足利季世記

『足利季世記』は、長享元年（1487年）から元亀2年（1571年）にかけての畿内における出来事を描いた軍記物です。作者は不明であり、成立時期は室町時代末期から江戸時代初期、特に寛永年間（1624–1644年）頃であると考えられています。この作品は、足利義尚や畠山政長の死から始まり、細川氏の分裂と衰退、三好氏の実権掌握、そして織田信長の入京という、戦国時代の変遷を克明に記録しています。

内容

全8巻で構成されており、各巻にはそれぞれ別称が付されています。巻1は「畠山記」、巻2は「舟岡記」、巻3は「高国記」と呼ばれ、これらは『三闘記』または『三部軍記』と呼ばれる全3巻の作品と同一の名称を持っています。『足利季世記』の巻1から巻3の内容は、『三闘記』の内容と非常に酷似しており、『足利季世記』のこの3巻は、『三闘記』をそのまま取り込んだものと推測されています。また、『足利季世記』の巻1から巻3の前半部分と内容が重複する書物として『公方両将記』が存在します。佐藤陸は、『公方両将記』を基に『三闘記』が記されたと見ています。これに対し、小秋元三八人は『三闘記』の典拠として『別本細川両家記』を挙げ、『公方両将記』の成立時期を『三闘記』や『足利季世記』よりも後としています。

巻4から巻8は、主に『細川両家記』を書き改めたものとされており、他に『舟岡山軍記』などを参考にした箇所が見られます。

構成

以下は、『改訂 史籍集覧 第十三冊』所収の「足利季世記目録」に基づいた構成です。

巻一：畠山記
巻二：舟岡記
巻三：高国記
巻四：
巻五：
巻六：
巻七：
巻八：

評価

『足利季世記』は、近世においては重要な史料として扱われ、『本朝通鑑』や『重編応仁記』の典拠の一つとなりました。明治時代には『史籍集覧』に収められ、幸田露伴の昭和初期の作品「魔法修行者」「雪たたき」の参考資料となりました。しかし、現在の歴史学においては、史実とのずれや脚色が多く見られるため、史料としての重要度は必ずしも高くありません。

内容については、同時代を描く『細川両家記』と比較して脚色が多いとされ、史実との相違が度々指摘されています。例えば、佐藤陸は、『足利季世記』巻一の「鳥屋打死之事」と『公方両将記』上「和州合戦事」を比較し、『公方両将記』が越智氏を細川政元方としているのに対し、『足利季世記』は越智氏を政元の敵として描いていると指摘しています。また、『公方両将記』上「雪敲事」で河内平野城の城将を畠山義豊とする一方、『足利季世記』巻一の「雪タゝキノ事」では平野城将を桃井兵庫と一色某としており、佐藤はこれを元となる文献（『公方両将記』）からの改竄と述べています。

弓倉弘年は、『足利季世記』と『細川両家記』における教興寺の戦いの記述を検討しています。三好長慶が籠る飯盛城への攻撃を開始した日付について、『足利季世記』では永禄5年（1562年）4月5日、『細川両家記』では3月中頃と記述されています。弓倉は、畠山方の根来寺衆が3月に禁制を発給していることから、『細川両家記』の記述が妥当としています。また、敗北した畠山高政が退いた先についても、『足利季世記』が烏帽子形城、『細川両家記』が高屋城としていますが、他の史料との照合から『細川両家記』の説が妥当と結論付けています。

これらの指摘から、『足利季世記』は、当時の出来事を伝える貴重な史料である一方、その内容には脚色や史実とのずれが含まれているため、他の史料と照らし合わせながら慎重に扱う必要があることがわかります。

まとめ

『足利季世記』は、室町時代末期から戦国時代にかけての社会情勢や武将たちの動向を知る上で重要な資料です。しかし、史実との相違点や脚色が確認されているため、その内容を鵜呑みにせず、多角的な視点から分析することが求められます。

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