費宏

費宏（ひ こう）

費宏は、明代中期の政治家で、字は子充、号は鵞湖。諡号は文憲。広信府鉛山県の出身です。1468年に生まれ、1535年に亡くなりました。彼は、その生涯で三度も内閣大学士を務めるという、稀有な経歴の持ち主です。

若き日の才能と挫折

幼少の頃から聡明であった費宏は、16歳で郷試に合格しますが、翌年の会試では不合格となります。しかし、伯父の夢占いをきっかけに国子監に入学。1488年の科挙では、見事首席で合格を果たしました。この年、成化帝が崩御したため、翰林院修撰であった費宏も実録編纂に参加しますが、完成間近に病に倒れてしまいます。周囲は完成まで職に留まることを勧めるものの、職務を全うできないとして辞職、帰郷します。その後、復帰して皇太子に仕えますが、再び父母の死を理由に帰郷。最終的に復帰したのは1503年のことでした。

政治の中枢へ

1505年、弘治帝の崩御と正徳帝の即位に伴い、費宏は東宮時代の功績により翰林院侍講から太常寺少卿兼翰林院侍読に抜擢されます。しかし、当時の宮廷は宦官勢力の影響下にあり、高官たちが次々と失脚していました。その中で費宏は、1507年に礼部右侍郎、2年後には左侍郎に転じます。当時、礼部と宦官勢力との間には大きな問題がなかったため、政治的な危険から距離を置くことができていました。1510年、劉瑾が誅殺されると、翌月に費宏は礼部尚書に任ぜられ、劉瑾によって改悪された科挙制度の改革に着手します。しかし、その意見書の中で正徳帝の側近である銭寧を批判したため、彼の恨みを買うことになります。

一度目の入閣と失脚

1511年、費宏は文淵閣大学士を兼任し、内閣の一員となります。43歳という若さでの任命は、当時の政争で多くの老臣が引退したことと、正徳帝との個人的な関係が大きかったとされています。1514年には戸部尚書に移りますが、宦官勢力と銭寧の対立の狭間で、内閣は何もできない状況でした。そんな中、寧王朱宸濠が護衛兵の復活を求め、銭寧に賄賂を贈って協力を求めます。費宏はこれに反対しますが、陸完が朱宸濠に加担したため、朱宸濠と銭寧は費宏を憎み、親戚の昇進に不正に関わったという言いがかりをつけ、費宏は辞任に追い込まれます。さらに、朱宸濠の領国が費宏の故郷に近かったため、帰郷途中に襲撃を受け、家財を焼き払われ、故郷でも自宅と墓を焼き討ちされるなど、悲惨な目に遭いました。このため、費宏は隠遁生活を送らざるを得なくなりました。

二度目の入閣と「大礼の議」

1521年、正徳帝が崩御し、嘉靖帝が即位すると、費宏は復職のために北京に戻ります。しかし、宮廷では「大礼の議」が勃発し、内閣と嘉靖帝が激しく対立していました。費宏は、内閣の一員として諫言には加わっていましたが、辞職はしませんでした。その結果、楊廷和らが辞任すると、費宏は最古参として吏部尚書・内閣首輔に昇進しました。彼は、朱宸濠の一件から、皇帝との対立を避ける態度を取り、嘉靖帝の要求にほとんど応じました。さらに、嘉靖帝が張璁・桂萼を翰林院学士に任じるよう命じたことにも従います。しかし、これは「佞倖の復活」として廷臣たちの反発を招きました。費宏も強く反発しましたが、皇帝に逆らうことはしませんでした。

二度目の失脚

1525年、「武宗実録」が完成し、翰林院の人事が行われた際、礼部尚書席書が弟の人事に不満を抱き、皇帝に訴えました。この際、張璁・桂萼が席書を擁護したため、費宏への攻撃が始まりました。費宏も度々辞表を提出しましたが、嘉靖帝は詩作の議論を好んだため、辞表を受理しませんでした。しかし、政府内の対立は激化し、費宏は1527年に高齢を理由に辞任し、故郷に戻りました。

三度目の入閣と最期

1535年、張孚敬（張璁の改名）が病気で辞職すると、嘉靖帝は費宏の自宅に勅使を派遣して復帰を要請します。費宏は同年7月に北京に入り、復職を果たしますが、68歳という高齢で真夏の長旅を強いられたため体調を崩し、10月に病死しました。嘉靖帝は彼を惜しみ、手厚く遇しました。

費宏の評価

費宏は、明において稀有な三度の内閣入りを果たした人物として称賛されていますが、実際には正徳帝時代の失脚と報復の経験から、嘉靖帝時代にはひたすら皇帝の意向に従い、自己の失脚を回避することに徹していたとも言えます。しかし、明の内閣大学士の立場が脆弱であった点を考慮すると、費宏のやり方は、個人の保身の方法としては賢明であったとも言えるでしょう。

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