連邦政治交渉協議委員会
ミャンマーにおける有力な少数民族武装組織が集結した「連邦政治交渉協議委員会（Federal Political Negotiation and Consultative Committee, 略称: FPNCC）」は、国内の中央政府との政治的な対話を進めることを主目的として結成された連合体です。ミャンマーに存在する多数の少数民族武装組織の中でも最大規模の集まりとして知られています。この組織は、中国政府からも公式に関与が認められており、中央政府と少数民族武装勢力との交渉窓口としての役割を期待されています。
FPNCCは、2017年4月19日、ワ州連合軍（UWSA）の本部が置かれるパンサンにおいて設立されました。その形成には、かつて存在したビルマ統一民族連邦評議会（UNFC）の経験が踏まえられており、設立当初の7つの構成組織はいずれも、ミャンマー政府が主導する全国停戦合意（NCA）には署名していませんでした。FPNCCは、2021年のクーデター以降混迷が深まるミャンマー情勢の中、2023年3月には公式に中国政府に対し、国内危機の収拾に向けた働きかけを行うよう要請しています。
2024年2月現在、FPNCCは複数の有力な少数民族武装組織によって構成されています。これらの構成団体の一部は、互いの連携を強化するための同盟関係を独自に築いています。例えば、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）、アラカン軍（AA）、タアン民族解放軍（TNLA）は「三兄弟同盟」として知られており、これにカチン独立軍（KIA）を加えた組織群が「北部同盟」と呼ばれています。
一方で、FPNCCはその内部に複数の緊張関係や対立を抱えています。特に、KIAとTNLA、KIAとMNDAA、そしてTNLAとSSA-N、TNLAとMNDAAといった構成組織間での衝突が報告されており、UWSAがこうした内部紛争の仲介役を担おうとしています。
FPNCC内部でも顕著な対立の一つが、KIAとTNLAの間に見られます。カチン族の多くは、シャン州北部に位置し、かつて「カチン準州」として認定されていた地域に居住しています。カチン独立機構（KIO）とその軍事部門であるKIAは、この地域で1960年代初頭に結成されました。KIO/KIAは、長年にわたりタアン族の軍事組織設立を支援してきました。過去にはPSLO/Aと永久同盟を締結しましたが、2005年に政府に降伏しています。その後もKIO/KIAはタアン族を保護する役割を果たし、2011年にはパラウン州解放戦線/タアン民族解放軍（PSLF/TNLA）の設立を支援し、再び永久同盟を結びました。しかし、2015年以降、TNLAはUWSAとの結びつきを強める一方、KIAとは距離が生まれました。現在では、TNLAがKIAの管轄する地域の一部を「パラウン州」として主張し、カチン族の民間人に対する暴力行為も報告されるなど、関係は悪化しています。
近年、KIAとTNLAの間では複数の衝突が発生しています。2023年12月には、TNLAがクカイとナンパカを結ぶ幹線道路上のミャンマー軍前哨基地を攻撃した後、到着したKIA部隊と橋の管理を巡って対立が生じました。2024年1月にはTNLAがクカイを占領し、独自の行政機構を樹立しました。同年2月、カチン革命記念日を祝うためにクカイ入りしたKIA部隊が住民にカチン旗掲揚を呼びかけると、TNLAはこれを強制的に撤去させる出来事がありました。同年4月にはクカイ郡区で銃撃戦が発生し、緊張が高まる中、TNLAはクカイ唯一の統治組織であると宣言し、KIAに対し4月中のナムトゥやクカイ、ナムオムなどからの退去を繰り返し通告しました。一部の下級兵士レベルの問題は中央委員会の介入により解決に至ったケースもあります。同年5月には、TNLAがFPNCCに対し、KIAがモンボー・オーイラウ間のボーホーチャン鉱山の管理を混乱させていると訴えました。6月にはKIAがこの区間の道路を封鎖し、TNLAの鉱物輸送を妨害しました。TNLAはKIAが民間人の移動やシュエガス・石油パイプライン沿いの道路封鎖も行っていると非難しつつも、対話による解決の意思を示しました。7月にはナムトゥでTNLAがKIAの将校や兵士、カチン族の若者を一時的に拘束する事案が発生しています。2025年1月には、モンウィーのKIAキャンプをTNLAが攻撃し、領土を巡る争いが再燃しました。
もう一つの主要な対立軸は、KIAとMNDAAの間に見られます。2024年2月、MNDAAはパンサイにおいて、KIAやSSPPの部隊が軍服や武装をしたまま通行することを制限しました。同年4月には、MNDAAがモンコーにあったKIA事務所を封鎖し、カチン族コミュニティが計画していたマナウホールの建設も禁止しました。6月には、シャン州北部のカンメイン村で、KIO/KIAが国民統一政府（NUG）と協力して高校を再開しようとした試みを、MNDAAが「中国語学校として開校されるべき」として妨害しました。2025年1月21日には、ムセ郡区モンボー地区で市場の税金徴収を巡る対立が激化しました。長年モンボーで活動してきたKIAに対し、MNDAAは1027作戦によってパンサイやモンコーを占領し、支配地域を拡大したため、モンボーに行政権を確立したいという思惑があり、これが対立の原因になったと考えられています。
FPNCCはミャンマーの複雑な民族問題と政治情勢を反映した連合体であり、その活動は中央政府との関係だけでなく、内部の組織間の力学によっても大きく左右されています。
設立とその背景
FPNCCは、2017年4月19日、ワ州連合軍（UWSA）の本部が置かれるパンサンにおいて設立されました。その形成には、かつて存在したビルマ統一民族連邦評議会（UNFC）の経験が踏まえられており、設立当初の7つの構成組織はいずれも、ミャンマー政府が主導する全国停戦合意（NCA）には署名していませんでした。FPNCCは、2021年のクーデター以降混迷が深まるミャンマー情勢の中、2023年3月には公式に中国政府に対し、国内危機の収拾に向けた働きかけを行うよう要請しています。
構成勢力と内部の緊張
2024年2月現在、FPNCCは複数の有力な少数民族武装組織によって構成されています。これらの構成団体の一部は、互いの連携を強化するための同盟関係を独自に築いています。例えば、ミャンマー民族民主同盟軍（MNDAA）、アラカン軍（AA）、タアン民族解放軍（TNLA）は「三兄弟同盟」として知られており、これにカチン独立軍（KIA）を加えた組織群が「北部同盟」と呼ばれています。
一方で、FPNCCはその内部に複数の緊張関係や対立を抱えています。特に、KIAとTNLA、KIAとMNDAA、そしてTNLAとSSA-N、TNLAとMNDAAといった構成組織間での衝突が報告されており、UWSAがこうした内部紛争の仲介役を担おうとしています。
KIAとTNLAの確執
FPNCC内部でも顕著な対立の一つが、KIAとTNLAの間に見られます。カチン族の多くは、シャン州北部に位置し、かつて「カチン準州」として認定されていた地域に居住しています。カチン独立機構（KIO）とその軍事部門であるKIAは、この地域で1960年代初頭に結成されました。KIO/KIAは、長年にわたりタアン族の軍事組織設立を支援してきました。過去にはPSLO/Aと永久同盟を締結しましたが、2005年に政府に降伏しています。その後もKIO/KIAはタアン族を保護する役割を果たし、2011年にはパラウン州解放戦線/タアン民族解放軍（PSLF/TNLA）の設立を支援し、再び永久同盟を結びました。しかし、2015年以降、TNLAはUWSAとの結びつきを強める一方、KIAとは距離が生まれました。現在では、TNLAがKIAの管轄する地域の一部を「パラウン州」として主張し、カチン族の民間人に対する暴力行為も報告されるなど、関係は悪化しています。
近年、KIAとTNLAの間では複数の衝突が発生しています。2023年12月には、TNLAがクカイとナンパカを結ぶ幹線道路上のミャンマー軍前哨基地を攻撃した後、到着したKIA部隊と橋の管理を巡って対立が生じました。2024年1月にはTNLAがクカイを占領し、独自の行政機構を樹立しました。同年2月、カチン革命記念日を祝うためにクカイ入りしたKIA部隊が住民にカチン旗掲揚を呼びかけると、TNLAはこれを強制的に撤去させる出来事がありました。同年4月にはクカイ郡区で銃撃戦が発生し、緊張が高まる中、TNLAはクカイ唯一の統治組織であると宣言し、KIAに対し4月中のナムトゥやクカイ、ナムオムなどからの退去を繰り返し通告しました。一部の下級兵士レベルの問題は中央委員会の介入により解決に至ったケースもあります。同年5月には、TNLAがFPNCCに対し、KIAがモンボー・オーイラウ間のボーホーチャン鉱山の管理を混乱させていると訴えました。6月にはKIAがこの区間の道路を封鎖し、TNLAの鉱物輸送を妨害しました。TNLAはKIAが民間人の移動やシュエガス・石油パイプライン沿いの道路封鎖も行っていると非難しつつも、対話による解決の意思を示しました。7月にはナムトゥでTNLAがKIAの将校や兵士、カチン族の若者を一時的に拘束する事案が発生しています。2025年1月には、モンウィーのKIAキャンプをTNLAが攻撃し、領土を巡る争いが再燃しました。
KIAとMNDAAの対立
もう一つの主要な対立軸は、KIAとMNDAAの間に見られます。2024年2月、MNDAAはパンサイにおいて、KIAやSSPPの部隊が軍服や武装をしたまま通行することを制限しました。同年4月には、MNDAAがモンコーにあったKIA事務所を封鎖し、カチン族コミュニティが計画していたマナウホールの建設も禁止しました。6月には、シャン州北部のカンメイン村で、KIO/KIAが国民統一政府（NUG）と協力して高校を再開しようとした試みを、MNDAAが「中国語学校として開校されるべき」として妨害しました。2025年1月21日には、ムセ郡区モンボー地区で市場の税金徴収を巡る対立が激化しました。長年モンボーで活動してきたKIAに対し、MNDAAは1027作戦によってパンサイやモンコーを占領し、支配地域を拡大したため、モンボーに行政権を確立したいという思惑があり、これが対立の原因になったと考えられています。
FPNCCはミャンマーの複雑な民族問題と政治情勢を反映した連合体であり、その活動は中央政府との関係だけでなく、内部の組織間の力学によっても大きく左右されています。
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