足手荒神

足手荒とは



足手荒(あしてこうじん)は、手や足の病気、怪我の治癒を祈願する民間信仰です。この信仰は、手足の健康を願う人々の間で古くから受け継がれてきました。

信仰の特徴



足手荒信仰で最も特徴的なのは、手形や足形を奉納する習慣です。これは、自身の体の不調をに託し、快癒を願う行為とされています。奉納される手形や足形は、紙に書かれたものから、石や木に彫られたもの、さらにはギプス松葉杖といった具体的な道具まで様々です。また、他の人が奉納した手形や足型で患部をなでることで、の力を得ようとする風習も見られます。

信仰の広がり



足手荒は、主に九州地方を中心に信仰されています。熊本県大分県、福岡県などがその中心地ですが、秋田県四国地方にも信仰が及んでいるとの報告があります。特に熊本県では、「足手荒」を祀る社や寺院が多く、地域によっては「手足荒」と呼ばれることもあります。

足手荒信仰対象



足手荒として信仰される対象は、地域や寺社によって様々です。

青面金剛



熊本県八代市の医王寺や阿蘇市西巌殿寺では、足手荒として青面金剛が祀られています。青面金剛は庚申信仰本尊であり、病魔退散の力を持つとされています。

霊石



西巌殿寺の足手荒は、丸い霊石「お鏡石」が信仰の対象となっています。この霊石は、大分県熊本県各地の足手荒分霊として信仰されており、その信仰圏は四国にまで及ぶとされています。

五輪塔



熊本市中央区の本覚寺では、五輪塔の丸石が、玉名市岱明町では、五輪塔の石を寄せ集めた六輪塔がご体として祀られています。

三宝荒神



熊本県山鹿市の宗泉寺では、「足手三宝大荒」が祀られています。また、八代市の医王寺には三宝荒神の文字と梵字が刻まれており、三宝荒神信仰との結びつきも指摘されています。

武将の霊



熊本県嘉島町の甲斐社は、手足を負傷して亡くなった武将・甲斐親英(宗立)を祀っており、足手荒の総本社とされています。熊本県各地の足手荒は、この甲斐社の分霊を勧請したものが多いとされています。一方で、旧飽託郡では、手足の疾病で敵に追いつかれて落命した託麻某という武士の後身であるとする説もあります。

武士の伝説



大分県別府市では、手足を負傷した武士の霊が手足荒として信仰されています。この武士は、関ヶ原の戦いの前哨戦で崖から落ちて手足を骨折し、捕らえられて斬首されたという伝説があり、その霊が手足を挫いた人を救うと信じられています。また、この地で傷を癒した兵士の伝説も残っており、手足を挫いた人が参拝すると治るとされています。

少彦名薬師如来



大分県九重町の二日市足手荒社では、少彦名などが祭として祀られています。また、室町時代のものとされる石造宝塔には薬師如来が刻まれており、医薬の仏への信仰も見られます。

信仰される地域



足手荒は、秋田県、福岡県、熊本県大分県など、日本各地で信仰されています。特に九州地方での信仰が盛んですが、大分県からを越えて四国にも及んでいるとの報告があります。

各地の足手荒



以下に、各地の代表的な足手荒をいくつか紹介します。

秋田県:
男鹿市船川港本山門前
男鹿市福川(「青竜さま」とも呼ばれる)
福岡県:
久留米市草野町(草野の足手荒
熊本県:
熊本市中央区(本覚寺境内)
熊本市西区河内町
八代市袋町(医王寺境内)
八代市日奈久東町
荒尾市府本下区(甲斐社)
荒尾市樺
水俣市幸町(瀬川の足手荒
水俣市袋(袋の足手荒
玉名市岱明町
山鹿市藤井(宗泉寺境内)
山鹿市山鹿(大宮社境内)
山鹿市菊鹿町松尾
菊池市小木(下古閑の足手荒
菊池市原(黒竹の足手荒
菊池市重味(金峯の足手荒
菊池市班蛇口治部古閑(焼野の足手荒
上天草市大矢野町登立
上天草市松島町教良木
阿蘇市黒川(西巌殿寺境内)
阿蘇市西湯浦(西湯浦八幡宮境内)
玉名郡玉東町木葉
玉名郡玉東町上木葉
玉名郡和水町板楠(立山の足手荒
玉名郡和水町日平
菊池郡大津町室(西鶴甲斐社)
阿蘇郡小国町大字宮原
阿蘇郡産山村田尻
阿蘇郡南阿蘇村大字河陰(足手荒社)
上益城郡嘉島町上六嘉(甲斐社)
上益城郡山都町城平(福王寺境内)
八代郡氷川町高塚土穴瀬
大分県:
大分市大字野津原
別府市南立石
日田市前津江町赤石本村
竹田市直入町大字長湯
竹田市直入町大字下田北藤目
竹田市久住町添ケ津留
竹田市飛田川
竹田市拝田原
竹田市次倉宮戸
竹田市次倉妙見
竹田市小野
竹田市刈小野
玖珠郡九重町大字松木(二日市足手荒社)

同種の習俗



手足の疾病平癒を祈願し、手形や足形を奉納する習俗は、足手荒信仰に限らず、日本各地に広く見られます。

岩手県北上市の千手観音堂
栃木県足利市の大手
新潟県村上市の河内
福井県若狭町の三方石観世音
静岡県浜松市の足
岡山県新見市の足王様
福岡県福岡市の曾我社、飛来社、太郎左近社
福岡県糸島市の瑠璃光寺
福岡県宗像市の現人
* 福岡県篠栗町の城戸千手観音堂など


足手荒は、手足の健康を願う人々の切実な祈りが形となった信仰です。その多様な信仰の形は、日本の民間信仰の奥深さを物語っています。

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