貨幣石

貨幣石（かへいせき、Nummulites）

貨幣石は、新生代の古第三紀という時代に大いに繁栄した、非常に大きな単細胞生物である有孔虫の仲間です。その形が古銭に似ていることから「貨幣石」と呼ばれます。学名のヌムリテス（Nummulites）も、ラテン語で「小さなコイン」を意味する言葉に由来しています。

概要

貨幣石は驚くべきことに、単細胞生物でありながら、中には直径10センチメートルを超える巨大な化石も見つかっています。世界中の多くの地域で発見されること、そして特定の限られた時代にのみ生存していたことから、地層が形成された時代を特定する「示準化石」として非常に重要な役割を果たしています。現在、貨幣石は全て化石としてのみ存在し、生きている種は見つかっていません。

かつて19世紀の初頭まで、貨幣石は巻き貝の仲間である軟体動物の一種だと考えられていました。しかし、1825年のドルビニによる研究によって、有孔虫として分類されることになりました。巻き貝と誤解されていた殻の内部は、完全に区切られていない小さな部屋が連なってできています。これらの部屋を満たしていた細胞質（原形質）には、複雑な管状の構造（脈管系）が発達しており、これは細胞内の物質を運ぶ役割を担っていたと考えられています。

分布と時代

貨幣石が地質時代に存在したのは、新生代第三紀の暁新世の終わりごろから始新世の始まりにかけて出現し、始新世の中期に最も繁栄しました。そして、漸新世の前期にはほとんど姿を消してしまいました。その起源は、現在の北アフリカ大陸のあたりだと考えられており、その後、かつてヨーロッパとアジアを隔てていた広大なテチス海を経て、カリブ海、さらにはインド洋から太平洋へと分布を広げていきました。特に、始新世に堆積したエジプト産の石灰岩には、たくさんの貨幣石の化石が含まれています。有名なギザのピラミッドの石材の中にも、貨幣石の姿を見つけることができます。

生活環

貨幣石には、単相（染色体数がn）の世代であるガモントと、複相（染色体数が2n）の世代であるアガモントという、異なる二つの形態を持つ生活環がありました。ガモントは、殻の最初の部屋（初室）の直径が約1ミリメートルで、殻全体の直径も5～7ミリメートル程度と比較的小型でした。一方、アガモントは、初室の直径こそ20マイクロメートルと非常に小さいものの、最終的には殻の直径が最大で12センチメートルにもなる巨大な姿に成長しました。貨幣石にこのような異なる二つの型があることは1784年にダービュルタン（d'Burtin）によって発見されていましたが、これが生活環における異なる段階に対応していると明らかになったのは20世紀に入ってからのことです。

分類

貨幣石が出現した初期には、N. fraasi、N. deserti、N. solitariusといった三つの基本的な種が分かれました。これらの初期の種から多様な種へと枝分かれし、現在までに140種以上が知られています。

貨幣石は、有孔虫の中でも特に特徴的な存在であり、その化石は古第三紀の地層の対比や年代決定に不可欠な情報源となっています。フズリナ（紡錘虫）などと同様に、特定の時代に栄えた大型の原生生物として、古生物学において重要な研究対象となっています。

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