近江牛

近江牛とは

近江牛（おうみうし、おうみぎゅう）は、滋賀県内で最も長く肥育された黒毛和種の和牛、およびその牛肉を指す名称です。400年以上の歴史を持つ日本を代表するブランド和牛の一つで、その品質の高さから「三大和牛」にも数えられています。

定義

近江牛と名乗るためには、以下の条件を満たす必要があります。

品種: 黒毛和種であること
以前は但馬牛を素牛とすることが求められていましたが、現在は必ずしもその必要はありません。
地理的表示: JAS法に基づく原産地表示が「滋賀県産」と表示できること
滋賀県内で最も長く飼育された牛であることが条件です。

なお、日本食肉格付協会による格付けの定義はありませんが、A-4、B-4以上の格付けの枝肉には、認定書や認証シールが発行されます。

歴史

近江牛の歴史は古く、1590年（天正18年）には、豊臣秀吉の小田原攻めの際に高山右近が蒲生氏郷らに牛肉を振る舞ったという記録が残っています。その後、蒲生氏郷が近江で食肉牛を飼育したことが、近江牛の普及に貢献したとされています。また、氏郷が松坂（現・松阪市）や会津（現・会津若松市）に移封された際、近江から連れて行った技術者たちが、現在の松阪牛や会津牛の基礎を築いたとも考えられています。

江戸時代には、彦根藩が幕府に献上する太鼓の牛革を確保するため、牛の畜産を奨励し、牛肉を食べる文化が発達しました。後期には、「養生薬」として加工された牛肉が将軍家に献上された記録も残っています。また、味噌漬けや粕漬けなどの加工品が大名に贈られていたことも、彦根藩の記録から確認できます。

幕末には、写真家のフェリックス・ベアトが撮影した写真に「江州 彦根 生製 牛肉漬」と書かれた看板が写っており、当時すでに牛肉が販売されていたことがわかります。1855年には、彦根の業者が江戸で彦根牛肉の看板を掲げて開業したという記録も残っています。

明治時代になると、西洋文化の影響で牛肉の消費が拡大し、近江牛の需要も増加しました。1869年には、近江から東京まで牛を運んで取引が行われ、1883年には、近江出身の業者が東京で牛肉問屋を開業しています。しかし、汽船の発達により近江牛は神戸港から出荷されるようになり、他の産地の牛肉とまとめて「神戸牛」と呼ばれるようになったため、産地としての近江牛の名は一時影を潜めることになります。

1890年には、東海道本線の開通により近江八幡駅から近江牛の輸送が開始されました。1893年の牛疫の流行により生牛の輸送が禁止された際には、滋賀県内で屠殺された枝肉が多く流通し、その品質の高さから、消費者の間で滋賀県産の牛肉が注目されるようになりました。その結果、近江八幡から出荷される牛肉が特に美味しいと評判になり、近江牛の名が知れ渡るきっかけとなりました。

戦後には、近江牛ブランドを確立するため、1951年に近江肉牛協会が設立されました。同協会は、国会議事堂で生きた近江牛を披露したり、デパートの屋上で競りを公開するなど、大々的な宣伝活動を展開しました。

2005年には、肥育履歴偽装事件をきっかけに、近江牛の定義が明確化されました。2007年には地域団体商標に登録され、2017年には地理的表示（GI）にも登録されています。

生産

近江牛は、主に滋賀県東部の蒲生・神崎・愛知の各郡（現在の近江八幡市、東近江市、竜王町など）で生産されています。これらの地域は、米の生産やその他の農業が盛んであり、牛を肥育するための飼料と気候に恵まれています。

多くの近江牛畜産農家では、オレイン酸やリノール酸を多く含む近江米の藁や米糠を飼料として与えています。近江牛の特徴は、霜降りの度合いが高く、芳醇な香りと、脂質の口溶けの良さにあります。これは、融点が低く、牛肉の香りや風味に関与するオレイン酸の含有率が、他の産地の黒毛和種よりも高いことに起因すると考えられています。年間出荷頭数は約5000頭です。

その他

近江牛を扱う駅弁には、「食べ物の恨みは恐ろしい」というキャッチコピーが使われています。これは、近江牛を食べたかった水戸藩士が、江戸幕府への近江牛の献上を断った近江彦根藩藩主・井伊直弼を恨んで、桜田門外の変で討ったという俗説に由来しています。

関連情報

近江米
近江の茶
近江商人
ももんじ屋
牛肉#ブランド牛肉
日本のブランド牛一覧
但馬牛
神戸ビーフ
松阪牛
地理的表示

外部リンク

滋賀県畜産課
「近江牛」近江肉牛協会
「近江牛」生産・流通推進協議会
滋賀食肉センター
* 近江牛（登録番号第56号）:登録の公示・登録産品紹介 - 農林水産省[地理的表示]保護制度登録産品

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