逃走の罪

逃走の罪について

逃走の罪は、刑法に規定された国家の拘禁作用を保護する罪であり、拘禁された者が拘禁状態から逃れる行為、または他者が拘禁されている者を逃がす行為などを指します。この罪は、国家の刑罰権の行使を妨げる行為として処罰されます。

逃走の罪の概説

逃走の罪は、刑法第二編「罪」の第六章に規定されています。保護法益は、国家の拘禁作用です。この罪には、被拘禁者が自ら逃走する「単純逃走罪」と、他者が被拘禁者を逃走させる「被拘禁者奪取罪」などがあります。単純逃走罪は、一部の国では処罰対象外とされていますが、日本では処罰対象です。最高裁判所は、逃走の罪の合憲性について、拘禁されている者が逃れようとするのは憲法が保障する自由の回復行為ではないとしています。なぜなら、拘禁されている者は法律の手続きによらなければ自由を回復できないからです。そして、逃走を処罰する規定は公共の福祉を維持するために自由の制限を認めたものであると判断しました。

単純逃走罪

単純逃走罪は、加重逃走罪と区別するために用いられる名称です。

主体

本罪の主体は、「法令により拘禁された者」です。これは身分犯であり、確定判決を受けて自由刑の執行のために拘置されている者、死刑の言い渡しを受けて拘置されている者、罰金や科料を完納できないために労役場に留置されている者などが該当します。また、勾留状の執行により拘禁されている者や、鑑定留置に付された者も含まれるとされています。ただし、逮捕状の執行により拘禁されている者は含まれないとするのが通説です。

行為

本罪の行為は、「逃走」であり、看守者の実力的支配を脱した状態を指します。看守者がすぐに追跡し、発見された場合は、逃走未遂罪となります。

未遂

逃走が未遂に終わった場合も、未遂罪として処罰されます。

加重逃走罪

加重逃走罪は、単純逃走罪よりも重い刑罰が科せられる罪です。

主体

本罪の主体は、単純逃走罪の主体に加えて、「勾引状の執行を受けた者」も含まれます。逮捕状により逮捕された者も含まれますが、現行犯逮捕や緊急逮捕の場合は含まれないとするのが通説です。

逃走の手段として共謀した場合の扱いについては、共同正犯が適用されるか否かで争いがあります。共同正犯が適用されず、各人に単純逃走罪、加重逃走罪または逃走援助罪が適用されるべきとする見解が有力です。また、看守への暴行・脅迫や拘禁場の破壊を伴う逃走未遂の場合、建造物損壊罪や公務執行妨害罪との併合罪となり、逃走した場合よりも罪が重くなるという不合理な点が指摘されています。

行為

本罪の行為は、以下のいずれかの方法・手段により逃走することです。

拘禁場もしくは拘束のための器具の損壊
暴行もしくは脅迫
二人以上での通謀

「損壊」は物理的損壊を意味し、手錠や捕縄を外すだけでは該当しません。「暴行」は看守に対して行われる必要があり、公務執行妨害罪と同じく間接的な暴行も含まれます。「二人以上での通謀」による逃走も本罪に該当します。

未遂

逃走が未遂に終わった場合も、未遂罪として処罰されます。

被拘禁者奪取罪

被拘禁者奪取罪は、他者が拘禁されている者を奪い逃がす行為を指します。

客体

本罪の客体は「法令により拘禁された者」であり、単純逃走罪や加重逃走罪で主体となる者に加え、現行犯逮捕や緊急逮捕された者も含まれるとするのが通説です。ただし、刑事司法実現のための拘禁である必要があり、児童自立支援施設入所者や精神保健福祉法により入院措置を受けた者は含まれません。少年院に収容された者は含まれるとした判例があります。

行為

本罪の行為は、「奪取」です。

未遂

奪取が未遂に終わった場合も、未遂罪として処罰されます。

逃走援助罪

逃走援助罪は、拘禁されている者の逃走を助ける行為を指します。

目的犯

本罪は、「法令により拘禁された者を逃走させる目的」を要する目的犯です。

客体

本罪の客体は、「法令により拘禁された者」です。

行為

本罪の行為は、逃走を容易にする器具の提供や暴行・脅迫です。

既遂時期

逃走を容易にする行為をした時点、または暴行・脅迫をした時点で既遂となります。実際に拘禁された者が逃走することを要しません。ただし、看守者逃走援助罪の場合は、拘禁された者が逃走した時点で既遂となります。

未遂

逃走援助が未遂に終わった場合も、未遂罪として処罰されます。

看守者等による逃走援助罪

看守者等による逃走援助罪は、看守や護送者が拘禁されている者の逃走を助ける行為を指します。

主体

本罪の主体は、「法令により拘禁された者を看守し又は護送する者」です。これは身分犯です。

客体