軽トールワゴン

軽トールワゴンとは

軽トールワゴンは、通常の軽自動車よりも全高が高いハッチバック型の軽自動車を指します。軽ハイトワゴンとも呼ばれます。その特徴は、全高を高くすることで、室内空間を広く確保し、乗員の着座姿勢をアップライトにすることで、前後方向の占有面積を減らし、十分な居住性と荷室容量を実現している点です。

さらに、座面高が適度で乗降性が良く、運転中の視界が良いといったメリットもあります。エンジンはボンネット内に横置きに配置され、駆動方式はFFまたはFFベースの4WDが一般的です。ドアは、前席と後席にヒンジドアが左右2枚ずつ、後部にバックドアが1枚の5ドア車が基本ですが、後席にスライドドアを採用した車種もあります。

軽トールワゴンは、ミニバンから派生したトールワゴンの軽自動車版とも言え、現在では軽乗用車の販売台数において主流となっています。特に、車体寸法に制限のある軽自動車規格において、利便性と操縦安定性を両立させるための有効な手法として広く採用されています。

呼称について

欧州の区分に倣えば、軽トールワゴンはAセグメントのミニバン、つまり超小型車（mini MPVs or microvans）の一種となります。しかし、日本ではメーカーの販売戦略上、キャブオーバースタイルやセミキャブオーバースタイルの商用車との区別を図るため、「軽ミニバン」という呼称を避け、「軽トールワゴン」または「軽ハイトワゴン」という名称が用いられています。

ただし、メーカー自身が「ミニバン」と呼ぶケースもあり、業界やメディア間で呼称が統一されていないのは、各社の販売戦略や車種構成の違い、他社製品との差別化を目的としたコマーシャリズムの影響と言えるでしょう。

また、背が高くボンネットの短い1.5BOXの車種を、セミキャブオーバースタイルの商用車と明確に区別するために、車種名から取って「○○型」や「○○スタイル」などと呼ぶこともあります。

全高について

軽トールワゴンの全高には、明確な基準があるわけではありません。機械式立体駐車場に入庫できる高さ1,550mmの車も含まれることもありますが、これらは軽セミトールワゴンに分類されることもあります。また、全高1,600mmの車種でも、スタイリングを重視している場合は、軽トールワゴンとは言い難いこともあり、定義が曖昧なのが現状です。

近年では、全高1,835mmに達する車種も登場しており、これらは軽スーパーハイトワゴンに分類されることがあります。

衝突安全性について

2010年頃には、側面衝突時に横転する軽自動車が多く、その中には軽トールワゴンも多く含まれていました。しかし、近年では、重心を低くしたり、車体の重量バランスを最適化したり、サイドカーテンエアバックを搭載するなど、安全対策が進んだため、側面衝突による横転の危険性は大幅に低減しています。

歴史

現在の軽トールワゴンの起源は、1972年に登場したホンダの「ライフ ステップバン」に遡ることができます。このモデルは、FF+背高キャビンという先進的なパッケージングを採用していましたが、当時の市場には受け入れられず、商業的には成功しませんでした。しかし、その合理的な設計思想は、後の軽トールワゴンに大きな影響を与えました。

1980年代後半には、バブル経済の影響もあり、個性的な輸入大衆車が人気を集め、日本車でも性能や利便性だけでなく「個性」を求める消費者が増えてきました。そのような中で、1990年に三菱自動車工業から発売された「ミニカ トッポ」は、頭上空間の無駄をスタイリングに反映させ、アンバランスなプロポーションを「カワイイ」と捉えられたことで、背の高い車に対する抵抗感を和らげる役割を果たしました。

現在の軽トールワゴンの隆盛に直接つながるものは、1993年に登場したスズキの「ワゴンR」です。ワゴンRは、欧州向けのミニマムピープルムーバー計画をベースに、軽自動車規格に収まるように仕立て直したもので、その革新的なパッケージングは、軽自動車市場に大きな影響を与え、その後の軽自動車市場を牽引する存在となりました。

ワゴンRの成功を見て、1995年にはダイハツ工業が「ムーヴ」を投入しました。ムーヴはワゴンRの最大のライバルとして成長し、両社の競争によって軽トールワゴン市場は活況を呈しました。その後、ホンダ、三菱もこの市場に参入し、軽トールワゴンは軽自動車の主要カテゴリとして完全に認知されるに至りました。

スバルは当初、セダン（ハッチバック）系統にトールワゴンの性格を持たせた「プレオ」で対応していましたが、後に軽トールワゴン市場に参入しました。

その後

軽トールワゴンは、現在も軽自動車市場の主流であり、各社が様々なモデルを販売しています。スズキは「MRワゴン」や「パレット」を、ダイハツは「タント」や「ムーヴ ラテ」「ムーヴ コンテ」などを発売し、三菱は「eKシリーズ」を展開するなど、各社が競い合いながら、軽トールワゴン市場を拡大させています。

主な車種

現在販売されている主な車種（2022年10月現在）

スズキ
ワゴンR
スペーシア
ハスラー
ダイハツ
ムーヴ
タント
ミラトコット
ホンダ
N-BOX
N-WGN
N-ONE
三菱
eKワゴン
eKクロス
日産
デイズ
ルークス

過去の主な車種

スズキ：パレット、MRワゴン、AZ-ワゴン
ダイハツ：ムーヴラテ、ムーヴコンテ、タントエグゼ、ネイキッド、MAX、ウェイク
スバル：プレオ、ステラ
三菱：ミニカトッポ、トッポBJ、トッポ、eKスポーツ、eKクラッシィ、eKアクティブ、オッティ
ホンダ：ザッツ、ゼスト、ライフ

参考（近似）車種

三菱・ミニカトッポ - ミニカのハイルーフ仕様
三菱・eKシリーズ（2代目まで） - 車高1,550mmのため軽セミトールワゴンに分類される場合あり
日産・オッティ - eKのOEM車種
三菱・i - スタイリング重視のため、軽トールワゴンに含めるかは見解が分かれる
ホンダ・ライフステップバン - 商用車だがスタイルが類似
* 韓国版軽自動車規格の軽トールワゴン - ヒュンダイ・アトス/キア・ヴィスト、キア・レイなど

まとめ

軽トールワゴンは、その使い勝手の良さから、軽自動車市場で確固たる地位を築いています。これからも、各メーカーが様々なモデルを投入することで、さらに進化していくことが期待されます。

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