越中公方

越中公方について

越中公方とは、明応2年（1493年）に発生した「明応の政変」後、将軍の座を追われた室町幕府10代将軍足利義材が越中国の射水郡放生津（現富山県射水市）に落ち延び、樹立した政権を指します。この政権は別名、放生津政権や放生津幕府、あるいは越中幕府とも呼ばれます。ただし、当時の記録からは彼の政権が真の幕府として機能していたわけではなく、管理職である管領や侍所も任命されていなかったことが確認されています。

概要と沿革

「明応の政変」で義材は幽閉され、その後京を脱出して越中に入ります。彼はまず、越中守護代の神保長誠が知行した放生津城（現在の射水市中新湊）に足を運び、次いで正光寺を改装し、ここを政権の御所として用いました。この正光寺は放生津城近くにあり、後に光正寺として知られるようになります。義材はこの御所を拠点にし、御判御教書や奉行人奉書などの文書を発給し、政権の維持に努めました。

その後、明応7年（1498年）に義尹（義材の改名）が越前に移動したことで、越中での活動を終了し、彼は越前公方と称されました。

政権構成と関係者

越中公方の政権は、多くの地方守護や公家から成り立っています。政権を支えたメンバーには、越中守護の畠山尚順、能登守護の畠山義統、加賀守護の富樫泰高、越後守護の上杉房能、越前守護の朝倉貞景などが含まれました。また、幕府の昵近公家衆としては日野某、阿野季綱、松殿忠顕、飛鳥井雅康たちが名を連ねています。さらに、地元の奉公衆として伊勢貞仍や吉見義隆らも関与しました。

政権とはいえ、義材は当時、京都の細川政元政権との関係に苦しみながら、臣下が京都に戻ったり、再び越中へ赴いたりという変動が見られました。義材の京都復帰を支えるためには、放生津周辺に存在した経済基盤が重要であり、神保氏は寺社領やその他の土地を押領しその基盤を強化しました。

遺産と伝承

越中公方としての義材の滞在は、文化的な交流も生み出しました。彼のもとには、連歌師である宗祇などが訪れ、京都からも歌書が送られています。また、義材の滞在時に作成された「絹本著色法華経曼荼羅図」や「青磁浮牡丹文香炉」などは、現在も重要な文化財として保存されています。さらに、雄山神社の本殿も義材の修築によって創られたとされています。魚津市の小川寺地区では、義材が2ヶ月の間滞在したという伝説があり、彼が持参した木造天神坐像も安置されています。

このように、越中公方は短い期間ながらも、地方政治と文化に重要な影響を与えた政権であり、その名残は今も富山県に残されています。

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