速水和彦

速水和彦：台湾鉄道の発展を支えた機械工学者

速水和彦（はやみ かずひこ、1889年12月19日 - 1949年8月12日）は、日本の機械工学者であり、特に日本統治時代の台湾における鉄道施設の建設と発展に多大な貢献をしました。彼は、台北市に建設された新台北鉄道工場（現在の台北機廠）の設計を手がけ、台湾では「北廠之父（台北機廠の父）」として尊敬されています。

生い立ちと教育

速水和彦は、北海道釧路市で生まれました。8歳の時に、父の転勤に伴い台湾に移住し、台湾総督府国語学校付属初等部、中等部で学びました。その後、日本に戻り滋賀県立膳所中学校、旧制第三高等学校（京都大学の前身）に進学。三高時代には野球部で活躍しました。1907年には母校の国語学校校長の要請で野球部のコーチとして台湾を訪れ、中学校野球部の強化に貢献し、春の対戦で敗北していた中学会に雪辱を果たしました。

1913年7月、京都帝国大学工学部機械工学科を卒業後、内外綿（現・シキボウ傘下新内外綿）に入社し上海支店で紡績工場建設に従事しましたが、翌年に退社しました。

台湾でのキャリア

1915年、速水は台湾総督府交通局鉄道部に技手として入職し、1917年には技師に昇進。その後、1925年に台北鉄道工場長に就任しました。運転係や設計掛長（係長）を経て、1927年には工作課長兼運転課長に就任し、新台北鉄道工場（現在の台北機廠）の機能面での設計を担当しました。建屋設計は宇敷赳夫が担当しました。

1935年に竣工した台北鉄道工場は、当時東洋最大規模と評されるほどの大規模なプロジェクトでした。速水は、工場施設の設計だけでなく、従業員用の大浴場の設計にも関わり、構内ボイラーの熱を活用するなど、従業員の福利厚生にも配慮しました。

また、後進育成にも力を注ぎ、競技会を開催し、機関庫の伝統行事として定着させました。競技会では、燃料節約や無事故運転などの技術を競い合いました。父が台南郵便局長を務めていた縁もあり、台湾総督府台南高等工業学校（現：国立成功大学の前身）の学部課程も支援しました。

1943年からは兼任講師として台北帝国大学工学部でも機械工学の教鞭を執るようになりました。第二次世界大戦終結後も台湾に留まり、教授職として帝大の後身となる国立台湾大学工学院で機械工学の指導を続けました。

その後と遺産

その後、日本への帰国が決まりましたが、1949年8月12日、日本丸乗船中に病死し、日本の地を踏むことなく水葬されました。

速水が設計した台北鉄道工場は、戦後も台北機廠として重要な役割を果たし続け、2012年まで稼働していました。彼の設計による大浴場は内政部3級古蹟（現在は文化部の分類では直轄市定古蹟）に指定され、2015年には機廠全域が国定古蹟となりました。現在は、台北機廠鉄道博物館園区として整備が進められ、一般公開されています。

速水の胸像は長らく台北機廠構内に保存されていましたが、現在は富岡車両基地の資料室に移されています。

栄典

速水和彦は、その功績により、以下の位階と勲章を授与されました。

位階

1918年4月20日 - 従七位
1920年5月10日 - 正七位
1922年8月21日 - 従六位
1925年5月15日 - 正六位
1928年5月1日 - 従五位
1933年5月15日 - 正五位
1938年6月1日 - 従四位
1943年6月15日 - 正四位
1944年1月4日 - 従三位

勲章

1929年7月27日 - 勲六等瑞宝章
1933年7月20日 - 勲五等瑞宝章
1938年8月13日 - 勲四等瑞宝章
1940年4月29日 - 勲三等旭日中綬章
1942年8月19日 - 勲三等瑞宝章

親族

弟：速水保彦（医師）-岳父に台北庁長・加福豊次
義弟：鈴木秀夫（妹・美代の夫、新竹州知事）
* 孫：速水璟

速水和彦は、台湾の鉄道史にその名を刻む、偉大な機械工学者でした。

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