赤い竜 (ウェールズの伝承)

赤い竜の伝承と象徴

赤い竜は、ウェールズを代表するシンボルであり、ウェールズ語では「Y Ddraig Goch」と称されます。特にウェールズの国旗に描かれており、英語では「Welsh Dragon」と呼ばれています。

起源

赤い竜のルーツは古代ローマの軍事伝統に由来するとの説があります。2世紀、ローマ軍は小アジアでの勝利に際し、パルティアやダキア人が使っていたドラコ（蛇のような軍旗）を知り、持ち帰ったとされます。その後、ローマ皇帝トラヤヌスがこのドラコを軍旗として採用しました。ローマ軍がこのドラゴンをブリタンニアにもたらし、5世紀初頭にはブリトン人によって軍旗として使用されるようになりました。

ローマの撤退後、サクソン人やアングル人がブリテン島に流入し、ブリトン人との戦闘が始まります。この時、赤い竜はウェールズの象徴、白い竜はサクソン人を象徴するものとして伝承されています。これは、両民族の抗争を表す神話として、歴史に刻まれています。

伝説

ウェールズの伝承には、多くの物語があり、中でも『ブリタニア列王史』に見られる赤い竜と白い竜の戦いがよく知られています。この物語では、ブリテンの君主ヴォーティガンがサクソン人傭兵の反乱から逃れるために堅固な塔を建設しようとしますが、計画がうまくいかず挫折します。そこで、魔術師たちの助言に従い、特別な少年マーリンを使って問題を解決しようとします。

マーリンは、塔の下に水たまりがあることを告げ、そこから赤い竜と白い竜が現れ激しい戦いを繰り広げます。最終的には赤い竜が勝利します。その後、マーリンはこの戦いがブリトン人とサクソン人の戦いを表していると説明しました。すなわち、赤い竜がブリトン人、白い竜がサクソン人を象徴することになります。この神話は、ウェールズの歴史において重要な位置を占めています。

もう一つの伝説は、スィッズとスェヴェリスの物語です。ここでは、ブリテン王スィッズが恐ろしい唸り声の正体を探るため、弟に相談します。スェヴェリスは、異国の竜が襲いかかろうとしているために、ブリテンの竜が恐ろしい声を上げていると説明し、竜を封印する策を提案します。

この物語では、戦った竜たちが蜂蜜酒に酔い、眠りにつくことで封印されます。このように、赤い竜がブリトン人の象徴として描かれる物語は、ウェールズの独自性と文化を強調しています。

現代の赤い竜

今日、赤い竜はウェールズの国民にとって重要なアイコンです。「我々は赤い竜である」というスローガンは、ウェールズの人々のアイデンティティを象徴しています。ラグビーウェールズ代表は「レッド・ドラゴン」と呼ばれ、その強さから恐れられています。また、カーディフの市旗には竜が描かれ、特産品のリーキが像にあしらわれています。

更に、歴史的にも赤い竜はテューダー朝やヘンリー3世によって象徴的に使用され、ウェールズ公家との関係が強調されました。彼らの治世や国のアイデンティティには、赤い竜の存在が不可欠でした。

まとめ

赤い竜はウェールズの歴史や文化に深く根付いたシンボルです。数多くの伝説や物語を通じて、ブリトン人のアイデンティティを象徴し、現代に至るまでその重要性は色あせることはありません。ウェールズの人々にとって、赤い竜は単なる象徴にとどまらず、彼らの心の中に生きる精神そのものであると言えるでしょう。

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