在の国立台湾師範大学）院長、台湾新生報董事長、中国青年反共救国団副主任、中国国民党中央党部副秘書長、台湾省政府秘書長、台湾省議員、台湾省議会副議長、同議長など、数々の要職を歴任しました。台湾省立師範学院院長時代には、学生弾圧事件である四六事件が発生しています。

1958年3月、謝は社会改善のため家政の専門家育成を目指し、私立実践家政専科学校（後の実践大学）を設立しました。

1972年6月、蔣介石により台湾省政府主席に任命され、張豊緒は台北市長に任命されました。蔣介石は両者を呼び、省や市の建設状況を尋ね、市民への行政サービスの拡充を要求しました。

1976年10月10日、省政府主席であった謝東閔は、台湾独立運動に関与していた王幸男から爆弾入りの郵便小包を受け取りました。開封した瞬間に爆発し、左腕に重傷を負い、敗血症の危険性から左腕を切断せざるを得ませんでした。謝は、在任中に暗殺未遂に遭った唯一の省主席です。

1978年から1984年まで、台湾出身者として初の中華民国副総統を務め、退任後は総統府資政に招聘されました。

2001年1月、心筋梗塞により台北栄民総医院へ搬送され、同年4月8日午後11時40分、心筋梗塞に伴う上気道感染症のため、自宅で息を引き取りました。彰化県二水郷の謝増福公派下墓園に埋葬されました。

中一中の罪人

1969年、謝が台湾省議会議長在任中、台中一中の校長であった段茂廷は、教室不足を理由に、日本統治時代に建てられた赤レンガの2階建て校舎（中一中紅楼）を取り壊し、4階建てのコンクリート製新校舎を建設しようとしました。この計画は、教師、生徒、同窓生からの強い反対を受けました。そのため、段校長は同窓生でもある謝に協力を求めました。謝は母校での講演で「舊的不去、新的不來」（古いものが去らなければ、新しいものは来ない）と述べ、旧校舎は取り壊されることになりました。省政府は迅速に資金を割り当て、旧校舎は1971年に姿を消しました。跡地には4階建てのコンクリート製校舎「荘敬楼」が建てられ、現在に至ります。

しかし、築40年を超えた荘敬楼は老朽化が激しく、ひび割れや漏水が問題となっています。2017年、当時の台中市長である林佳龍が紅楼の再建案を支持し、同窓会からも再建費用の寄付が申し出るなど、近年、旧校舎を懐かしむ声が高まっています。同じく日本統治時代に建設された台北市立建国高級中学校舎（建国中学紅楼）が現在も使用されていることが、中一中の大きな損失と台湾教育史の断裂を招いたとして、段茂廷と謝東閔に対する批判が強まっています。

教育への貢献

謝東閔は家庭が国家の基盤であると考えており、国家の繁栄と国民の幸福には、健全な家庭が不可欠であると説きました。この考えに基づき、体育、芸術、家事の各専科学校を公立校として設立するよう、当時の副総統である陳誠に提案しました。政府は彼の提案を受け入れ、1955年に国立芸術学校（現在の国立台湾芸術大学）が、1961年に省立体育専科学校（現在の国立台湾体育運動大学）が創設されました。しかし、家事専科学校は政府による承認が得られなかったため、謝は私立学校として家事専科学校（後に家政専科学校へ改称）を設立することを決定しました。1958年3月26日、中華民国で初の家政学校である私立実践家政専科学校（現在の実践大学）を創立しました。

1984年、台北語文学院の名誉董事長に就任しました。彰化県田中鎮には、謝東閔の功績を称えて東閔と名付けられた通りが存在します。

旧家

謝東閔の旧家は、二水郷にある実践大学付属二水郷家政推広実験センターの北側にあります。元々は三合院造りの建物で、現在の実験センターの位置に建てられていました。謝の母が亡くなった際、旧家は東護龍を残して取り壊され、現在の位置に移転されました。旧家の跡地には、1972年に「私立実践家政専科学校附設二水家政推広センター」が設立されました。

家族

弟の謝敏初は、台湾青果運銷合作社総経理および理事主席を務めました。長男の謝孟雄は医師であり、監察委員、考試院典試委員、台北医学院校長、実践大学董事長などを歴任しました。孟雄の妻である林澄枝は、行政院文化建設委員会主委、国民党副主席などを歴任しました。三男の謝大立はデザイナーであり、実践大学媒体伝達設計学系の専任客員教授を務めています。

その他

1980年代から1990年代の台湾では、国民党内に「八大老」と呼ばれるグループが存在しました。謝東閔、黄少谷、倪文亜、李国鼎、蔣彦士、袁守謙、辜振甫などが「七大老」と呼ばれ、後に陳立夫が加わり八大老となりました。

1990年の中華民国総統選挙では、現職総統であった李登輝の再選に反対する党内非主流派が、林洋港を後援しました。李登輝を支持する国民党主流派は、八大老に働きかけ、林洋港に出馬辞退を勧めました。その結果、林洋港は出馬を断念し、李登輝の再選につながりました。

著作

『歸返：我家和我的故事』
『謝氏大族譜』（1973年12月出版）

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