近江国分寺

近江国分寺

近江国分寺は、奈良時代に聖武天皇の詔によって日本各地に建立された国分寺のうち、近江国に置かれた寺院です。この寺院は、僧寺と尼寺から構成されていました。本稿では、近江国分寺の歴史、伽藍、そして関連する尼寺について解説します。

歴史

近江国分寺の創建時期は明確ではありません。聖武天皇が天平13年（741年）に国分寺建立の詔を発布した後、紫香楽宮（信楽宮/甲賀宮）と並行して総国分寺としての甲賀寺（こうかでら、甲可寺）の造営を進めていました。一説には、天平17年（745年）に紫香楽宮が廃都された後、甲賀寺が近江国分寺に転用されたとも考えられています。しかし、近江国分寺と甲賀寺は別々に計画されたとする説もあり、近江国分寺は近江国府付近の瀬田廃寺跡に建立されたという見方もあります。

奈良時代の近江国分寺に関しては、最澄がこの寺で得度したことが知られています。最澄は12歳の宝亀8年（777年）に行表のもとで学び、15歳の宝亀11年（780年）に得度しました。その後、延暦4年（785年）には比叡山に入ったとされています。

『日本紀略』によれば、延暦4年（785年）に国分僧寺が火災で焼失したと記録されています。その後、再建されなかったため、弘仁11年（820年）に近江国司が願い出て、定額寺であった国昌寺を国分金光明寺（国分寺）とすることが許可されました。これが後期近江国分僧寺となります。

延長5年（927年）に成立した『延喜式』主税上の規定によると、近江国の国分寺料として稲6万束が当てられていました。天延4年（976年）には、大門が地震で倒壊し、寛仁元年（1017年）には、国分尼寺の火災の飛び火により焼失したとされています（再建については不明）。

その後、近江国分寺は歴史の中でその姿を消していきました。『江家次第』、『顕広王記』、『源平盛衰記』には「国分寺」の記述が見られますが、これらは地名化したものとする説が有力です。

伽藍

前期国分僧寺跡

延暦4年（785年）の焼失以前の近江国分寺（前期近江国分僧寺）の所在は、現在でも正確にはわかっていません。甲賀寺が転用されたとする説と、瀬田廃寺跡とする説が有力です。

甲賀寺転用説では、『正倉院文書』天平勝宝3年（751年）の「奴婢見来帳」に「甲賀宮国分寺」と見えることが根拠とされています。推定地である紫香楽宮跡内裏野地区の主要伽藍は東大寺式伽藍配置であり、寺域では紫香楽宮跡の他の関連遺跡群とは主軸の傾きが異なる点や、火災の痕跡が検出された点が特徴です。

一方、瀬田廃寺跡説では、寺跡が近江国府の西辺の真南に位置するという、国府との立地関係が重視されています。瀬田廃寺跡の主要伽藍は四天王寺式伽藍配置で、塔礎石には火熱痕が確認されています。

後期国分僧寺跡

弘仁11年（820年）以降の近江国分寺（後期近江国分僧寺）については、国昌寺が寺格を継承したとされています。現在は廃寺のため所在地は不明ですが、滋賀職業能力開発促進センター（ポリテクセンター滋賀）付近に推定されています。晴嵐小学校内に石碑が建てられており、周辺では国分寺のものと伝わる礎石が残されています。

なお、国昌寺跡推定地の北方には曹洞宗国分寺がありますが、これは元々近江国分寺の別所として建立された寺院です。源義仲（木曾義仲）の戦乱で焼失した後、本尊は若宮八幡神社に移されましたが、宝永3年（1706年）に膳所藩主の本多康慶が新楽寺として再建し、後に国分寺と改称しました。

近江国分尼寺跡

近江国分尼寺跡の正確な場所は不明です。しかし、国昌寺推定地と同じ台地の南東方で瓦の出土が確認されており、この付近が近江国分尼寺跡であると推定されています。

まとめ

近江国分寺は、創建から焼失、再建、そして変遷を経て、その姿を歴史の中に消していきました。しかし、その跡地からは古代の歴史と文化を垣間見ることができます。関連する尼寺の跡とともに、その歴史をたどることは、古代日本の姿を理解する上で重要な手がかりとなるでしょう。

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